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二回戦 第一ダブルス その2

「一本!」

『よし!』


 フォア側狙いを続行するのは勿論だけど、一番優先すべきは点を取ること。目的と手段を入れ違えてはいけない。今地田の様子を見るに、またフォア側への警戒を強めてる。

 こっちがサーブを浮かせなければ、相手が返せるのはハーフショットかヘアピン、それかロブのほぼ三択。


 タイミングによってはドライブでもいけなくはないだろうけど、自分のコートに入った時点でネットより低いところを飛ぶシャトルを直線的な軌道のドライブで返すのは、ネットに引っかかる可能性も高いしリスク大。

 そんなようなことを考えてるんじゃないかな?


 ならさ、後ろへの意識はほぼお留守になってるんじゃない?


 スパァン!


 そこで全力ロングサーブ。

 地田にとって久しぶりの高く上がった球。自分が後衛に回れるチャンス。

 絶対に逃したくないよね?スマッシュを打ち込みたいよね?


 チャンスだから、やっと封じられてきた得意なショットが打てるタイミングだからって、全身に力が入ってるのがネット越しでもわかる。


 グワン!


 鈍い音と共に打ち出されたスマッシュは、俺のバック側に飛んでくる。気持ち後ろに下がりつつ備えて、


 パン!


 低めの軌道で返球!よーっし。相変わらず重いけど、予想通り今まで程怖くない(・・・・・・・・)

 俺たちはここまでスマッシュを打たせない作戦で相手の得意を殺すことを徹底してきた。そして、二ゲーム目の後半からは地田の苦手なフォア側を集中攻撃。最後の十五点目は地田のミスでゲット。この一連の流れから少なからず生じた「力み」で、今スマッシュ打つ時腰や足もこれまでより動いてなかったし上半身もちょっと硬かった。


 腕だけ使っても良いショットは打てない。

 どんなショットも、ちゃんと全身を使う。

 バドミントンをはじめてすぐに教わることだけど、それを常に実行するのって案外難しい。


「っと!」


 自分の胸あたりに飛んできた球を落合は上手いことさばいてきたものの、ちょっと角度が甘い。踏み込んでプッシュ!と見せかけてヘアピン。


「うあっ!」


 緩急をつけての返球に対応が遅れたのか、落合がどうにか返そうと思いっきり飛び込んでくる。


 カッ……。


 ラケットのフレームに辛うじて当たったシャトルは、惜しくもネットを超えない。


「1―0」


 よしよし。振り返ってひなたとハイタッチ!一回戦ではありえなかった歓声も聞こえてテンション上がっちゃう。


「クソ!」


 一方拳を床にたたきつけかけて、あっちの監督の咳払いでどうにか踏みとどまる落合。地田と比べたら雰囲気もキツく無いと思ってたけど、やっぱ雷山生……というか雷山高校バドミントン部なだけあって荒っぽい一面もあるんだ。


「ナイストライ、アイ!大丈夫大丈夫、こっから取り返そうぜ!イヌたちもあの松下相手にあそこまで粘ってくれた。俺らならあいつらに絶対勝てる。一勝取り返そう」


 すかさず駆け寄る地田。なんか、年に一度のインハイ予選で気合入ってるからだろうけどそのせいで余裕なさげっていうか……。春風杯や今回の一ゲーム目までは僅差な時でもずっとあのいけ好かない感じだったのに、二ゲーム目俺たちがスマッシュを封じてからはなんかおとなしい?っていうか自分にイラついてるっていうか……。上手く表現できないけどなんか違う。通常運転ではない気がする。


「天野君……?何かあった?」

「んー?ごめんごめん、ちょっと考え事。ちゃんと次のサーブも集中するから」


 眉を顰めるひなたは、本人の中身を知らない奴から見たら立体的な顔立ちも相まってかなりの迫力に見えちゃいそう。俺だって出会ってすぐの頃は正直ちょっとビビってたし。今じゃ心配してるだけだってわかるけどさ。

 そんなことしてるうちに、地田に感じた違和感はすっかり頭の隅の隅へ。そこからは気を引き締めて、とにかく目の前の一球一球に集中していた。気づけばインターバルも超えて、スコアは10-6。後五点で勝てる。

 変に焦らず今まで通りに。そう息を吐いて、シャトルをひなたに手渡そうとしたその時だった。


 バチン!バチン!バチン!


「んっ?!」


 なんか痛そうな音が耳に届く。出所は……相手コート。

 恐る恐る振り向けば、ほっぺと腕を真っ赤にした地田。と、あっけにとられる落合。さっきまで横で励ましてた奴が突然自分をぶっ叩き始めたらそりゃそうなるよな。


「ッシ。こっから!」


 審判や上で雷山応援してる人たちすら地田の奇行にポカンとしてるけど、本人は何かスッキリした表情。なんかさっきまでの硬さがなくなった気がする。これは要警戒、かも。


 サーバーはひなた。レシーバーは落合。地田のスマッシュが不調になったから、「打たせない」から作戦変更して、「打たせて返す」ができていた。だけど硬さがとれたこっからは気を付けないとまずい。バンバン決められて相手が流れに乗ることは避けたい。


「ひなた、こっから地田警戒ね」

「……逃げ切ろう」


 ひなたが示したサインは、ロングのセンターライン寄り。落合を下げて地田を前衛に来させようって感じかな?それなら俺は前をひなたに任せて、後ろを広くカバー出来るように動こう。


 パン!


 打ち出されたシャトルを追って、落合がコート奥へと下がる。飛んできたのはスマッシュ!俺とひなたの間を突いてきた。


「ひなた!」


 それならバックで取れるひなたに任せる。


 パアン!鋭い軌道で落合と逆方向への返球。地田の頭あたりを抜けていく……と思ったのに、なんと反応してドライブで返球してきた。あの低くスピードがある球をネットすれすれのコースで返すなんてめっちゃ強気。でもそのドライブちょっと低すぎない?ほら、ネットに引っかか……


 ペシ……!


 ってこっちのコートに落ちてきた。


「最っ悪!」


 どうにか大きく踏み出してロブを上げる。……けどちょっと浅いかも。

 それをすかさず落合が、体勢の整っていない俺の方にスマッシュ。


 カァン!


 詰まりながらもどうにか返したけど、フラフラと飛んでいくシャトルの先には地田。


「もらった!」


 そう得意げな声と共に打ち込まれたスマッシュは今日一番強烈な音。触れることも出来ずに俺らの間で跳ねた。


「サービスオーバー7―10」


 うっわ、やばい。どうにかこの一本で止めないと持ってかれる。


 背中を嫌な汗が伝った。


ピンチ到来。

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