第七十二話
ロイエンは浮遊器にぶら下がって中型ゴンドラに戻り、未だ浮かんだままのゴンドラを地上のサーシャのゴンドラに並ぶ位置に降ろす。その間にシーリスは移動でサーシャとマリアンを連れて地上に降り、傀儡だった土の山に歩み寄る。
『生成!』
兵士達の動きが鈍かった理由がゴーレムにあるのは察していたので一旦解除したのだが、それをまた生成した。土を再利用したのは穴ぼこを増やさない配慮である。このゴーレムの役割はゴンドラの警備。今の時点でこの町の守備隊を信用するのは無理なので、その代わりをさせる。捜査に協力する間はルセア一人だけが残されることになり、心配も一入なのだ。
『いでらっで(いってらっしゃい)』
『直ぐに帰るわ』
ルセアと一言挨拶を交わし、シーリスはロイエン、サーシャ、マリアンと共にドレッドに随って守備隊の屯所へと向かった。
その道すがら、サーシャが爛々と瞳を輝かせてきょろきょろと周囲に視線を這わせる。何もかもが初めて見るもので、「凄いです。凄いです」と全く落ち着きが無い。まるでお上りさん。その実は正反対だが。
これと言うのもゴンドラに籠もっていたからだ。家出をしてノルトを追い掛けたまでは良かったが、行方が知れない。捜すには町中での聞き込みも必要だ。ところがその際に暴漢が襲って来たらと、もしもも考えなければならない。マリアン独りならどうにかできなくはないが、サーシャを守り切るのは難しい。安全を考えればサーシャはゴンドラに籠もるよりなかった。そのことを苦汁を飲んだ表情で告げたマリアン。サーシャはそんなマリアンに労いの言葉を掛けつつ、その事実を受け入れた。もしもノルトが早々に見つかったなら、クインクトも居ることになるのでこうはならない筈だった。
事情は痛いほど解っている。それでも傍に居れば恥ずかしい。マリアン、顔真っ赤。穴が有ったら入りたいとばかりに縮こまる。
そんなマリアンの心情をサーシャが知る由もなく……。
「マリアン! 土が剥き出しの道なんて凄いですね!」
ライナーダ王国の王都では舗装していない道が殆ど無い。王族が目にするような表通りには皆無。だからサーシャは舗装した道しか見たことが無いのだ。土の道路が珍しい。
しかしマリアンは焦る。
「シーッ! シーッ! シーッ! 姫様、シーッ!」
使用人が主人に、ましてや王族に示す態度ではないが、思わずそうした。道行く幾人もが一瞬だけジロリと睨んだのだ。
サーシャはそのマリアンの反応に少し口を尖らせる。態度が気に入らないのではない。共感して欲しいのに咎め立てられたことが面白くない。しかし「表通りも舗装されてないのがこの町の人には恥ずかしいのです」と耳打ちされると、急に恥ずかしくなって顔を真っ赤にしたのだった。
守備隊の屯所に着くと、屯所は事の次第に大騒動だ。そんな中で隊長はまずマリアンに応対した事務員を呼び出した。そしてドレッドの顔を窺いながら言う。
「お前はクビだ。たった今、この場でだ」
「そんな!」
事務員は呆然とした表情で隊長とドレッドを交互に見る。更には少し離れた所に佇むマリアンも見る。
「彼女の訴えを聞き入れなかったからですか!?」
「そうだ」
隊長は頷く。そしてまたドレッドの顔を窺う。
「それから暫く身柄を拘束させて貰う。賊の一味の疑いが有るからな」
「何をおっしゃってるのですか!?」
「話は後でしっかり訊かせて貰う。連れて行け!」
隊長が控えていた兵士らに命じると、兵士らは事務員を拘束して連行した。
「サーシャ様はこちらへいらしてください」
ドレッドが事務員が連行されたのとは反対側へと案内する。すると直ぐに慌てた隊長が先導を引き継いだ。
「お前達は別室だ。その場に待機していろ」
サーシャに続いて歩くシーリスとロイエンにドレッドが言い放った。シーリスは足を止める。サーシャが止まったので必然的にだ。
「彼女達が別室なら私もその部屋に参ります」
そう言って梃子でも動きそうにないサーシャ。折れたのは勿論ドレッドの方だった。




