エピローグ
「ん、予定どおり二十日に帰る。お父さんにもそう伝えといて」
結局、今年の夏は実家で過ごすことになった。でも今年は未知の領域。というのも父が祖父の家業を継いだのでこれからは旅館が実家になる。だから実家といってもバカンス気分。一方で旅館の手伝いをさせられるのは明白。数日天秤にかけた結果、早めに帰省して一日でも長く滞在する決意を固めた。
「え、食べたいの? うーん…………ハンバーグ」
バカンスへの焦がれが決意の理由の六割、そして三割は学園でしでかした贖罪である。学園が逐一保護者に報告するほど面倒見がいい性格とは思えない。しかし誠に遺憾ながらわたしにはお喋りなホットラインが二本もある。この三ヶ月間で提出した反省文の数を知らないわけがない。それに言葉や文面で何も言ってこないところが逆に恐ろしい。『トライアンフ・ロッド』の一件は絶対に耳に届いていると断言してもいい。
業務連絡を終えた後、緊張が伝わらないように小さく深呼吸。いつだって慣れないことをする前は声が震えるくらい緊張する。
大丈夫。問題ないさ。わたしの見立てではうちの両親と馬が合うはずだから。
「あのさ、一人、友達を連れてっていいかな。その子、帰省する場所がなくて——そう、ちんまりサイズの——よく知ってるね。トモちゃんから聞いた?」
「————うん、もちろん手伝いもさせる。面倒はわたしが見る。毎日散歩もする。頭はいいけど抜けてるところもあるというか、悪い子じゃないから——」
「——うん、うん……ありがと。これから本人に訊いてみる。また連絡する」
早めの帰省を決意した理由の残り一割はマナのため。本人と直接話したわけじゃないけど、もし風の吹くまま気の向くままに夏を消費するなら貴重な労働力として囲い込んだ方が得策だろう。なんたって衣食住は確保しているし料理も美味しい。ついでに温泉でお肌もツルツルになっちゃう。損どころか徳しかない美味しい話。淑女なら飛びつかないわけがない。
ま、もしも一緒に帰省することになれば絶対にうちの母が黙っちゃいない。懐中時計に気づいたら後先考えずベラベラと喋りだしそう。そうしたらわたしの我慢の日々はなんだったのかと怒るけど、そんな実の母親の姿を容易に想像できてしまうのが悲しき性。ここはマナが驚きのあまりにショック死しなければいいと割り切っておこう。
だけど現実はそう甘いものではなかった。どころか想定の真逆を突き進む。
「どうしてうちのお母さんと知り合いなのさっ! はぁ? この前、二人きりで会った? そんな話知らない聞いてない。一体全体どーなってるの!」




