表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/48

<第三章>・交差する過去

更新遅くなってしまい、すみません!

『蓮おやすみー。』


『おやすみ、司。』


午前一時。

あれから30分程度「心のよりどころ」に居残って作戦会議をした後、それぞれが帰宅の途に着いた。

もちろん、DV彼氏の待つ家にあの親子を返すのは気が気でない様子の司だったが、佐和が『この時間にはもう、あの人は寝てますから。』と言ったので、仕方なく今日は一時解散したのである。


晩御飯ももう済ませているため、司はお風呂に入ったのち、そのまま自室に入って眠りにつく。

そして蓮は、そのタイミングでそっと壁の向こうへと姿を消した。




『あ、来た来た。』

壁の向こうで待っていたのは────神路家の隣で暮らしている、烏江 聖であった。


『すみません、遅くなって。』

『ううん、解散した時間も時間だったから。

気にしないで。』


相変わらずの人の良い笑みを見せると、烏江は絨毯の上にそのまま座った。続いて蓮も、ローテーブルを挟んで烏江の真向かいに腰を下ろす。


『あ、あの……烏江さん。

手を、合わせてきても構いませんか?』

一人暮らしの男の部屋には到底似つかわしくない()()は、リビングの端の方で物々しく存在していた。


『君も変わらず律儀だなぁ。

構わないよ、好きなようにしてくれて。』


『ありがとうございます。』


立ち上がり、重い足取りでそこへと向かう。

左右に並んだ花立てには白い百合、手前に置かれた写真には、桜の下で頬笑む優しげな笑顔。

多分、入学式の写真だろう。真新しい茶色の制服に身を包み、少し恥ずかしそうに笑うその純粋無垢な瞳と、アクリル板越しに目が合った。


『紗耶香……』

その名を呼ぶだけで胸がつまる。

今でも鮮明に思い出すことが出来るほど、佐原 将太にとって大切な人だった。

いや、姿亡き今も変わらない。絶対に。


『………。』

鈴を鳴らすことは出来ないが、目を瞑り静かに手を合わせた蓮は、仏壇からそっとさっきの位置まで戻って言った。


『烏江さん。……僕を、恨んでいますか?』

うつむき溢した言葉は、震えていて。


『どうしてそう思うの?』

優しく問いかける口調が、蓮の胸を更にきつく締めつけた。


『それは、、、僕が、彼女を死なせてしまったから。』


写真の向こうで頬笑む人物──烏江 紗耶香は、16歳でその生涯に自ら終止符を打った。

原因は、クラスメイトによる悪質ないじめ。

文字にすると簡素に感じるが、実態はとても劣悪なものだった。


『蓮くん……いや、将太くん。』

久しぶりに呼ばれる名前に、蓮の背筋が伸びる。


『僕はね、これでも君に感謝してるんだよ。

あの子は、紗耶香は……とても寡黙な子だったから。

本にしか興味がなくて、友達が出来るかどうかも不安だった。』


将太と紗耶香の出会いは小学5年生。今から7年前の話だ。

転校してきた紗耶香は、物静かな愛書家だった。

例えるならば…まさに現代の二宮金次郎そのもの。

いつも難しそうな本を選んでは読み耽り、翌日目の下に大きな隈を作ってきては、蓮だってその度に心配したほどだ。


『…紗耶香から聞く君は、スポーツ万能で、成績優秀。いつもクラスの中心にいて、男女問わず人気者で。

正直、うちの妹とは真反対の立場にいる君が、どうして紗耶香と仲良くしてくれてるんだろうって、何度もそう思ったよ。』


そんな…と首を振る蓮に、烏江は続ける。


『でもね、紗耶香から聞く限り、君の人気はその飾らない優しさと気さくさにあるんじゃないかって思った。

だから、うちの妹とも仲良くしてくれてたんだよね?』


『それは、違います。』

烏江の目をはっきりと捉えると、蓮は佇まいを直した。


『僕も……本が好きだったから。

彼女とは、好きな作家が同じで。それで、仲良くなったというか……。』


将太が紗耶香に声をかけたきっかけは、まさに本だった。

将太自身も読書家で、生前は文学からライトノベルまで、多岐に渡っていろんなものを読んだものだ。

今は、その本にすら触れることは出来ないのだけれど。


『だから、その……。』

自分の語彙力のなさに絶望しつつ、蓮は口ごもる。

決して、“友達の少なかった紗耶香に同情して”友人関係を始めた訳じゃない旨を伝えたかったのだが、どう言葉を変えても角が立ってしまう気がして、続く台詞が見つからなかった。


