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因果の果て  作者: 中田英二
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伊藤愛の絶叫   PHANTOM  TENTH

伊藤愛という女は驚き、口が開いて、声が出る。

「あ?」


 伊藤愛の歯は、不衛生で不摂生で不健康、と三拍子揃った生活に、ドラッグ中毒の症状が重なったせいで数本抜け落ちており、開口すると、その欠落した歯の隙間が見えるのだった。口臭も漂ってくる。    

彼女の多少きつ目の美貌も随分と損なわれており、今となっては、昔の美しかった少女の面影は、もうどこにも全く見えなかった。


愛は外見だけではなく、頭の中もドラッグのせいで当然大いに損なわれており、目の前にいる女の子達には、以前会ったことがあるという事実を思い出せずにいた。


「そろそろ、犠牲者ぶるのを止めたらどうなの?」


変な服を着ている女の子が静かな声で言った。

愛は、聴力も弱っており、訊き返す。


「え?何だって?」

 

鈍感難聴主人公である伊藤愛という人に向かって、どうやら凄まじく怒っているらしい女の子は、

一歩前へ進み出て一層大きな声で言い放った。


「いい加減、被害者ヅラするのを止めろ、と言ったんだ!」


愛は、その発言を聞いて不快になった。


「なんだ、てめえらは!いきなり人の家に入ってきやがって、何を言ってやがる!」


その質問には答えずに、彼女は更に訊いた。

 


「他人の痛みや苦しみが分からないのを、強さだと思ってないか?」



伊藤愛という女の顔が強張る。

変な服を着た女の子は続けた。


「男と組んで、お金目当てで売春して、妊娠して、産み落とした嬰児を自分の手で殺して、二番目の男との間に生まれた我が子、しかもまだ四歳の娘を虐待して殺害して、三番目の男から貰った麻薬に手を出して正気じゃなくなって錯乱して、初対面の女の子を殺害して、挙句の果てに、自分は傷つけられ苦しめられ人生を奪われた被害者で哀れな犠牲者って・・・まさに人の皮をかぶったケダモノ、いいえ、ケダモノに対して失礼すぎます。そう、非道な鬼畜にしか出来ない所業だし、最悪の害虫にしか吐けない台詞だよな」


愛は激怒して叫んだ。

「てめえらっ!殺されてえのかっ!あたしはなあ、この町の奴らから、恐がられているんだ!誰も、あたしに喧嘩を売ったり、ナメた真似をしねえのは、あたしが強い女だからだっ!」

女の子は怯まずに続ける。マグマのような怒りを込めて。

「いいや、それは違う。おまえという人間の所業や言動を見ていて、ハッキリと分かった。この町の住人の人々がおまえを極端に避けているのは、おまえの圧倒的な強さを恐れているから、なんかじゃなくて、ただ単に、お前があまりにも醜悪で禍々しくて、直視するのも嫌だから、というだけだ」

 愛は言い返す。

 「散々あたしをけなしやがって!てめえらに何が分かるんだよ!あたしは、今まで、大勢の奴らの不幸を見てきたんだ!だから、そいつらみたいにはならないように強く逞しく生きてきて」

 変な服を着た女の子が言った。

 「大勢の人々の不幸を見てきた、のではなく、大勢の人々を不幸にした、んだろ?」

 愛の、荒地のような顔が強張った。

そして奇妙な形状の杖を振り上げる。

「お前の、その、自分が傷つかないために他者をどこまでも犠牲にし、同時に損や苦労を一切しないで快楽だけを得ようという、醜悪な強さのせいで、罪も無い女児達や生まれたての嬰児まで犠牲になった」


醜悪な強さ


その台詞が、伊藤愛という女を動揺させる。

杖を振り上げた女の子は怒っている。異常なほど激しく怒っている。

顔は真っ赤で、息は荒く、全身が痙攣しており、正気を失っているようにも見えた。

愛は、戸惑った。理解不能だった。


なんだ、こいつ・・・!? なんなんだよ? 何で、こんだけメチャクチャ怒っているんだ?

特別な理由でもあるのか?


隣にいる、もう一人の女の子も、どうやら愛と似たような心境らしく、怯えているようだった。


激昂している女の子は、震えながら呟く。




「あたしを、あんな目に遭わせて、散々苦しめやがって・・・あたしがどんだけ地獄を味わってきたか・・・のたうち回って、生きてきたか・・・」




伊藤愛は絶句する。

ドラッグに蝕まれた、彼女の頭の中で、それでも、この上なく正しく、まっとうな疑問が発生した。



(あたしが、いつ、どこで、てめえを苦しめたんだ・・・? 一体、何言ってんだ・・・?

