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魔王へのレクイエム  作者: 浜柔
第三章 魔王に敗北した勇者
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第三十六話

 シーリスは朝の目覚めを迎えた。そう、ロイエンを待ちながら、いつしか眠ってしまっていた。生成したままの傀儡(ゴーレム)が自立して防御してくれるし、念のためにルセアも纏めて障壁(バリア)を張っていたので安全安心。ゴーレムを壁にしなかったのは目隠しの必要が無く、却って邪魔になるからだ。

 目覚めたものの、直ぐには自分がどこに居るのか思い出せず、ぐるぐると周囲に視線を彷徨(さまよ)わせる。窓の無い大きな建物の内部、ぐったりと横たわっている男が七人、見張りらしき座った男二人、ゴーレムが押さえ付けている男二人、そしてルセア。

『夢、ではないのね……』

 昨日のことを思い出すにつれ、却ってそれが夢の中の出来事のように感じられた。魔王の放った魔法で死に行く刹那に見る幸せな……、と言えば少々語弊があるが、概ねそんな感じの夢だ。

 現実のようだが、夢なら夢で構わないと考える。もしも夢なら、目覚めは死を意味する。だったらこの夢の世界を存分に楽しんでからでも遅くはないのだ。

 ともあれ、ここが現実として動く。起き上がり、まずは床材を材料に深いタライを魔法で作る。これはゴーレムではなく純粋な土魔法だ。その桶で零れる水を受けるように、口を濯いで顔を洗う。タオルが無いので水滴は服の袖で拭った。

『はよずんだ(おはようございます)』

 ルセアは水音に起こされたのだ。

『おはよう。あなたもこっちに来て顔を洗いなさい』

 シーリスは手招きと顔を洗う仕草を交えて誘う。そうしなければ話が碌に通じない。

 言われたルセアは、シーリスが言わんとすることを理解できはしたが、「水も無いのに」と戸惑うばかり。ここに居るのがこんなに長くなるとは思っていなかったので水筒を持参していないのだ。

 シーリスはルセアが戸惑う様子に軽く首を傾げるが、シーリスが水を出せると知らない人は大抵こんな様子だったと思い出し、右手の人差し指の先から水を出して見せた。その上でまた手招きをする。

 ごくん。

 ルセアは驚きに目を見開くと同時に、反射的に喉を鳴らした。水筒からではなく指の先から水を出したのにもびっくりだが、昨日から何も飲んでいないのでカラカラだ。

 シーリスはルセアの予想外の反応に目を(しばたた)くが、直ぐに「そう言えば」と小さく頷く。シーリス自身は喉が渇けば魔法で口の中に少量の水を湧き出させて飲む。だから渇き知らずなのだが、他人はそうではない。パーティーを組んだ際にはシーリスがカップなどに水を出して仲間に供給していた。それと同じことなのだ。

『この水は飲めるから飲みたければ飲んでいいわよ』

 上を向いて口を開け、その少し上に翳した人差し指から水を出して口で受け止める。そしてごくんと喉を鳴らして飲んで見せた。

 するとルセアがいそいそとシーリスの傍に寄った。

『水だ貰えだか?(水を貰えるのですか?)』

『ええ。こっちで好きなだけ飲んで、顔を洗いなさい』

 タライの上に手招きし、その上で水を出し始める。

 ルセアはシーリスの用意の良さとどこから出て来たか判らないタライに驚くが、それは後回しだ。

『助かだず(助かります)』

 ルセアは軽く手を洗ってから手で水を受け止め、その手に口を付けてゴクゴクと水を飲む。心行くまで飲んだら続けて顔を洗った。

『はー、ありがでずんだ(はー、ありがとうございます)』

 洗い終わって礼を言ってから、手首から先をだらんと下げ、細目でキョロキョロと周囲を見回す。当然ながらタオルなど無い。ハッと顔を上げ、それからカクッと肩を落として服の袖口で拭った。

 この二人の様子は、見張りで起きていた者と朝になったから起き出した者とに驚きをもって見られていた。床材でタライを作るのもそうだが、指先から水を出したのも驚きだ。今の水筒が有る時代、魔法を憶えるよりも水筒を携帯した方が簡単だ。そもそもどうすれば憶えられるのか、どこに行けば教えて貰えるかも判らなくなっているのだ。

 そんな彼らは騎士の一人が携帯していた水筒で水を回し飲みする。目の前で水を飲む様子を見せられたことで、自分も喉が渇いているのも思い出さされてしまったのである。

 すると今度はシーリスが驚く。最初はおかしな形の水筒だと思っただけだ。しかしシーリスが知っている水筒は水を湧き出させたりはしないので、飲んでいれば尽きる。ところが彼らの水筒は明らかに容量を超えても尽きない。

『あの水筒は何?』

『普通な水筒だで?(普通の水筒ですが?)』

『普通って……、水が尽きないなんて普通じゃないでしょ』

 ルセアは首を傾げる。シーリスが何を驚いているのか理解できないし、微妙に言いたいことも判らない。

 シーリスも首を傾げる。ルセアが首を傾げる理由がさっぱり判らないのだ。


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