第10話 離縁の後
「フィオナ様でしたっけ? あの方が離縁されてすぐにお会いになって、で、貴女とすぐに離縁? ほんと信じられないわ。で、星の夜に出席されるなんて、さすが面の皮が厚いわね」
ぼんやりと元夫とのことを思い返していたアデレインを、呼び戻したのは姉の怒りの声だった。
コンスタンスとパーシーの二人が侍女に連れられ、姿が見えなくなると、姉の不機嫌にさらに拍車がかかった。どうやら、あれでも抑えていたらしい。
「……星の夜に出席されるのは、伯爵家当主としては当然だわ」
元夫はアデレインとの結婚と同時に、当主の地位を譲り受けていた。
「まぁわたしだったら、適当に言い訳を考えてでも欠席するわ」
「そうかしら? お姉様なら出席しそうですけど。でも……そういう嘘がつけない方だと、お姉様もご存知でしょう?」
「ええ、ええ、馬鹿みたいに正直でどうしようもない男だと知ってます。わたしの可愛い妹ではなく、長年幻だけを見続けて、結果、幻と結婚されてね」
「……フィオナ様は幻ではないわ」
「ほんと、たちが悪いわ」
姉はフィオナ様の文句はさすがに言わない。
だが、元夫には容赦がない。
「フィオナ様はいらっしゃるのかしら?」
「……どうかしら。貴女とは違って繊細らしいわ」
「お姉様……わたくしを図太いと勘違いされていません?」
「普通に見たら充分図太いわよ。そもそも、わたしになんの相談もせず、さっさと離縁して、パーシーを連れて実家に出戻って来るなんて、あの時のお父様の取り乱しようったらなかったわ」
アデレインは家族の誰にも告げずに離縁をし、唐突に実家に戻ったのだ。さすがにパーシーと二人で、誰にも頼らずに生活できるとは思えず、父には申し訳ないが甘えさせてもらうことにしたのだった。
アデレインとパーシーの姿を見て、父は愕然としていた。
呼び出された姉の第一声は、「よくやったわ!! あんな男と別れて正解よ」だったので、あえて何も言わなかったのだが、社交界では、あっという間に噂が流れる。それでなくても、元夫は即座にフィオナ様と結婚した。
姉が真実を知るのに、そう時間は掛からなかった。
――どういうことなの? アデレイン!!
鬼の形相で現れた姉に、アデレインはようやく事情を説明した。
それはもう、予想通り、予想以上に荒れ狂った。フェアモント伯爵家に慰謝料請求さえしようとしたのだ。
それをなんとか抑え込むことができたのは、パーシーという存在と、フィオナ様への同情だった。子供が望めないからと離縁されることがどれだけ辛いものなのか、しかもそれが社交界で噂されるのだ。フィオナ様の立場を思えば、さすがの姉もフェアモント伯爵家に関わるのではなく、完全に縁を断つことを選んだようだった。
「……フィオナ様はまだゆっくり休まれた方がいいと思うわ」
「貴女ってほんとお人よしね」
姉は呆れたようにアデレインにそう言うが、フィオナ様のことを面白おかしく話していたご婦人方を、「まぁ、随分とはしたないお口ですわね」と黙らせたというのを、アデレインは先輩女官から聞いて知っている。手段は相変わらずだが、姉なりにフィオナ様の名誉を守っている。
「貴女は裏方として星の夜に関わるの?」
「ええ、そうなるわ」
「……あの男に近づかないように気をつけなさい」
「え?」
「たまたま会っただけでも、何を言われるのか分からないのよ。絶対に近づいてはダメ。あの男も馬鹿そうだから、旦那様から釘を刺してもらうわ」
どこまでも優しい姉に、アデレインはケーキの上に乗っているイチゴをひとつ譲った。




