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魔王へのレクイエム  作者: 浜柔
第五章 聖女の心ここに在らず
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第六十話

「姫様、ただいま戻りました」

 出掛け先からゴンドラに戻ったマリアンが被っていたフードを脱ぎながらサーシャに告げた。

「首尾はどうでした?」

「魔法結晶買い取り屋を一通り回ってみたところ、それらしき人物を見た者がおりました」

「そうでしたか……」

 サーシャとマリアンはノルトを追って旅立ったものの、直ぐに見失った。それでもノルトが向かうと言っていた魔の森の近くまで行けば手掛かりが掴めるだろうと、山を越え、魔物猟師の町の一つを目指した。そうして辿り着いた町でノルトを捜したが見つからない。だからその町から()隣の町から町へと足を延ばして捜した。しかしどこでも見つからなかった。だから折り返して西の町を訪ねたところ、ノルトらしき人物の目撃証言が有ったのだ。

「やはり西()だったのですね……」

 ノルトが最初に訪れたのはサーシャが最初に訪れた町より西に在る町だ。そこからノルトは西へ向かっている。しかしそのことをサーシャやマリアンが知る由も無かったので、一か八か東へと捜索の足を延ばしていたのだ。

「ナペーラ王国に行ったと思われますが、今から追い掛けても行き違いになる可能性が高うございます」

「そうですね……」

 サーシャは意気消沈していた。勢いで飛び出して来たものの、ノルトに会えなければまるで意味が無い。

「姫様、申し訳ございません。わたしが姫様を唆したばかりに不自由を召されまして……」

 意気消沈しているのはマリアンもであった。マリアン一人では暴漢に襲われた時にサーシャを守り切る保証ができない。だからサーシャに願い出て、ゴンドラに籠もって貰っているのだ。

「とんでもありません。私にとっては今この時の方が以前より自由ですよ」

「姫様……」

 サーシャの心遣いに感涙するマリアン。

「マリアン……」

 応えるようにサーシャも涙ぐむ。

「ほお、これは麗しい主従愛と来た」

 突然の野太い男の声。振り返れば、ドア枠に寄り掛かるように髭面の男が斧を抱えて佇んでいた。マリアンは身構える。

「何者!?」

「あー、強盗さんだー」

 マリアンの誰何に、戯けたように返す男。

「強盗だと!? ここの警備は何をしている!?」

「警備さーん、出番ですよー。はーい。あ、俺だー」

 ニヤニヤしながら二人をからかうように男は言った。

「警備が強盗!? そんなことをやっていいものか!」

「いいんじゃねぇか? こうしてやってるし」

「それではこの町に人が寄り付かなくなって、町が成り立たなくなるではないか!」

「はっはっは、そりゃ足が付かないように普段は普通に警備をしているから大丈夫さ。たまに来る、ぶっ殺しても足が付かなそうな、そう、別嬪さん達みたいなのからこっそり頂いちまうって寸法よ」

「なんと悪辣な……」

「おう、もっと褒めてくれ」

 男のニヤニヤは止まらない。

「しかしこんな別嬪さん二人だけとは不用心だな。だからこんな強盗さんに襲われるんだぜ?」

「強盗の言うことか!」

「普段は警備さんなものでな」

 そんなことを言いながら、男はサーシャとマリアンを(ねぶ)り回すように見る。

「それにしても二人とも売り飛ばせば高値が付きそうだ。お姫さんともなれば相当なもんだぜ」

「な、な、な……」

 マリアンは逆上しそうになる自分を抑えるのに苦労した。人身売買など完全に裏社会の出来事で、一度(ひとたび)そこに押し込められれば、這い出られる可能性は極めて低い。そんな所には間違ってもサーシャを連れて行かせられないのだ。そして今この時、サーシャを守るのはマリアンしか居ない。

「そんなことはさせません!」

 マリアンは冷静に対処するように努めつつ、ナイフを抜いて自らを鼓舞するように宣言した。弓が使えれば良いのだが、生憎と普段から持ち歩くようなことはしておらず、仮に手許に有ったとしても間合いが近すぎる。

「別嬪さんさあ、別嬪さんがさせるさせないじゃなくてさあ、俺がするかしないか何だぜ?」

 ニヤニヤしながら言った男は一転、斧をマリアン目掛けて振る。それは顔を掠める寸前の軌道を取っていたが、マリアンはついナイフの刃を合わせてしまう。それは男の狙い通りであった。

「つっ……」

 マリアンは斧で手からナイフを弾き飛ばされ、その衝撃に苦悶の表情を見せる。

「いいねぇ。別嬪さんの苦しげな表情は堪らないぜぇ」

 男は斧を持っていない左手でマリアンを掴みに掛かる。しかしそれは寸前で障壁(バリア)に阻まれた。サーシャの魔法だ。

「ほお、バリアか。どこまで持つかねぇ」

 男がバリアに向けて連続で斧を振るうと、バリアは衝撃に堪えかねるように揺らいだ。

 パリン。

 斧が振るわれること数十回。バリアは軽やかな音を立てて砕け散った。


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