でも、烏江の表情はいつにもまして柔らかい。


『ありがとう。』


『え……?』

戸惑う蓮に、烏江は言った。


『紗耶香が死んでから、もうすぐ2年が経つ。

君も知ってると思うけど、彼女の命日は今月だからね。』


今から2年前の11月26日。

烏江 紗耶香は、自室で大量の睡眠薬を摂取して倒れた。


『紗耶香が死んだ理由は知ってるよ。

紗耶香自身は何も遺してはくれなかったけど、全部司さんが教えてくれたんだ。』


『司が……?』

思わぬところで名前が出て、蓮は思わず聞き返してしまった。

烏江は、ゆっくりと頷く。


『2年前……紗耶香が死んでから、僕は廃人のように毎日を過ごしてた。

なにせ、二人家族だったからさ。

僕らの両親は……紗耶香が5つの時に他界してて。

それからは親戚宅をたらい回しにされて、あまりいい扱いは受けなかったよ。』


そう情けなく笑う烏江に、蓮は何と言っていいか分からなかった。


『それでね、最後にお世話になった家が本当に酷かったんだ。

自分の子には甘々なくせに、養子である紗耶香や僕には理不尽に当たってきたりして。

それでもう我慢ならなくなって、僕は卒業後すぐに働きに出た。

紗耶香と二人で、暮らすためにね。』


『だから、紗耶香は転校を?』


『そう。

小学5年生なんて中途半端な時期になっちゃったのは、その年に僕が高校を卒業したから。

在学時からアルバイトをして貯めていた数少ない資金を持って、親戚の家を出た。そして、ここに越してきたんだ。』


でも…と、蓮は軽く首を傾げる。

『このマンション、それなりに良いお値段しそうな気がするんですけど…。』


2LDKオートロックつきの比較的新しいマンション。

シンプルではあるが、一人暮らしと言うより新婚さんや少数世帯向けに造られているように感じる。


すると烏江は、それはね、と愉快に微笑んだ。

『ここの大家さんであり、<心のよりどころ>のオーナー兼大将でもある篠原さんが、僕達の境遇を見かねて安く貸し出してくれているんだ。』


篠原…と言う名で、蓮は先程の優しげな初老を思い出す。

確かに、彼なら烏江一家の境遇に胸を痛め、進んで世話を焼いてくれそうな人物だ。

『良い人に巡り会えたんですね。』

蓮がそう言うと、烏江は嬉しそうに頷いた。


『ほんとにね。

篠原さんには仕事まで紹介してもらったからさ。

少しずつではあるけど、この恩、一生かけてちゃんと返していくつもりだよ。』


気づけばもう、時計の長針がここに来たときとは180度真逆の位置にあった。

もうすぐ1時30分。本題は、いよいよこれからだ。


『それで……司とは何がきっかけで?』

蓮がそう切り出すと、烏江は声をワントーン落として言った。


『さっきも言ったように、僕らは二人家族だったから。

僕は妹のために生きてきた。妹は僕の生き甲斐だった。

だから……妹がいなくなって、僕は生きる理由を失ったんだ。

大袈裟かもしれない。でも……本当で……。』


『大袈裟だなんて思いません。』

蓮は強く否定した。

人間、誰にだって生き甲斐というものはある。

それが人であれ物であれ、失ってしまえば心に負う傷は計り知れない。

蓮だってそうだった。


『ありがとう。

…それでね、さっきも言ったように、紗耶香自身は何も遺していってはくれなかったから。

故人のことをあまり詮索するべきではないのは分かってるけど、それでも家族だ。しかも、たった一人の家族。


紗耶香が一体何を抱え、苦しんでたのか。それくらいは僕だって知りたかった。

だから、せめてもの思いで…紗耶香が死んだ理由を知ろうと動き回ったりしたけど、素人の僕では何も掴めなくって。』


学校側は、紗耶香の死について「思い当たる節がない。」の一点張りだった。いじめなどがあったのかどうか問われても『そんなものはない。』と言い張り、それ以上は答えようとすらしなかった。

それに警察も、自殺と処理した以上は何もしてくれなかったのを蓮も覚えている。


『だからか……疲れちゃったんだろうね。

一人分の料理をするのも億劫で、何日も食べない日が続いた。

夜も眠れなくて、虚無感だけがずっと胸に残ってて。

自分もいっそのこと死ねたらいいのに、なんて、縁起でもないことを思ってしまったりして。』


当時のことを思いだし、烏江は視線を落とす。


『そんな折、司さんと出会ったんだ。

とは言え、元々お隣さん同士で仲も良かったし、心のよりどころの常連客でもあったから存在自体は知ってたよ。

でも、ただ単に“神路家のお嬢さん”くらいの認識しかなくて、今みたいに気軽にお喋りするような仲じゃなかった。』


『お知り合い、程度の関係だったんですね。』


『そう。

で、司さんがいつもみたいに晩御飯を食べにウチに来たとき、司さんは僕を見て言ったんだ。


“烏江さんは、妹さんが何故亡くなったのかご存じですか。”と。』


相変わらず核心から切り出す司の話術に、蓮は彼女らしいなと目尻を下げる。


『それで、烏江さんはなんと?』


『まぁびっくりしたよね、とりあえず。』

ふふっと笑う顔は苦笑いに近く、でもどこか安心した様子で続きを語った。


『でもほら、このマンションにも報道陣は押し寄せてたからさ。

だから、司さんもきっと……僕の妹が死んだことはどこかで耳にしてたとは思うけど、まさか僕自身が思い悩んでいたことまで言い当ててくるなんて。

正直、こっちがびっくりしたよ。』


その当時はまだ、烏江は司が『悟りの館』の主であることを知らなかったらしい。


『まぁでも、司さんって平気で嘘をつくような人じゃないからさ。だから、意を決して聞いてみることにしたんだ。

そうしたら……彼女、凄く辛そうな顔で全てを教えてくれた。

紗耶香が学校で悪質ないじめにあっていたこと、その主犯が誰なのか、何故いじめが始まったのか。』


蓮もその一部始終を知る人間の一人だ。

なぜ司が深刻な面持ちで語ったのか、それくらいは容易に想像できた。


『司から教えてもらったのなら、もうご存じかと思いますが……』


蓮は、再度烏江を見てこう言った。

『烏江 紗耶香をいじめていた主犯格は、天都(あまつ) (はる)

──僕らが通っていた高校、()()()()()()()理事長、天都 清峰の娘です。』

説明回でしたので、台詞が多く読みにくかったと思います。すみませんm(__)m

後もう一話、この調子で蓮の過去が詳しく明かされていきます…。

良ければそちらも、最後までお付き合い頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