【第94話】呪われた娘②
「お誕生日おめでとう、今日も元気ねルーナ。 それで、お化けがどうしたって?」
「だから! 私、お化けが見えるようになったの!」
「はぁ......ごめんなさい村長、騒がしくしちゃって。 ルーナ、今お母さんちょっと取り込み中だから、またあとでいい?」
「ふふ、ルーナちゃんは相変わらずですね。 お化けが見えるなんて凄いなあー」
よくある子供の悪戯としか思っていない母親と村長は、私を適当にあしらいます。
「むむむ......」
「どうせいつもの作り話でしょう? ご飯の支度はまだだから、お部屋でもう少し寝てていいわよ」
「......嘘じゃないもん」
「ルーナちゃん、あとでおじさんとあそぼっか? そのときにいっぱいお話聞かせてね」
「村長さんまで......」
二人の態度に不満が溜まっていく子供の私。
子供は純粋で正直ですから、自分の思うようにいかないことがあると、すぐにカッとなってしまいます。
普通の日ならともかく、この日は自分の誕生日でしたので、尚更だったんだと思います。
......もし仮に、このとき大人しく部屋に戻っていたら。
せめて村長が家を出てから、行動を起こしていれば。
もしかしたら、今とは全く違う未来が待っていたのかもしれません。
結局私は、自分の話が事実だと証明するため、あろうことか二人の目の前で魔力感知の力を使って見せたのです。
「私、嘘なんてついてないもん!! ほら、こうやって......」
目を瞑り、魔法を使うのと同じ要領で、全身の感覚を研ぎ澄ます。
そうするだけで、不思議と自然に見えてくる。
まるで心の中を覗いているかのように、その人が持つ魔力の全容が。
「.....あっ! ど、どうしよう! お母さんと村長さんの中にお化けが住んでる!! 凄く小さいけど......」
「......あなた、なにを言ってるの? 悪い冗談はやめて、そろそろお母さん怒るわよ?」
「だってほんとなんだもん!! みえるんだもん! 虹色に光ってる宝石みたいなのが!」
「もう分かったから、お部屋に戻りなさい。 村長が来てるんだから、ね?」
私の言うことにどうも疑心暗鬼な母親は、私を無理矢理部屋に連れていこうとします。
しかし......
「虹色に光る......宝石?......まさか......いやそんなはずは......」
ふと村長が、含みを持たせた言い方でそう呟いたのです。
「もう、村長まで......子供の言うことなんて間に受けないでください。 ただでさえこの子はいい加減なところがあるんだから――――」
呆れた様子でそう言う母親ですが、ここでとある異変に気付きました。
「村長......? どうかしましたか? 気分でも悪いんですか?」
おかしなことに、さきほどまでニコニコと笑っていたはずの村長の顔色が、それこそ幽霊を目にしたかのように酷く青ざめていたのです。
「すごい熱......すぐに薬を用意しますので、ここに座って待っててください!」
「ああ......すまないな......」
私も母親も、村長のこんな顔を見るのは初めてでした。
「はぁ......はぁ......」
ソファーに腰掛けた村長は苦しそうに頭を抱えます。
「ど、どうしよう......」
なにが原因でそうなっているのか、当時の私は検討もつきませんでした。
かといって、母親が薬を作っている姿をただ見ているだけというのも嫌。
だから私は必死に考えました。
自分にだってきっと何か出来ることがあるはずだと。
やり方次第で、きっと母親の役に立てるはずだと。
――――しかしその考えた結果が、更なる悲劇を生むことになったのです。
「や、やっぱりお化けのせいなのかな......それなら......!」
そう、私はなにを血迷ったのか、再び魔力感知の力を使うことにしたのです。
力を使ったところで、何もできやしないのに。
あくまで魔力を可視化できるだけであって、それに干渉するほどの力なんて持ち合わせてないのに。
きっと私は、浮かれてしまってたんでしょうね。
自分にしか見えない世界がある。 その事実が、子供の私にとっては凄く嬉しいものだった。
自分は特別な人間なんだって、愚かな勘違いをしていた。
だから調子に乗って、意味もなくその力を使ってしまったのです。
「このバカお化け!! 早く村長さんの体から出ていけ!! 出ていかないと、私がやっつけちゃうぞ!!」
村長の心臓部に、癌のように住み着いている虹色の物体を睨みつけながら、そんなことを叫ぶ私。
これだけであれば、ただの子供の戯言に見えなくもないですし、まだ良かったのですが......
「......え?! お、お母さん大変!! 今度は別のお化けがお家に近付いてきてる!! 小さいのが二つと......すっごく大きいのが一つ!!」
「ルーナ!! いい加減にしなさい!! 今はふざけてる場合じゃ――――」
場をわきまえない私に対し、我慢ならなくなった母親がそう怒鳴り声をあげた瞬間。
―――――ほぼ同じタイミングで、私の家のドアがゆっくりと開いたのです。
「帰ったぞー......って村長、もういらしてたんですね。 うちの娘が迷惑を掛けてませんでしたか?」
「レイナさーん! 差し入れ持ってきましたよー! ぜひ皆さんで召し上がってください!」
「おいラース、人の家であまり大声出すなよ......すいません、俺達はすぐに帰るのでご安心を」
家に入ってきたのは、父親と、父親の仕事仲間のラースさんとフェザーさんの"三名"でした。
ラースさんは、気さくで親しみやすい普通のお兄さんという感じの人で。
フェザーさんは、元々は遠方のギルドに所属していたらしく、その時に第一線で活躍していたほどの"強者"だったこともあり、村で有名な人でしたが........
「お化けが......三つ......小さいのが二つと......大きいのが一つ......」
魔法を唱えるかのようにそう呟きながら、呆然と立ち尽くす私。
子供ながらに、ゾッとしました。
気持ちが悪いくらい、ピッタリと当てはまっていたのです。
――――自分が言い当てたお化けとやらの特徴と、いま目の前に立っている三名の人物それぞれの特徴が。




