第8話 結婚
アデレインは学園を卒業してすぐ、結婚した。
フェアモント伯爵領で行われた結婚式では、姉はボロボロと泣き、めでたい席でありながらも最後まで反対だと騒いでいた。
最初から予想されていたことだったので、結婚式は身内だけで執り行われた。
「アデレイン、養子の話だが」
旦那様は二十四歳。精悍な顔つきは変わらない。
鋭い金の瞳がアデレインを見た。
「わたくしはいつでも良いですわ」
姉を含め周りからは、もっとよく考えてから養子を迎えた方がいいと言われているが、旦那様はアデレインを愛することはない。婚約期間中に心変わりするのではないかと期待していた伯爵夫妻には申し訳ないが、アデレインには彼を夢中にさせるほどの魅力はない。つまり子供ができようもないのだ。それなら、早い方がいいとアデレインも旦那様も思っていた。
「遠い親戚に両親が亡くなった子供がいる」
「……それは」
「その子を引き取ろうと思う」
淡々と告げる旦那様に、アデレインは頷いた。
これが夫婦としての二人。事情を知る者たちからは不思議がられるが、アデレインは穏やかな生活が送れて満足している。
(……どんな子が来るのかしら? 仲良くなれるといいのだけど)
子育ての経験など当然ない。
だが、妻としての経験もないのに、それなりに過ごせている。
(あら? 違うわ。妻としては半人前のままね)
ふふっとアデレインは静かに笑った。
* * *
養子のパーシーは、旦那様と同じ濃紺の髪に金色の瞳だった。
何も知らない者が見れば、旦那様の実の子供だと思ってしまうかもしれない。
(……好都合なのか、そうでないのか分からないわ)
旦那様の足元に縋りつくように立つ少年は、不安そうにアデレインを見ている。
「初めまして、パーシー」
アデレインは身を屈めてパーシーに挨拶する。
旦那様と同じ金色の瞳がパチパチと瞬きを繰り返した。
「わたくしはアデレイン・フェアモント。これからあなたのお義母様になるのだけれど」
「……おかあさま」
ぼそりと呟いた声はどこか悲しげだった。
きっと亡くなったばかりの母親を思い出しているのだろう。
「でも、あなたが無理をすることはないの。だってあなたのお母様は世界でたった一人だけよ」
小さな手をぎゅっと握る。
旦那様の想い人が世界でたった一人であるように、この子にとって母親はたった一人だ。代わりようなどない。
「だからアデレインでも、奥様でも……あら? それだと使用人に呼ばせているみたいになるかしら……」
「お、おかあさま」
「……無理はしなくていいのよ?」
アデレインはそう言ったのだが、彼は何故か頑なにアデレインを『おかあさま』と呼んだ。理由は分からなかったけれど、彼がそれを望むのならと、アデレインは『おかあさま』と呼ばれたら、返事をすることにした。




