魔物の咆哮
メルが叫んだ。
「ファイ!」
ファイも叫んだ。
「わかってる!」
同時に、魔法少女はステッキを構えた。呪文を唱え、かえで先生に向かって、ステッキをかざした。
「喰らいなさい、因果応砲!」
次の瞬間、ファイのステッキから、雷が放出された。
幸佳は目を見開いた。凄い。
以前、そう、愛という名の女性に従っていた、あの男達にボコられていた自分を助けてくれた時のものとは、比べ物にならない。
おそらく、これがファイの「本気」なのだろう。雷は、かえで先生を直撃した。
「かえで先生!」
思わず幸佳は叫んで、かえで先生に駆け寄ろうとしたのだが。
「近づかないで!」
メルに止められた。
「まだ、だよ」
メルのその言葉が何を意味するのか、幸佳には最初、理解できなかった。
ただ、その答えはすぐに明らかになる。
目の前に、巨大な蜘蛛が現れたからだ。
体長は、3メートルはあるだろうか。全身真っ黒で、八つの眼だけが、赤く光っている。まごうことなき、怪物だった。
メルは口調に苦いものを滲ませながら言った。
「これが、白石かえでの正体だよ」
ファイは、相変わらずステッキを両手で握りしめながら、震える声で叫んだ。
「じゃ、邪悪な魔物と化した、つ、付喪神ですっ!」
そして、ステッキを振りかざした。
「喰らいなさい!」
先程と同じように、雷が放たれた。魔法少女の雷光は、蜘蛛を確かに捉えたはずだった。メルは、唖然として言った。
「そんな・・・」
幸佳も、目の前のものをただ、信じられない思いで見つめていた。
この禍々しく、おぞましい怪物が、白石かえで先生の本当の姿だったのか。
悪夢の世界にいる気分だった。
「効いて、いない?」
その通りだった。蜘蛛には、大してダメージを与えていないようだった。そして、次は蜘蛛が攻撃する番だった。メルが叫んだ。
「離れてて!」
言われるまでも無く幸佳は、既に後ろに飛びのいており、十分な距離を取っていた。蜘蛛の口から液体のようなものが飛び出した。
「きゃっ!」
ファイは、悲鳴をあげながらそれを避けた。その液体がかかった地面は、溶けた。硫酸のように、触れたものを溶かす液体なのだろう。もし、直接浴びてしまったら、人間の体など一たまりもあるまい。しかし、怖がりで泣き虫で恥ずかしがり屋の魔法少女は、震えながらも、懸命に立ち向かった。呪文を詠唱し、再びステッキを振りかざして叫ぶ。
「焼き尽くせ、因果の果てにあるものを!」
次の瞬間、ステッキから炎が噴き出た。その炎は、蜘蛛を焼き尽くしたかと思われたが、やはりそう上手くはいかなかった。蜘蛛の体には、少し焦げ跡がついたくらいで、先程の雷と同じように、大したダメージは見受けられなかった。
そして、再び蜘蛛は液体を放出した。触れるものを見る影もなく溶かしてしまう、悪魔の液体が魔法少女に襲いかかる。しかし、魔法少女は、すでに防御魔法の呪文を唱えていた。
光の壁が、ファイの周りを覆っており、毒液はそれに跳ね返された。
光の壁はほんの一瞬で消えてしまったが、ファイの身は守られた。ここまでの攻防は、ほんの数秒間の出来事である。これを見て、蜘蛛は叫び声をあげた。野獣の咆哮のような、凄まじい叫び声だった。幸佳とファイ、そしてメルは思わず身を竦めた。次に、蜘蛛は口から何かを噴出した。毒液ではない。
それは、糸だった。
蜘蛛が、巣を作る時に吐き出す糸。それが、ファイに向かって放たれたのである。
蜘蛛の叫び声で、身を震わせていたファイは、対応が少し遅れてしまった。
蜘蛛の糸は、ファイを絡め取った。
「きゃあああああああああああ!」
「ファイ!」
メルが叫んだ。幸佳は、愕然とした。ファイが捕まった。蜘蛛の糸に、捕縛された。どうすればいい?などと考えている間に、蜘蛛の次の攻撃は始まっていた。
蜘蛛の毒液が、糸に絡め捕られて動けない魔法少女に向かって放たれた。
「危ない!」
幸佳は叫んだ。その瞬間、メルが飛び出していた。ちょうど、蜘蛛とファイを結ぶ直線上へと。
幸佳は反射的に思った。ファイを庇ったメルが、身代わりとして蜘蛛の毒液を浴びることになる。しかし、メルの周りにも、いつ呪文詠唱を終えていたのか、光の壁ができていた。
蜘蛛の毒液は、使い魔の猫の周囲に構築された光の壁によって遮られた。
これを見て、蜘蛛も驚いたらしく、一瞬動きが止まった。その隙に、メルは自身の鋭い爪を駆使して、ファイをがんじがらめにしている蜘蛛の糸を切り裂いた。そして、ファイは自由の身になった。泣きべそをかいていたファイは、メルにお礼を言った。
「あ、ありがとう、メルちゃん」
「気にしないで!それより、次の攻撃がくるよ!」
メルの言う通りだった。
蜘蛛は、今度は大きく跳躍して、魔法少女と猫の真上に落下してきたのである。自重で、敵を押しつぶそう、というつもりなのだろう。
「きゃっ!」
ファイとメルは、同時に跳んだ。横に向かって。一秒後、蜘蛛の巨体が大地を揺るがした。間一髪である。もし、回避するのが遅れていたら、魔法少女と猫は圧死していただろう。どうにか体勢を立て直したファイは、ステッキを構え直すと、ふたたび呪文詠唱を始めた。再度の挑戦である。
「因果応報!光の矢!」
その言葉通り、ステッキから、光の矢が放たれた。数十本もの光の矢は、一直線に蜘蛛へと襲いかかり、その身を貫いた。今度こそ、やったか!
幸佳は、そう思った。メルもファイも、同様だったかもしれない。蜘蛛の身には、光の矢があちこちに突き刺さっている。これでは、流石の魔物でもタダではすまないだろう。
蜘蛛の身から、光の矢が抜け落ちた。蜘蛛は、再びガサガサと動き始めた。
「なっ・・・」
幸佳は、息を呑んだ。これも効かないのか。何て、タフなんだ。頑丈すぎる。メルとファイも、愕然としている。
どうすればいい?どうすれば、この怪物を倒す事が出来る?
幸佳達が、途方に暮れた時、蜘蛛がまたしても咆哮した。
その咆哮は、町中に響き渡った。
あまりにも幼稚な描写ですが、一応バトルやってます。
幸佳は、この後、活躍しますので、見てあげてください。




