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暁の〝星剣使い〟(あかつきの〝コスモダスター〟)  作者: よつふじあきたか
EPISODE4『再来する〝終末〟(さいらいする〝ワールドエンド〟』
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第209話 涼香④

「く、そぉぉぉ……っ!!」


叢丞は気合いを入れ直し、〝力〟を屈服させようと集中する。


───それがいけなかった。


当主の選別として試されるのは〝心〟〝技〟〝体〟の三つ。


〝技〟に関しては申し分ない。


〝体〟は成長中。


〝心〟には更に絶対条件が存在する。


それが八澄の真なる〝力〟、【陰陽八道いんようはちどう】である。

陰陽八道それ】に関しては当時から片鱗を見せていたので問題は無かった。


しかし精神的な面でまだ彼は幼かった。その為、ギリギリ合格か否かの線を行き来している状態だった。


そんなただでさえ危うい均衡状態だったモノが、〝技〟だけ更に突出させてしまった為に均衡が崩れ、その反動が表れる。


「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


数多の頭を持つ龍の如き稲妻が、結界の内側を所狭しと暴れ回る。


「───ッ!!!」


稲妻に撃たれ声を発する間も無く涼香が結界の外へと弾き出された。


「すず……か?」


それを目の当たりにした叢丞の中で何かが弾けた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!!」


叢丞の理性のタガが外れた。

稲妻の龍がのたうつように暴れる。


そして、理性のタガが外れて発動したモノがもう一つあった。


『叢丞ッ!!』


叢丞の脳裏にハッキリと咲夜の声が聞こえた。咲夜の声だけではない。


『叢丞さん……』


『叢くん、頑張って』


この場に居ない筈の咲乃と茉莉の声までもハッキリと聞こえた。


『ウォゥ〜〜ン!!』


白銀の遠吠えまで聞こえた。


強いえにしを持つ者同士を繋ぐ事で〝力〟を発揮する八澄家独特の思想【陰陽八道いんようはちどう】。


叢丞の理性のタガが外れることで無意識のうちに発動し、特に結び付きの強い者達の想いが流れ込む。


(……聞こえますか? あなたを想う声が)


不意に叢丞に語りかける声がした。


「だ……、誰だッ……?!」


突然の叢丞の声に周りが戸惑いを見せた。


(心を鎮め、耳を傾けるのです)


その声を聞いていると不思議なことに、荒れた海のようだった頭の中がほんの少しだけ穏やかになり、理性を取り戻すことに成功した。


「心を、鎮め……」


叢丞は取り戻した理性を総動員して、心の時化(しけ)を鎮めていく。


すると次第にのたうつ稲妻が消えていき、やがて完全に消えた。

しかしそれに喜ぶ者はおらず落胆した顔が並んでいた。


(どうやら儀式は失敗のようですね)


「失敗……、───そうだっ」


今しがた自分のしでかした事を思い出した叢丞はキョロキョロとその姿を探した。


そしてすぐに、修練場の端で涙を流している颯季の姿が目に入った。


「───ッ!!」


その母に抱えられている、痛々しい姿と成り果てた涼香と目が合った。


「すず……か?」


その力の無い様子が叢丞の心臓をぎゅぅっと締めつける。


颯季に抱きかかえられたまま叢丞へと手を伸ばす涼香。

その手を取ろうと言うことを聞かぬ身体を這わせて少しずつ近づいていく叢丞。


「あ……」


涼香の唇が『にいさま』ともう声にならない声なにかで呼んでいるのが分かった。だが叢丞の手が届く前に、


「あぁっ……」


力尽きてゆっくりと修練場の床に落ちた。


「───っ!!!」


そして叢丞の〝力〟が再び爆発しそうになる。


(妹を守るどころか、傷つけるしか出来ないなんて、こんな〝力〟───ッ)


そう強く想った瞬間、全身から〝力〟が抜けたかのように立っていられなくなり、叢丞はその場に倒れこんだ。


「叢丞ッ!」


朦朧とする意識の中で、叢丞はすぐ傍からの咲夜の声を聞いた。そして、


(今はそのまま眠りなさい。目が覚めた時、すべては…………)


