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暁の〝星剣使い〟(あかつきの〝コスモダスター〟)  作者: よつふじあきたか
EPISODE4『再来する〝終末〟(さいらいする〝ワールドエンド〟』
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第208話 涼香③

水薙咲夜は胸騒ぎがして、八澄邸までの夜道を急いでいた。

毎夜の如く夜の巡回をしていたのだが、妖魔の気配が薄かったので今夜は早目に解散した。


だが水薙の屋敷が見えた時、突然胸がざわつき始めた。


「叢丞……」


嫌な予感とまでは行かないものの、途轍もない不安に駆られていた。

水薙邸から八澄邸までそう離れていない。咲夜の足なら僅かな時間で到着するだろう。


やがて八澄の門が見えたその時、


「ッ!?」


ものすごい勢いで門を駆け抜け、闇夜に走り去っていく後ろ姿を見た。


「……叢丞?」


咲夜が門に差し掛かると、ちょうど颯季が出てきたところだった。


「咲夜さん」


「さ、颯季様。一体何があったのです? たった今叢丞の奴がまるで何か・・・・・から逃げ出す・・・・・・ように・・・…………、まさか?!」


咲夜は走り去った叢丞の様子を見たまま口にしたことで、その理由を察してしまった。


颯季が静かに頷く。


「どうやら思い出してしまったようです。三年前のあの時の事を」


「そうですか……」


「毎夜あの子が咲夜さんとこの辺りの巡回をしてくれているので、今夜ももっと遅くなるのだと思ってました」


「今夜は霧も薄くて妖魔の気配もほとんど無かったのでこの辺りを一回りして終わりにしたのです」


「そうでしたか。そうとは知らず涼香の事を話していたのですが……」


「それを叢丞に聞かれたと」


肯定を示すように颯季が頷いた。


「涼香の事を話してとありましたが、妙さんとですか?」


「いいえ、私です」


玄関の方からやってきたのは、金色と銀色が混ざったような色をした髪の、見覚えのある・・・・・・少女だった。


「そう言えば〝この姿〟でお会いするのは初めてでしたね」


「レイン、と言ったか。自己紹介は必要か?」


「いいえ。あのこを通して知っていますから」


「そうか。それにしても……」


咲夜はジッとレインを〝視〟た。


(底が見えない……。これが数百年生きたという魔術師か。しかし───)


彼女が八澄の地下に封印されていたという事が咲夜は気に掛かっていた。


守りの〝力〟に長け、〝封印守はかもり〟と呼ばれる八澄家。

守りの〝力〟とは〝結界〟の事を指す。八澄邸の地下には結界が幾重にも張り巡らされ、そこに古の妖魔が封印されている。


そして『レイン・アンネリーゼ・エーベルヴァイン』という魔術師はその八澄邸の地下に封印されていた。


それが意味する事は何なのか。


叢丞が彼女より聞いた話から、龍神伝説と符合する部分が多いことは咲夜も理解している。

その龍神伝説の言い伝え通りに彼女自ら封印を望んだのか、それとも……。


その真意如何によっては咲夜はレインと敵対する覚悟を決意していた。


しかし、咲夜のそんな思惑を見透かしたかのように、レインは微笑んでみせた。


「そのように構えなくても結構ですよ。私にはあなた方と敵対するつもりは欠片もありません」


「───ッ!?」


心を読まれたかのようなその一言に、咲夜は動揺を悟られないようにするのが精一杯だった。


「それよりも叢丞さんを追いかけなくてよろしいのですか? 今の彼は……」


「それなら大丈夫です、レインさん。あの子が叢丞の後をついていってますから」


「あの子、ですか?」


「ええ。小さい頃から叢丞の後にくっついていた妹が」


最期のお別れを言いにとは、颯季はとても言えなかった。




「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


叢丞は夢中で走った。

涙を流しながら走り続け、気付いたらいつもの砂浜まで来ていた。


(僕が……)


三年前にあった出来事。


(僕がっ……!)


漲る霊能ちからとともに甦った真実きおく


「僕が、涼香を殺した───!」




「緊張することはありません。いつも通り心を落ち着けてやれば、叢丞ならきっと出来ます」


「はい、母上」


封印守はかもり〟と呼ばれる八澄の役割は妖魔の封印。


その封印の核になるのは当主の血である。


前当主が逝去してから四年が経つが、封印は奇跡的にまだ効いている。

しかし当主不在の現状ではいつ封印が解けてしまってもおかしくない。


そこで少し早いが叢丞を当主として据える事となった。


歳はまだ若いが霊能ちからは申し分なかった。


だが……、


「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


結界の張られた修練場に叢丞の絶叫が響く。


「やはりまだ早かったか……」


同席していた他家の誰かが無責任なことを呟く。


当主を引き継ぐことは何も難しいことではない。

ただ八澄家に代々伝わるあるモノに、新しい当主の血を馴染ませることだ。


ただし、そのあるモノには代々の当主の血が染み付いている。当主の血はつまり〝力〟そのもの。相応しくない者の血は馴染まない。それどころか〝力〟が逆流してその身を滅ぼ・・・・・・す事もあ・・・・り得た・・・


「叢丞ッ!」


咲夜もその場に同席していたのだが、結界の補佐に就いていたので動けない。誰か一人でも動けば、結界内そこに嵐のようにうねる〝力〟がその場にいる全員に襲いかかる。


「叢丞……」


そして見守る事しか出来ない颯季も拳を握り、最後まで叢丞の成功を祈る。その拳には血が滲んでいた。


誰もが見守ることしか出来ない中、たった一人、堪えきれずに動いた者がいた。


「兄様っ!!」


涼香だ。


「す……ずか…………、だ……め」


涼香の危機を瞬時に察して彼女を止めに入ったのはさすがと言うべきか。涼香もそんな叢丞に気づいて結界の一歩外側で立ち止まった。


しかしそれも一瞬しかもたなかった。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


再び〝力〟の逆流が叢丞を襲う。


「兄様ぁっ!!」


今度は颯季が彼女の手を掴んで止める。


「母様っ! このままでは兄様がっ!!」


「大丈夫です。叢丞なら死ぬことはありません。これも試練なのです」


「でもっ……!!」


涼香のその綺麗な瞳から涙が止め処なく溢れる。


「でもっ、これ以上は……!!」


「涼香っ!」


颯季の手を振り解いて涼香は今度こそ叢丞を救う為に結界の中に踏み込んだ。

今度は叢丞は気づかない。いやもうそこまで余裕は無かった。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


「す……ずかっ!?」


涼香の悲鳴が叢丞に届いた。




つづく

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