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魔王へのレクイエム  作者: 浜柔
第二章 魔王は古に在り
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第二十一話

 リビングを出たノルトが向かったのは貨物室。まっしぐらだ。別に競歩のような歩き方はしていないが、脇目も振らずに歩く姿はまっしぐらに違いない。

 ランプを点けて遺物の書籍を検分する。今直ぐにでもこのゴンドラを出て行きたい気持ちは有るのだが、遺跡調査を優先して遺物の検分を後回しにしていた都合、持って行かなければならない書籍の整理ができていない。早々にそれを為そうと言う訳だ。この際、書籍以外の遺物は無視する。魔法結晶以外に重要そうなものが見当たらないからだ。その魔法結晶も箱の方が重要に見える。

 この三日間も就寝前の夜の時間を使って整理を進めていた。書籍と言うのもそれなりに厄介なもので、最初のページを少し読むだけで小説と判るものも有る一方、少し読み進めなければはっきりしないものも有る。そのために(なか)ばまでしか終わっていない。

 持ち出そうとしている書籍は二種類。一つは研究に必要なもの。もう一つは国がその存在を知れば焚書してしまう可能性のあるものだ。魔法についての本と日記のどちらもが両方に当て(はま)る。他に確保しなければならないのは歴史書の(たぐい)である。

 どうして歴史書か。それは、一般に流布されている歴史においてはあまりにもラインク王国が美化されているからだ。その中で育ったためか、ノルトでさえ日記に書かれた内容が少なからず不愉快だった。美化されていると認識し、努めて偏見を入れないようにしていてそれなのだ。普通に美化された歴史を信じている人々には我慢できないに違いない。ラインク王国が野蛮だったなどと言う歴史書が目の前に有ったなら、あっと言う間に偽書として闇に葬られることだろう。

 実のところ、焚書の危険は小説などにも有り、同じものが二度と手に入らない見込みも同じだ。しかし小説は架空のものだし、いつか似たようなものが書かれることもあり得るので重要度が下がる。全てを望んでは切りが無く、どこかで妥協が必要なのだから、虚実を描いたものは諦めるのが道理である。

「で、いつにするんだ?」

 クインクトだ。ノルトが作業を続ける貨物室にやって来た。「どうする」とはもう聞かない。

「手は少し早めていますが、このまま寝ずに続けても夜が明けそうですね」

 こんなことなら今日の日中も整理をしていれば良かったとも思うノルトだ。夜に整理するのをルーチンワークにしてしまっていた。

 しかしながら日記を全部読んでいなければ、この先どこに向かうかの指針も得られず、出て行く決断もできなかったかも知れない。

「夜逃げは無理そうだな」

 それだけを言って、クインクトは貨物室から出た。


 コンコン。

「ノルト、少し宜しいですか?」

 サーシャがノルトの部屋のドアを叩くが返事は無い。ノルトは貨物室に居るのだから当然だ。しかしそうとは知らないサーシャは無視されているのかと思って(うつむ)き加減になる。このまま(きびす)を返してしまいたい誘惑に駆られる。

 しかしこのままではいけないと、顔を上げてドアハンドルに手を伸ばす。

「ノルト……」

 鍵が掛かっていて当然であっても、不思議と人は試してみるものだ。ただ、このドアに鍵は掛かっていない。

 ノルトは誰かが来た時に鍵を開けるのが面倒だとの理由で鍵を掛けない。クインクトのことだ。と言うのも、来るのがクインクトとマリアンに限られ、マリアンが食事などの呼び出しにドアの外から声を掛けるだけなので、部屋の中まで入るのはクインクトだけなのだ。

「ノルト?」

 ドアをそっと開ければ、主不在の部屋の中は灯りが点いていなくて暗い。それでもノルトが不在だとは思っていないサーシャはテーブルの在る左右を、そしてベッドの在る奥に目を向ける。見当たらないので灯りを点けてもう一度だ。

「居ないのですね……」

 そこまでして漸くノルトの不在を理解したサーシャは溜め息を吐くように言った。

 そして、弱からず張っていた緊張の糸がぷつんと切れたことで気が抜けたのだろう。ふらふらと中に入る。ベッドまで歩いて座り、こてんと身体(からだ)を横に倒す。

「ノルト臭い……」

 そんなことを呟きながら、気疲れからか、そのまま夢の世界に入って行った。


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