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因果の果て  作者: 中田英二
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第三章  魔物達を消す日々

ファイ・メルの魔法コンビと手を結んでからというもの、幸佳の日常は大きく変化した。

毎日、学校から帰ると、待ち合わせの場所に幸佳は急行する。

ファイとメルはいつも先に来ていて、幸佳の姿を見ると、嬉しそうに手を振ってくれる。

そして、調査を開始する。

最近になって、本当に活気が無く、人の姿もほとんど見当たらない町の中を、できるだけ他人には見つからないように気を配りながら、歩き回る。ファイは魔法を使い、メルは何やら呪文を詠唱し、幸佳は二人について歩く。その途中で、困っている人が見たら、可能な限り助ける。

元凶ではないが、人に害を及ぼすような魔物達を見たら、戦って倒して消していく。

(姿形は、虎や狼のようなものから神話の怪物のようなものまで多種多様だった)

その繰り返しだった。ある意味、単調な日々といえるが、それでも幸佳にとっては充実したものだった。自分が、学校の人々のために頑張って活動している。

その事実が、幸佳の心に以前は無かった元気を与えていた。

嬉しい変化といえば、他にもう一つあった。

「暴力の鬼」が、これまでと比べて、少し穏やかになったのである。

勿論、事あるごとに怒声や罵声を生徒達に浴びせかける、彼女の態度は基本的には変わっていなかったが、少なくとも、発狂したように暴れて、生徒の頭を残飯まみれにする、などという所業は一切やらかさなくなった。五年四組の子供達は、一体これはどうしたことか、と不思議がったが、良い変化である事に疑いの余地はない。これだけでも、幸佳の学校生活にとっては大きな改善といえた。幸佳は、真山の怒りを心の底から恐れて、怯えきった日々を送っていたのだから。ただ、赤星ゆかりの場合はそうでもないようだった。

真山が多少穏健な人物になった事について、幸佳が赤星ゆかりに話してみると、何故かゆかりは複雑そうな表情で肩をすくめただけだったのである。

ゆかりの反応は、幸佳にとって不可解なものだったが、特に気に留めなかった。

次に、白石かえで先生と話してみた。

かえで先生は、真山の変化を喜ばしいものとして捉えていたらしく、幸佳の話に進んで付き合ってくれた。かえで先生は、幸佳が学校を欠席したあの日、真山に一言物申してくれたそうであるから、真山が多少マシになったのも、そのおかげかもしれない、と幸佳は考えている。学校には、相変わらず欠席者が多く、未だ解決策も見つかっていない状態だったが、幸佳は自分の学校生活が少し楽なものになった喜びで胸の中が満たされていた事もあって、以前ほど深刻な問題としては見ていなかった。

今は解決できなくても、きっと、近いうちに何とかなる。

何故なら、自分と魔法少女と使い魔の猫が、調査を進めているのだから。

子供っぽい自尊心が、幸佳の心を元気づけていた。


ファイ・メル・幸佳の共同調査が始まってから、二週間ほど経過した日の事だった。

「一色小学校を蝕んでいる本当の原因が何なのか、見当がついた」

メルが、待ち合わせ場所にやってきた幸佳の顔を見るなり、そう言ってきたのだ。

「え?」

驚いた幸佳は、ファイの顔を見る。すると、ファイも真剣な表情で頷いた。

「全ての元凶、それは」

メルは、幸佳の顔を見つめながら言った。


「付喪神だよ」


「・・・は?」

メルが何を言っているのか、幸佳には全く理解できなかった。

ツクモガミ?何だ、それは?

「あ、あの」

ファイが遠慮しがちに手を挙げて言った。教師の質問に答える生徒のように。

幸佳が頷くと、ファイは説明し。

「ツクモガミっていうのは、あの、その、主に、物体や人間に取りついた霊が実体化したものです。彼等は、本来無害なんですが、中には、長い年月の中で紆余曲折を経た末に、邪悪な魔物と化してしまったモノもいて、その中には、人から生命力を吸い取る類のモノもいるそうなんです」