意味が分からねえ・・・支離滅裂、理解不能じゃねえか・・・)



訳が分からず困惑する伊藤愛には構わず、女の子は続ける。

「お前がここまで人道から外れて転落したのは、お前が自分の娘達すら殺しても平気でいられる上に、更に人殺しができる産業廃棄物クズ害虫だからだ!」

 口調も荒々しく、口汚く乱暴だった。

 ここまで罵倒された愛は、流石に反発する。怒りで、頭の中の正当な疑問も消えていた。

「あたしに文句言う前に、あの男達に怒りをぶつけるべきだろ!」

 「あの男達?」

 「そうだよ、あたしがどうのこうの言ってる暇があったら、まずあたしを裏切って傷つけた最低のクズ以下のオス豚害虫便器どもに罰を与えるべきだよ!」

そう怒鳴った愛に対して、変な服を着た女の子は、静かな声で答えた。

「あいつらなら、既に処刑したよ、あっさりとね」

隣にいる女の子に向かって言った。

「幸佳、あれらを見せてやれ」

「あ、あれらって・・・ファイさん、今、ここで・・・?」

「そうだ!さっさとしろ、このクソ溜めボケカス雌豚ガキが!!」

「わ、わかった」

ユキカと呼ばれた女の子は、仲間であるはずの少女に、異常に酷く罵倒されて、震えながら、所持していた鞄のジッパーを開け、次に緩慢な動作でそれをひっくり返し、その拍子に中身が飛び出してきた。


ボーリングの玉のように転がった三つの物体。


愛は、それらの正体が人間の頭部だと分かって、車に轢かれた蛙のような呻き声を発して後方へ飛びのく。


武田隆

高橋智弘

原浩作


首達は全員、伊藤愛という女と密接に関わっていた男達のものだったのだ。

三人の男達の表情は全員、大きく歪んで捻じ曲がっている。

彼等が絶命するまでの間、恐ろしく残酷な目に遭わされたのだと、愛にも容易に想像できた。

ファイ、と呼ばれた彼女が言ったように、ただ単に、あっさりと処刑されただけなら、決してこのような凄まじい形相にはならないだろう。


愛は愕然として立ち尽くすしかなかった。


一方、三人の男達を前もって、凄惨な私刑によって殺害していた、ファイという少女の表情は、前回会った時とは、まるで全くの別人のように違っており、怒りと嫌悪感と不快感、そして・・・悲しみが混じったようなオーラを放っている。


伊藤愛という女と全く同じように、ファイという小さな女の子も、あまりにも大きく変わってしまっていて、昔の面影は、もう全く無かった。


そしてファイは、伊藤愛と同じように、もはや麻薬中毒者にしか見えないような形相で、言った。

「私は、この三匹のオスどものような腐れ害虫や、お前のような自分の娘達まで殺して悲劇のヒロインヅラしている女が、この世で一番嫌いなんだ」

更に告げた。

「お前たちのような人間に、生きる値打ちなど無い。私はお前達を悪人だと思っていたが、そんな生易しいものではなかった。悪人ですらない。そもそも悪人というのは、読んで字の如く、悪い人間達の事だが、この男達やお前という女は人間とすら呼べない。もっと腐敗しきった何かだ。何と形容したらいいか、どう表現したらいいかすら、私には分からない」

ファイの発言を、愛は怒鳴り声で打ち消そうとする。

 「生きる値打ちが無いだの害虫だの鬼畜だの好き勝手ぬかしやがって!ざけんな!てめえらにあたしの何が分かるってんだよ!」

それぞれの思惑が交錯する。

 ファイは狂気を孕んだ声で言った。

 「反吐が出る、このクズどもが」

ファイは、振り上げていた杖を、伊藤愛という女に向けた。そして叫ぶ。

「魔法少女ファントム・イレイザー!因果応砲!」

ファイは唱えた。


「因果の果てにあるものは、醜悪な鬼畜外道害虫だった!お前のような魔物は消さねばならない!」


杖が光り、辺り一面が眩しさの余り見えなくなる。愛は目を閉じる。

ファイは叫ぶ!

「消えろ!消えろ!きえろ!きえろ!きえろ!キエロ、キエロ、キエロ!!!」


同時に、愛の視界に顕現したものは、禍々しい怪物だった。

その怪物は、愛を捕食する気なのか、大きな口を開けて、牙でいっぱいの口内を見せつける!

非道な畜生・伊藤愛という女は、人の足に踏みつけられた豚のような悲鳴を上げた。

人間らしさというものがまるで無い形相で、愛は走り去る。

玄関から飛び出した愛は、ひたすら走り続け、あるものと遭遇した。

そのあるものとは、二つの灯だった。

それらが事故を起こさないかといつも恐がっている小心者の運転手の男によって、安全に速度をかなり抑えられているとはいえ、走行中の自動車のライトだと認識できた時、愛は車と衝突していた。



伊藤愛の絶叫が響き渡った。

キ〇ガイ魔法少女 VS 女児殺し母親


とんでもないカードですね(汗)

ここまで読んでくださった皆様、本当に本当に、ありがとうございました!

まだ続きますが、これからは、どちらかというと穏やかな展開なので、付き合ってやってくださいませ!

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