精霊付き遺産相続 18
居間では素晴らしいアフタヌーン・ティがわたしたちを待っていた。
キューカンバー(キュウリ)・サンドイッチやスコーンとケーキがティ・スタンド(二~三段重ねのトレイ)に載せられ、クロテッドクリームやバターとストロベリージャムも添えられている。もちろんお茶も、ロイヤルドルトンの陶器でそろえられた正式な上流階級のアフタヌーン・ティのそれそのもの。白いテーブルクロスも、ガラスの花瓶の花々も。すべてが完璧に用意されていた。
今まで主人のためにお茶の用意なら何度も何度もしてきたけれど、自分のためのお茶が用意されているのを見る日が来るなんて。わたしはすっかり感激してしまった。
「どうぞ」
精霊が自分の腕を少し持ち上げた。わたしはうながされるまま淑女のように彼の腕に自分の手をあずけ、椅子までエスコートされた。
紅茶を彼にサーブしてもらいながら、わたしは彼の不在の間のこと、友人のコニーが遊びに来てくれたことやシャンデリア事故の後には屋敷を少しずつ点検していることなどを、問われるままに語った。
わたしはこの午後のお茶がおいしくなるよう、できるだけ話を明るいものにしようと努めた。コニーの幽霊屋敷のことを語り、彼が知りたがったので以前の屋敷でメイドとして勤めていた時のことなども語った。
彼は自分の分のお茶をテーブルに置き、椅子をわたしの方へと向け足を軽く組み、その膝に両の腕をそろえて載せ、身を乗り出すようにしてわたしの話に耳を傾けた。静かに。わたしのすべての言葉を受け取り、わたしの表情の束の間の変化も逃すまいとするかのように。
わたしも彼を見返し、そして、彼の中に言葉にならない、それとも彼自身にも言葉にできないほどかすかなためらいを見つけていた。これまでにも何度か、彼の表情に透けて見えたと思ったものだ。
彼は何かを禁じられている。そう、わたしには見える。
わたしは彼に、これまでこの屋敷でどう過ごしてきたのかを問いかけてみた。彼は束の間思いを巡らせてから、語ってくれた。
「この屋敷が売りに出されたのはもう二十年以上前のことです。屋敷を購入したのはあなたのお祖父様でした。ですが、あの方はとうとうこの屋敷に住まわれることはなかった」
「二十年、誰も、この屋敷に住まなかったの?」
「そうです」
彼はいつものように表情を豊かに変化させたり、何かの強い感情に突き動かされたりする様子は見せなかったけれど、心なしか、淋しげだった。
「あなたのお祖父様にとっては、ここに住むのはあの方の仕事に不向きだったのでしょう」
「じゃあ何故、祖父はこの屋敷を買ったのかしら」
精霊はただ静かに首を振り、沈黙した。やっぱりお金持ちになった自分を見せるためのステータス・シンボルとしてだったのだろうと想像はできるけれど、祖父が購入したこの屋敷をどうするつもりだったのか、本当のことは本人にしかわからないこと。それは秘められたまま今は天国へ運び去られたのだ。
「それで、二十年間、この屋敷は手入れもされずに放置されていたの?」
「そうです」
さっきから気になっていたことがある。
「それで、あなたは、二十年間、ひとりでここにいらしたの?」
このお屋敷に誰も住まない二十年間。過去が暗く澱んだ屋敷の中に、埃のように時が降り積もってゆく絵が思い浮かんだ。そして広い、ただ広いだけの虚ろな一室に、黒いスーツ姿のいかにも貴族然とした身なりの彼が、ひそやかにたたずんでいる。
精霊はしばらくわたしを見つめ、静かに立ち上がった。
「ごらんになりますか?」
誘いながらもう歩き出していて、それはわたしを連れて行きたいの半分、もう半分は自分が行きたかったように見えた。
「どこへ?」
「上です」




