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魔王へのレクイエム  作者: 浜柔
第五章 聖女の心ここに在らず
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第七十二話

 ロイエンは浮遊器(フローター)にぶら下がって中型ゴンドラに戻り、(いま)だ浮かんだままのゴンドラを地上のサーシャのゴンドラに並ぶ位置に降ろす。その間にシーリスは移動(ムービング)でサーシャとマリアンを連れて地上に降り、傀儡(ゴーレム)だった土の山に歩み寄る。

生成(クリエイト)!』

 兵士達の動きが鈍かった理由がゴーレムにあるのは察していたので一旦解除(リリース)したのだが、それをまた生成した。土を再利用したのは穴ぼこを増やさない配慮である。このゴーレムの役割はゴンドラの警備。今の時点でこの町の守備隊を信用するのは無理なので、その代わりをさせる。捜査に協力する間はルセア一人だけが残されることになり、心配も一入(ひとしお)なのだ。

『いでらっで(いってらっしゃい)』

『直ぐに帰るわ』

 ルセアと一言挨拶を交わし、シーリスはロイエン、サーシャ、マリアンと共にドレッドに随って守備隊の屯所へと向かった。

 その道すがら、サーシャが爛々と瞳を輝かせてきょろきょろと周囲に視線を這わせる。何もかもが初めて見るもので、「凄いです。凄いです」と全く落ち着きが無い。まるでお上りさん。その実は正反対だが。

 これと言うのもゴンドラに籠もっていたからだ。家出をしてノルトを追い掛けたまでは良かったが、行方が知れない。捜すには町中での聞き込みも必要だ。ところがその際に暴漢が襲って来たらと、もしもも考えなければならない。マリアン独りならどうにかできなくはないが、サーシャを守り切るのは難しい。安全を考えればサーシャはゴンドラに籠もるよりなかった。そのことを苦汁を飲んだ表情で告げたマリアン。サーシャはそんなマリアンに労いの言葉を掛けつつ、その事実を受け入れた。もしもノルトが早々に見つかったなら、クインクトも居ることになるのでこうはならない筈だった。

 事情は痛いほど解っている。それでも傍に居れば恥ずかしい。マリアン、顔真っ赤。穴が有ったら入りたいとばかりに縮こまる。

 そんなマリアンの心情をサーシャが知る由もなく……。

「マリアン! 土が剥き出しの道なんて凄いですね!」

 ライナーダ王国の王都では舗装していない道が殆ど無い。王族が目にするような表通りには皆無。だからサーシャは舗装した道しか見たことが無いのだ。土の道路が珍しい。

 しかしマリアンは焦る。

「シーッ! シーッ! シーッ! 姫様、シーッ!」

 使用人が主人に、ましてや王族に示す態度ではないが、思わずそうした。道行く幾人もが一瞬だけジロリと睨んだのだ。

 サーシャはそのマリアンの反応に少し口を尖らせる。態度が気に入らないのではない。共感して欲しいのに咎め立てられたことが面白くない。しかし「表通りも舗装されてないのがこの町の人には恥ずかしいのです」と耳打ちされると、急に恥ずかしくなって顔を真っ赤にしたのだった。


 守備隊の屯所に着くと、屯所は事の次第に大騒動だ。そんな中で隊長はまずマリアンに応対した事務員を呼び出した。そしてドレッドの顔を窺いながら言う。

「お前はクビだ。たった今、この場でだ」

「そんな!」

 事務員は呆然とした表情で隊長とドレッドを交互に見る。更には少し離れた所に佇むマリアンも見る。

「彼女の訴えを聞き入れなかったからですか!?」

「そうだ」

 隊長は頷く。そしてまたドレッドの顔を窺う。

「それから暫く身柄を拘束させて貰う。賊の一味の疑いが有るからな」

「何をおっしゃってるのですか!?」

「話は後でしっかり訊かせて貰う。連れて行け!」

 隊長が控えていた兵士らに命じると、兵士らは事務員を拘束して連行した。

「サーシャ様はこちらへいらしてください」

 ドレッドが事務員が連行されたのとは反対側へと案内する。すると直ぐに慌てた隊長が先導を引き継いだ。

「お前達は別室だ。その場に待機していろ」

 サーシャに続いて歩くシーリスとロイエンにドレッドが言い放った。シーリスは足を止める。サーシャが止まったので必然的にだ。

「彼女達が別室なら私もその部屋に参ります」

 そう言って梃子でも動きそうにないサーシャ。折れたのは勿論ドレッドの方だった。


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