謎の声が何かを伝え終わる前に、叢丞の意識は途絶えた。




それからどれ程の時間が経ったのか彼には分からない。


やがて叢丞の意識が覚醒する。


「……………………ぁ」


「叢丞っ!」


まず目に入ってきたのは、見た事もないような心配そうな咲夜の顔だった。


「さく……や?」


どうしてそんな心配そうな顔をしているのか不思議な叢丞だったが、それはすぐに分かった。儀式で起きた凄惨な光景が叢丞の脳裏に甦る。


「涼かッ……痛つぅ!」


跳ね起きると同時に叢丞の全身を激痛が駆け抜けた。


「無理をするな! お前だって生きているのが不思議なくらいの痛手なんだぞ!」


「僕のことよりも……涼香は?」


咲夜が、まるで小さい頃のような、今にも泣きそうだけど我慢しているような顔になった。


「───っ!!」


嫌な予感がして叢丞は周りを見回す。しかし涼香の姿はない。


と、そこに障子が開く音がした。そして、


「兄様! お目覚めになりましたか!」


「───ッ」


叢丞が振り向くと、そこには元気な姿の涼香の姿があった。


「すず、か……?」


「はい」


「本当に涼香なの?」


「まだ寝ぼけていらっしゃるのですか、兄様?」


「だって儀式に巻き込まれてお前は……ッ!?」


その時の光景がありありと思い出されて叢丞は心臓が締めつけられているように苦しくなった。


「叢丞、お前、悪い夢でも見たんだな」


「え? 夢……?」


「はい。私は儀式には参加しておりませんよ?」


「そんな、でも確かに……ッ」


涼香に歩み寄ろうと立ち上がる叢丞だが、激痛がまるで身体に絡みついた縄のように動きを制限すし、叢丞はすぐに膝をついた。


「兄様っ」


逆に叢丞に駆け寄る涼香。


だが叢丞に触れそうなところでその手が一瞬止まった・・・・


しかし膝をついただけでなく、その場に倒れてしまいそうだったので、その一瞬の後は躊躇いなく叢丞の身体を支えた。


「……ありがとう、涼香」


しかし涼香からは何も返ってこない。


「涼香?」


不思議に思って見上げると、涼香は泣いていた。


「す、涼香? 一体どうしたんだい?」


「え? あ……」


涼香は何かに気を取られていたのか、ハッと我に返るとゴシゴシと着物の袖で涙を拭いた。


「な、なんでもありません。兄様がお目覚めになったのが嬉しくて」


「そんな、大袈裟だな」


叢丞の胸の奥がチクリと痛む。だが、全身の激痛に紛れて自覚出来ていなかった。


「こほん」


二人のやり取りを見兼ねたのか、自分の存在を誇示したかったのかは定かではないが、取り残された気分だった咲夜が控えめに咳払いをした。


「水を差すようで申し訳ないが、叢丞に伝えなくてはならないことがある」


それを思い出したのか、涼香はそっと叢丞から離れた。


「なんだい、改まって?」


「落ち着いてよく聞いてほしい、叢丞」


咲夜は躊躇うように間を空ける。


「うん、僕は落ち着いてるよ。むしろ咲夜の方がなんだか緊張してるみたいだけど」


「……そうだな。少し緊張しているかもしれない」


そう言うと咲夜は深く息を吸い、そしてゆっくりと吐いた。


「よし」


そして気合いを入れ直して、再び叢丞の目を見た。


「単刀直入に言う。叢丞。お前は〝力〟を喪失した」


「え?」


はじめ叢丞は咲夜が何を言っているのか分からなかった。


「お前から一切、呪力を感じ取る事が出来ない」


咲夜は当時既に天才と呼ばれていた。その咲夜が叢丞から呪力を感じ取る事が出来ないということは、彼女の言葉そのまま叢丞が呪力を、八澄家の跡取りたる証を失ったことに他ならない。


叢丞は俄かには信じられなかった。しかし、


「……ッ」


叢丞も叢丞で神童と呼ばれていた。その所以たる〝力〟が自分の中から無くなっていることにすぐに気づいた。


これまで当たり前にあったモノが無く、まるで自分の半身が欠けたようなそんな感覚があった。


「そん、な……」


覚えが無いわけではなかった。

儀式の後半、急に叢丞の〝力〟が無くなった。それは覚えていた。


「そうだ。あの時、こんな〝力〟いらないって。でも何で……ッ!?」


儀式を思い出そうとした瞬間、叢丞の頭に激痛が走った。


「兄様ッ?!」


「叢丞、どうした?」


「……うん、儀式のことを思い出そうとしたら頭が、」


咲夜は悔しそうな、涼香は哀しそうな顔で叢丞を見つめる。しかし叢丞は今、それに気づく余裕はなかった。


「……そうか。だが、今は無理に思い出さない方がいい」


「そ、そうですよ、兄様。傷に障りますので今はお休みになってください」


涼香が叢丞を支えながらゆっくりと布団に寝かせた。


「ごめん。そうさせてもらおうかな」


ふと叢丞は、涼香が今にも泣きそうな顔をしているのに気づいた。


「……涼香? どうかしたのかい?」


叢丞はその頰に手を伸ばす。

すると涼香は、まるで不意にそうされたかのようにビクッと肩を揺らした。


「ごめん。びっくりしたかな」


「あ、い、いえ……」


そう言って涼香は恐る恐るその手を取った。そして愛おしいそうに自らの頰に持っていく。


「涼香は、こんなにも元気ですから」


そして一粒涙を零す。


「すず、か……?」


突如猛烈な眠気に襲われ、叢丞は抵抗出来ずに眠りに落ちていった。




つづく

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