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第1話

〈 1277年 6月3日 カル王国 パッチョ地方 王城内 〉


 梅雨入り前の庭園。暖かい日の光が、満開に咲き誇るバラを照らし、バラからは吐くほど甘い匂いを漂わせていた。


 バラを見つめる黒髪の少女に、豪華なプレゼントを手にした大人たちが群がっていた。



「セリオーレお嬢様、7歳のお誕生日おめでとうございます!覚えておられますか?あのウィーク家のラルバルでございます!こちら、我が家が所有しております、カール鉱脈から掘り当てました、最上級ルビーを使ったネックレスでございます!3つほど一軒家が建つ代物ですぞ!」



「お嬢様、(わたくし)からはこちらのドレスを!鮮やかな緑と随所のフリルリボンが実に可愛らしいでしょう?我が社自慢のドレスでございます!」



 そう。今日はセリオーレにとって、最もため息が出る日であった。



「あら、ありがとうございます皆様。ふふ。…あ、すみません。もうこんな時間ですわ。そろそろお勉強をしなくちゃいけませんの。では、ごきげんよう。」



今日だけで何回これ言ったかな…私。

こうやって、ドレスの端を持ちながら麗しくお辞儀をする。

はぁ………こればっかり上手になってしまう。

早くダンジョンに潜ってレベル上げしたい…




 セリオーレ……もとい藍沢琴美は、その場から足早に立ち去る。気を抜くとヒールごとコケてしまうので、細心の注意を払って自室に戻っていく。


 王城の東棟、その奥にある角部屋。

 積み上がった古本とインクの匂いが充満している。

 窓から差し込む日の光が、古本の間で隠れている、5つの経験値増加バフネックレスを照らし、そこから青い光が部屋に乱反射する。



…換気しないと。



 キーッと軋む音と共に、窓から心地よい風がやってくる。

 

 今の彼女にとって、避難所はこの部屋だった。



「はぁー……意図が見え見え。7歳児を舐めんなってんだ。」



 黒を基調としたドレスから、動きやすくもエレガントな白いタブレットに着替え、髪を後ろでまとめる。靴はもちろんお気に入りの茶色いショートブーツ。


 まさに貴族が激しい運動をするときに着そうな服である。ちょっと洗剤臭い。



「…よっし。レベリング、レベリングっと。」



 コンコン…短調なノックの音が、セリオーレの意識を現実へと引き戻す。



「げっ…誰だろ…ん゙ん゙。はい?どちら様でしょうか?」


 セリオーレは気がつくと、右手がレイピアに吸い寄せられていた。


「姉上。私です。レイリィです。」


「あー…レイリィ。どうぞ。」


「失礼します。姉上。…おや、またダンジョンですか?」


「うん。勉強するのも楽しいけれど、たまには体を動かしたくて。」


「…そうですか。ちょうどいいです。では私も行きます。」


「……ねぇ?レイリィ。」


「はい。なにか?」


「…ううん。なんでもない。というか連れて行きませんよ?危ないんですから。」


「私は強くなりたいのです。とにかく強くなりたいのです。」


「…かわいい子ね。」


「はい?」


 レイリィの鋭い目が、セリオーレを突き刺す。


「な…なんでもないです…」




なんなのよその殺意に満ちた目…ほんとにこの子4歳なの…?なんか怖いんだよなぁ…

だいぶ私と身長差あるはずなのに、それを感じさせないというか…命の危機を感じる…




かわいい!?いまかわいいって言ってくれた!?むぅぅう…!姉゛上゛ぇ゙え゙!……セ゛リ゛ーィ゙ィ゙!

はぁぁあ…

ついついセリーをガン見しちゃう…

推しが…推しが尊い…とても尊い…


でもなぁ、一人でダンジョンかぁ。いやセリーはすごい強いから別に大丈夫だとは思うんだけど、やっぱり心配なんだよなぁ…あと単純にかっこいいところを近くで見たいんだよね。でもさすがに4歳だとまだだめか…足手まといになりたくないし、仕方ないか…筋トレでも経験値ってもらえるのかな…




「…わかりました姉上。では今回もお留守番致します。筋トレに励んでいく所存です。」


「そ、そう…それはそれは…」


「しかし姉上。必ず約束していただきたいです。いつか必ず、ダンジョンに私を連れて行ってもらうと。」


「そうねぇ…あ、じゃあ6歳になったらいいわよ?2年後に行きましょう?ね?」


「わかりました。それまでに足手まといにならないよう、今のうちにできることを精一杯行います。では。」


「え、えぇ。」




なんなのこの子…ほんとよくわからないからすごく怖い…




 レイリィの鋭い瞳には、自分を見送ってくれる、神々しく言葉に表せない美しい推しが映っていた。




推しと約束しちゃった!今日は5分くらいしゃべれたかなー。よっしっ!




 レイリィの指から放たれるポキ…ポキ…という音が部屋の中でひとりでに響き、ドアが閉まっていく。




え、指ポキした!?何かを殺る気!?



 唐突に部屋へやって来た暗殺者《客》が出ていき、青かった顔から血色が戻っていく。

 冷や汗をぬぐったセリオーレは、今日の分のレベリングをやりに、行きつけのダンジョンへ向かう。




本編ゲームだと闇魔法は習得できない。せっかくの機会だから闇魔法を徹底的に習得してみたいのよね。

えっと今のレベルは…




 闇ダンジョンの前で、セリオーレは宙に人差し指を置き、慣れた手つきで空気をスワイプしている。




…レベル43かぁ。

やっぱり攻撃スキルよりデバフスキルのほうが多いのね。うまく使えば一方的に攻撃し続けるのも可能なのかな。とはいえ攻撃スキルが少なすぎる…


まあレベル50になれば、なにかしら今の上位互換攻撃スキルかなにか入手するでしょ。

今日は55レベまでレベリングしよっと。


そういえば本編ゲームではたしか、20ターン以内にセリオーレ(ラスボス)を倒しきらないと即死スキル打ってきたのよね。それはゲットできるのかな…


ひとまず作業するかー。経験値ネックレス…ネックレス…

1…2…3…


…あれ、5つしかない。もう一個どこいった?



 セリオーレの頭のなかで昨日一日の映像が3倍速で再生されていく。

 昨日は朝露とともにレベリングを行い、午後からはずっと部屋で勉強していた。ネックレスなら落としたとしてもすぐ気がつくはず。



えぇ…?なんで…?

仕方ない…効率落ちるけどしないよりかはましか…



 セリオーレは考えるのをやめた。レベリングは、先に虚無にならないと後から虚しくなるからである。気持ち的にだんだん五感すらもなくなってきた。



………無…無だ…無になれ…私…

考えるな…感じろ…

ターゲットを呼び寄せて一気に狩る…

ターゲットを呼び寄せて一気に狩る…









 ───ドンドンッッ!!!!


 



 そのとき、暗さに慣れた目へ届いた赤い閃光、耳と頭をつんざく轟音、突発的にやって来た暴力的な風と、それに乗ってきた何かが焦げた匂いに、セリオーレは現実へと引き戻された。

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