「そう、その通り。私も、魔法を駆使した調査の結果、ようやくその事に辿り着いた」

使い魔の猫・メルが、己の耳をピコピコと動かした。

「以前、私は似たような種類の奴と戦った事があったのを思い出してね。調べてみると、今回の奴とよく似ているから、もしかしたら、と思ったんだよ」

その台詞を聞いて、メルはとてつもなく凄い猫なのかもしれない、と幸佳は感銘を受けた。

「今回の事件の経緯について、もう一度整理してみよう。まず、どこからかやって来た付喪神は、この町を気に入って、潜伏した。おそらく、人の姿に化けてね」

「魔物の中には、自分の姿を自由自在に変えることができるモノも、数多く存在します」

ファイが補足した。

「そして、この町に根を下ろした付喪神は、少しずつ、じっくりと時間をかけて、一色小学校の子供達を初めとする、周囲の人間達から生命力を吸収していった。それは、ヤツにとって食事のようなものなんだろうね。自分の存在を維持するのに必要なことなのさ。そして、質の良い食事を効率よく行うために、若くて元気な子供達のいる学校を主な餌場に選んだ、と」

メルは、ここまで話すと、ファイと幸佳の顔を見た。そして、頷き合う。

「私の考えだと、やはりヤツは学校の関係者だと思う。学校内で何不自由なく動く事が出来れば、それだけ生徒や教師達を餌にしやすいからね。それが、この事件の真相だ」

幸佳は、ここで呟いた。

「じゃあ、ヤツの正体は、やっぱり真山なんじゃないかなあ」

そう。真山は、人間ではなかった。人に化けて、皆を騙し、周囲の他人達から養分を吸い取っている化け物だったのだ。「暴力の鬼」は人間ではない、と思っていた時期もあった幸佳にとっては、その方が納得しやすかった。

しかし、幸佳の発言を聞いて、またファイが涙目になった。メルが声を荒げた。

「だから!それは違うって言ってるでしょ!真山徹子先生は何も悪くないの」

「ああ、はいはい、分かりました。失言でしたね。撤回します」

幸佳は、慌てて言った。いかんいかん、またしてもファイを泣かせてしまった。

しかし、真山の事を悪く言うと、何故、メルは怒り、ファイは悲しむのだろうか。

何故、真山は無実だと断言できるのだろうか。

幸佳の疑問は、メルの声によって遮られた。

「とにかく、ここまで来たら、ヤツの正体が明らかになるまでに、ほとんど時間はかからない。私は、これまで探知魔法を使って調査を進めてきたんだけれど、それもじきに実を結びそうだからね」

「ヤツの正体が判明したら、どうするの?」

幸佳の質問に、メルは即座に答えた。

「戦って、消す事になると思う」

涙目になっていたファイも、鼻をすすりながら頷いた。

「そ、それが、えっ、ひっく、唯一の選択肢だと、ぐすっ、私も、思います」

「今の所、ヤツは周囲の人々から生命力を少しずつ吸い取って弱らせているだけで、はっきり言うと、そんなに邪悪なものではない。でも、放っておくことなんて絶対出来ないからね。あの学校を、そして町の人々を救うためには、ヤツを倒すしかないんだ」

幸佳は、大きく溜息をつくと、肩を上下させた。

「そう、ですか」

来るべき決戦の時は近づいている。その事実は、幸佳の心を奮い立たせた。

翌日。学校に通った幸佳は、付き合いの深い人達の姿を複雑な心境で見た。その中でも特に、彼女達を凝視する。

「暴力の鬼」こと真山。

クラスメイトの赤星ゆかり。

白石かえで先生。

この三人は、形はどうあれ幸佳にとって、最も近い所にいる人達だったので、思い入れも強かった。幸いと言うべきか、三人とも、普段と特に変わらないように見えた。幸佳は思う。

もう少しですからね。もう少しで、この学校を、この町を蝕んでいる魔物をやっつけられますからね。

自分が、無力な人間、しかも小学生の子供でしかない事が、辛かった。その一方、ほんの一か月前とはずいぶん違ったものに感じられる学校生活を送っていて、幸佳は、これからもこの生活が続くのだろうか、と思った。次に疑問が湧いてくる。

付喪神、という魔物を倒したら、ファイやメルはどうするのだろう。

この町を出ていくのだろうか。そして、もう二度と戻らないのだろうか。

つまり、お別れなのだろうか。

怖がりで泣き虫で恥ずかしがり屋の魔法少女と、おしゃべりな猫の姿を思い浮かべる。

出会ってから、まだ日は浅いが、彼女達は、既に幸佳にとって大切な友人となっていた。

彼女たちとの繋がりを失いたくはなかった。

しかし、幸佳に出来ることと言えば、そう願う事ぐらいであり、そんな自分が、とても嫌だった。いずれにせよ、もう少しで、全て解決する。幸佳は、そう信じている。

その気持ちを胸に抱きしめて、少女は日々を過ごした。


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