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暁の〝星剣使い〟(あかつきの〝コスモダスター〟)  作者: よつふじあきたか
EPISODE5 『胎動する〝絶望〟(たいどうする〝ディスペア〟)』
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第269話 まさかの窮地

見通しの悪い森を抜けて、ミシェルとリリィの二人は広い場所に出た。


「ここは───」


学院のグラウンドくらいの開けた場所に大きな泉があり、その中央付近に小さな島が見える。そしてその島にはまるで突き立てられたような縦長の巨大な岩が立っている。


その泉のほとりに二人は降り立った。


「どうやらあそこがこの結界の中心地。要石というやつのようね」


「たしかにあのねじれた縄───注連縄(しめなわ)とこの国で呼ばれている印が巻かれていますし間違いありません」


聖域ならではの清々しさを二人は感じていた。


「おかげであの負の影達もここまで入ってこれないようですね」


「おそらくここの結界の広さはあの要石を中心とした、半径およそ一〇〇メートル前後の半球状。予想通りここの結界はあの要石を守るためのモノ」


ミシェルは夜空を見上げる。


「そしてこの外側に山を取り囲むような大きな結界。これも意外と強力なモノのようね。あの負の影達が這い出して来たのはあの強大な妖気のせい……」


「あの妖気は既に消えています。私達が森を駆け抜けている最中に。ですが負の影(れんちゅう)が消える気配はありませんね」


内側の結界のすぐ外側に黒い影が蠢いているのが二人には見えている。


「外側の結界の効力が弱まっているか、強い効力をモノともしないか、もしくはその両方が考えられます」


「あるいは、呼び出された負の影(あれら)を利用している何モノかがいる」


その時ぞくりと、ミシェルの背中を悪寒が走った。

直後、一秒にも満たない一瞬だけだがもの凄い速さで上昇していくような圧力が全身にのしかかった。さながらスペースシャトルに搭乗する宇宙飛行士にかかるGのような。


「今のは───?」


二人の心身に異常は見られない。

だが周囲に変化が訪れていた。


「結界が消えて……いえ、極度に弱まっています」


「まさかさっきの?」


一瞬地面に強く引き寄せられたことを言っている。


「おそらく」


「やはりワタシ達以外の何モノかが近くにいる」


不意に周囲がざわつきだした。


「結界が弱まって負の影(やつら)が結界の中に侵入してきたようですね。つまりは……」


「誰かさんの目的が今夜たまたま調査に来ていたワタシ達でないとするなら、狙うべきはただ一つ」


要石。


誰の目にも明かな答え。

そして、


「要石を狙うということはやはりこの地には何かありそうね」


「この地に眠る何か、物か生物か、はたまた私達の未だ知り得ぬナニかか。それを呼び起こそうと画策しているということでしょう」


「それが何かは分からないけれど、負の影(こいつら)を見る限りはとても人類に恩恵をもたらすモノではなさそうね」


ミシェルが(ケイン)を翳すと空一面に氷の槍が顕現(あらわ)れて、負の影らに向けてそれが降り注いだ。


それは悉くを貫いたものの、散ったそばからまた集まって姿形を取る。


「では、これではどうでしょう」


今度はリリィが祈るように胸の前で手を組むと、光の環が急速に拡がっていく。弱まった結界の代わりに自らの神気を周囲に張り巡らせた。


だが次の瞬間、再び大気の重圧が全身にのしかかった。

するとリリィの張り巡らせた神気が地面に吸い込まれていくようにして消えてしまった。


間もなく謎の重圧は解けた。


「こ……れは───」


リリィが膝をつく。


「リリィ?」


「〝力〟が……、神気が……使えません」


「神気が使えない? ワタシは何ともないけど……まさか」


ミシェルの魔力はまだ充溢するほどにある。


「さっきの重圧が神気だけを奪い取った? でもワタシの魔力は少しも奪われていない。これは……?」


「わかりません。ですがそれが事実。実際今の私はこの姿を維持するのが精一杯で、戦うのは難しいかもしれません。ましてや〈ガン・ロギ〉で負の影(ヤツら)を薙ぎ払うことなど不可能です」


彼女の言葉を証明するかのように、その姿が透けて見えたり、実体を持ったり、寿命間近の蛍光灯のようにチカチカしている。


「ならば、ワタシの魔術で殲滅しつつこの場から離脱する」


「それが最善かと」


ミシェルが浮かぶ(ケイン)に乗り、リリィを乗せようとしたその時、三度(みたび)大気の重圧が二人を襲った。


「くっ……、これではさすがに飛べない───」


先程の二回の重圧に比べて、地面に押さえつけられそうなほどに二人にのし掛かる。


「どうやら、大元を叩く以外……この場から逃れる方法はないようですね」


そんな中、負の影達はゆらゆらと二人へと近づいていく。それは少しずつ迫ってくる真っ黒な津波のようだ。

だが二人は片膝立ちすらも出来ないほどに追いやられていて、それに飲まれるのを待つばかりだった。


「舐めてもらっては困るわね。ワタシの〝力〟を───」


だがミシェルの魔術は発動しない。


「これは───」


「どうやら発動したそばから……私の神気のように地面に……吸い取られてしまって……いるようですね」


「ならば───!」


ミシェルが腰の後ろに携えている〈ニヴルヘイム〉に手を伸ばす。直後、光が奔ったと思うと、


──────ザンッ!!


と斬り裂く音が聞こえた。

不意にミシェル達にのし掛かっていた重圧が消えた。


「これは……?」


立ち上がったミシェルが見たのは、二つに割れた負の影達の波。

そしてその先に、黄金色に輝く覚醒装束〈レイディアント・ハート〉を纏った明星美那の姿だった。




つづく

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