【第93話】呪われた娘①
私から全てを奪っていった、ある日の出来事。
その日を境に、私は幸福の日々から一転して、終わりのない地獄の道を歩んでいくことを余儀なくされました。
魔力感知――――――。
始まりの記憶の一つとして、古くから言い伝えられてきた、魔力感知の力。
言い伝えられているといっても、その存在を知っている人は、そう多くはいません。
それぞれの正式名称や詳しい能力まで把握しているのは、ほんの一握りの研究者や、世界各国を旅した歴戦の冒険者。
そして、大きな国を束ねる王族、貴族ぐらいのものでしょう。
ただ、これはあくまで、人によって理解度に差があるというだけです。
数ある村の中でも特に小さな村である、ここマーリス村に住む大人たちでさえ、ジェネシス・コードの存在は知っていました。
......「呪術」という、本来のそれとは大きくかけ離れた呼び方となって、ですが。
エルグラント王国では、その言葉を口にすることは固く禁止されています。
あまりにも強大な力を持つがゆえに、それを巡っての抗争が後を絶たなかったため、国は呪術を「存在しないもの」として世間から排除すべく、新たに法を定めました。
にわかには信じがたい話かもしれませんが、たった一度でもその言葉を口にしようものなら、場合によっては凶悪な咎人として扱われ、国から重い罰を下されてしまうのです。
当時の私はまだ呪術という言葉を一度も聞いたことが無くて、そんなものが世の中に有るなんて知りませんでした。
そもそも子供に教える様な話でもないですが。
仮に知っていたとしても、どうせ自分には関係の無いことだからと言って、せいぜい頭の隅っこに置いておく程度の関心だったと思います。
普通の人にとっては、呪術なんて空想の産物に過ぎないですからね。
「よく分からないけど、とりあえず危険な物らしい」といった程度の認識の方が、いまも9割を占めているはずです。
しかし、私は偶然にも、その残り「1割」の人間側へと身を置くことになりました。
―――――なぜなら、皮肉なことに他の誰でもないこの私自身が、呪術を持って生まれてきたからです。
~ 7年前 ~
「ふあぁ......うーー、よく寝たー。 あっ!! 今日はたしか、わたしの誕生日......? って......あれ、なんだろう?」
8歳の誕生日を迎えた朝。
私はベッドで目が覚めた瞬間、自分の体に起きていた、とある異変に気が付きました。
「なにあれ......虹色の......お化け......? あ、向こうにも2匹いる、大きいのと小さいのが......」
まるで透視能力でも手に入れたかのように、突然観えるようになったのです。
人や魔物がその身に宿している、「魔力」の軌跡が。
それは物理的に視界を遮られていようが、目を瞑っていようが関係ありません。
対象者が持つ魔力の物量、性質、状態などが、私が少し意識を傾けるだけで、どこからでも簡単に感知できてしまうのです。
「......ぷっ、あははっ! なんかおもしろいねこれ!! 精霊がいっぱい集まるお祭りにきたみたい!!」
魔力の見え方は持ち主によって様々で、色は主に綺麗な虹色をしていますが、その形状には個人差があります。
燃え盛る炎が力強くうごめいている様な形をしたもの。
球体がくるくると回転し続けている様な形をしたもの。
静かに波立つ海の様な形をしたものなど、あげればキリがありません。
そして何より驚いたのは、その感知可能な範囲の広さ。
いま現在の射程距離は約1kmですが、この力が目覚めた時点で既に、それの半分程度は難なく観えていました。
きっと私の取り組み方や考え方次第では、範囲をこれから更に広げることだって出来るんだと思います。
「うしし、さっそくお母さんにも教えてあげよーっと!!!」
ただ当時の私が、自分の体に起きている事の重大さに気付くわけもなく。
偶然お気に入りのおもちゃを見つけてしまったと言わんばかりに、駆け足で母親の元へと向かったのです。
「......そういえば、今日は娘さんの誕生日でしたっけ? ほんとうにかわいい子ですよねえ、ルーナちゃん」
「ええ。 元気なのは良いことですが、ご近所さんに迷惑かけてないか心配で――――」
その日は、たまたま村長が母親と仕事の話をするため、私の家にやって来る日でした。
そうとも知らずに私は大はしゃぎでリビングに向かい、そして......
「お母さん!!! 聞いて!!! なんか私、お化けが見えるようになったみたいだ......よ?」
運の悪いことに、家族以外の人......それも村長の前で、私は魔力感知の力について口を滑らせてしまったのです。




