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魔王へのレクイエム  作者: 浜柔
第二章 魔王は古に在り
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第十七話

 発掘を始める予定だった調査五日目は朝から雨模様で、発掘は延期だ。時間が空いてしまったため、ノルトは回収済みの遺物の検分に勤しむことにした。回収した遺物は全て一緒に貨物室に収納していたので、そこから読むのが途中までだった日記と適当な数冊の書籍を選んで自室に戻る。椅子に腰を落ち着かせてしまえば、ゴンドラの船体を叩く雨の音だけが聞こえてくる。

 日記を(めく)る。


 721年10月25日。

 ラインクが本格的に出兵し始めた。雪で通れなくなる前に山の向こう側で橋頭堡でも築くつもりなんだろう。この町のラインク兵もそれに駆り出されたらしい。皮肉なのは、そのお陰でこの町は平穏になったことだ。


 721年11月17日。

 トーリが陥落しただって!? まだ噂の段階だが気が気じゃない。くそっ、平和が長すぎたんだ。帝国軍が弱すぎる。

 とにかく家族が心配だ。しかしラインクがうろうろしていたんじゃ、向こうに行こうにも行けない。


 721年12月6日。

 山の向こうで天に届く火柱が立った。「火柱が立った」と喚いている奴が居たから「そんな馬鹿な話があるもんか」と温和しくさせようとみんなが集まったところにまた次々と火柱が立った。世界の終わりを見た気分だ。


 722年3月18日。

 やっと峠の雪が溶けて山の向こうの様子が判った。いつかの火柱はノーラらしい。トーリでなくてほっとした。

 向こう側に行ったラインク軍は全滅したらしい。火柱に焼かれたと言う話だ。しかしそんなことができる魔法士は聞いたことが無い。もしかして勇者か?


 722年4月11日。

 トーリから帰って来た。いや、帰って来たと言うのはおかしいか?

 トーリは随分と荒らされ、大勢が殺されていた。それもこれもラインクの仕業だ。

 不幸中の幸いで、家族はどうにか無事だった。しかし屋敷は滅茶苦茶だ。早くこっちに有るものを纏めて向こうに持って行ってやらなければ、家族が明日にでも路頭に迷う。

 意味が判らないのは、山の向こうじゃ誰も勇者のことを知らなかったことだ。誰に聞いても「勇者なんて聞いたことがない」だ。何で向こうの奴らが知らなくてこっちに噂が流れてた?


 722年4月16日。

 またラインクの出兵だ。峠も通れなくなった。


 722年7月4日。

 帝国の首都が陥落したらしい。皇帝も皇族も殺されたそうだ。帝国が滅びたんだ。あまりにも呆気ない。

 くそっ! ラインクに比べたら帝国は何百倍もマシな国だったぞ!


 722年9月10日。

 峠はまだ通れない。その原因のラインクの兵士が話してたって話を聞いたんだが、ラインクは魔王討伐に乗り出したらしい。

 魔王なんていつ現れた?


 722年11月19日。

 ラインクの魔王討伐は失敗したそうだ。

 そして今度はラインクが勇者を召喚したと言う噂だ。帝国の皇族しか勇者の召喚ができないと聞いていたが?


 724年4月5日。

 あれ以来、峠はラインクが閉鎖したままだ。みんなが無事ならいいのだが。

 ラインクがまた勇者を召喚したらしい。前の勇者はどうなった?


 743年12月7日。

 火柱だ! 火柱が来る! 山の向こうからどんどん火柱が上がるのが近付いてくる!


 日記の主は商売人で峠を越えて商品を運んで売買していたらしい。そのための拠点としてこの町にも店を構えていたのだ。トーリと言う町に家族を残したまま、単身でこの町と行き来していた。

 これを利用してこの町で隠し財産をこさえてもいたようだ。魔法結晶と装飾品がそれだ。ついでに家族の目から隠れて楽しむ趣味の品も隠していたのである。

 日記は火柱が近付くと言うのを最後に途切れている。この町が火柱に包まれるのを日記の主は地下室で迎えたのだろう。その時に生き残ったかどうかは判らない。しかしもし生き残っていたとしても、命が尽きるまで恐怖で震えるだけだったに違いない。

 そして日記に書かれた火柱はその痕跡を今に遺している。町を中心にして大地が円形に焼け爛れた場所、そう遺跡だ。

「ラインクは散々な言われようですね」

 日記を読み終えたノルトは独りごちた。ラインク兵は随分と横暴だったらしい。日記の主はラインクの敵側の視点だからある程度は仕方ないにしても、ライナーダ王国の歴史書に書かれているラインク王国の兵士が随分と紳士的なのとは酷いギャップである。

 ノルトが気になるのは勇者召喚についてもだ。ログリア帝国は居もしない勇者を召喚した振りをしてラインク王国への牽制に噂を流したと見える。それにまんまと引っ掛かったラインク王国がその勇者を亡き者にしようとしたのだ。出兵の拙速さがそれを物語っている。

 ところが魔王がそこに出現した。そしてその十二年後に大崩壊が引き起こされたのだ。


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