二回戦 第一ダブルス
うっひゃー、こりゃ中々凄い展開になってきたぞ……。
現在二ゲーム目の中盤。一ゲーム目は終始拮抗した展開だったものの、相手のスマッシュに押しきられて落とした。ひなたは安定して拾ってくれてたから、完全に俺が狙われての失点が重なった結果だ。
一ゲーム目攻撃の勢いに対抗しきれなかったことを踏まえて、このゲームでは相手の攻撃の要であるスマッシュを打たせないように立ち回る。
コーチからのアドバイスを元に二人でそう作戦を立てて臨んだ二ゲーム目。序盤はこちらが一切ロブやクリアをしないことで、しびれを切らした相手が無理に角度をつけた返球をしようとしてミスが重なり、おかげでリードしたまま試合が進んだ。ま、スコアは12-10だからリードなんてほぼあってないようなものなんだけど。でも相手にスマッシュを連発されてこっちが積極的に攻めることができなかった一ゲーム目に比べたら、だいぶ内容は良い。ジャンプスマッシュも決まるようになってきたし。
ただ……なぁ。
いかんせん地田の雷みたいなスマッシュに真っ向から対抗する手段が浮かばない。パワーは勿論なんだけど、なんかそれ以上に勢いがある。一回戦で戦った桃文珠の今井さんとはまた別の方向性で球威というか独特の伸びがあって、とにかく取りづらい。幹人や小夜川のともまた違う感じ。春風杯で試合した時よりもなんか重くなってる。
ここまで打たせないことを徹底しているおかげで戦えているけど、もし打たれ始めたらこう上手くはいかなくなる。だからどうやったらあのスマッシュを返せるか、そして雷山ぺアから一方的に攻撃されずに済むのかってことについては、ここを取り返して三ゲーム目に持ち込むなら考え続けないとだよね。
さて、気を取り直してまずは目の前の一点!サーバーは俺、レシーバーは地田。始まる前こっちのオーダー見た瞬間に「一ダブは絶対取れるから任せとけ」なんてこっちを見て鼻で笑いながらチームメイトに声をかけてたから結構カチンときた。正直試合中あれやったら不品行な振る舞いで※フォルトとられそう。
こちらが一番嫌なのは、地田にスマッシュを打たれること。ならわざわざロングサーブを打って地田が後衛に下がりやすくさせる必要は無い。だけど馬鹿正直にショートばっか打ってても読まれやすくなるから困りものなんだよな。ほらやっぱ、めっちゃ前に構えてるし。ただ俺は、直前の試合で前へ前へと突進してくる猪のような人と戦っている。あの人に比べたら、地田のスピードはそこまでじゃない。だから、必要以上に怖がる必要は無い……はず。今日はサーブの調子も良いから、もう少しこのままいってみようかな。
狙うはサイドライン際。実は一ゲームと少し戦ってきて一つだけ気づいたことがある。それは、バック側に比べてフォア側の返球は消極的なこと。もう少し詳しく説明しよう。ここまで地田はレシーブでも攻めた返球が多かった。例えば、こちらのスマッシュに対してロブを上げずに低い軌道で返したりね。凄いときは低い軌道でクロスに返してきて攻撃してたはずのこっちがカウンターを食らうこともあった。でもそれは、全部地田がバックハンドで返球してたときの話。フォア側の時は、高めの球を上げてくることばかりで、ミスも多かった。全体的に相手の攻めの姿勢が目立っていたから、さっきまで気づけなかった。
このペア、サイドバイサイドになる時やけにお互いの距離が近くなる気がしてた。地田が右利き、落合が左利きで二人の間はお互い取りにくい状況になることが多い。センターのスペースは右利き同士か左利き同士のペアだと、バックハンドで取れる方がレシーブするのが基本。ただ、右利きと左利きのペアだと、立ち位置によってお互いバックハンドかお互いフォアハンドになってしまう。自分が右利きで右側、相方が左利きで左側に立ってるとセンターはお互いバックハンドで取れちゃうからこそ咄嗟の時判断が難しい。反対の立ち位置だとセンターがお互いフォアハンドで、どっちが拾うにせよスマッシュとか角度の附いた球は取りづらい。利き手が違うペアにとってのセンターは、上手い事ローテーションしたり声かけあったりしないと失点の原因になりかねない。だから重点的にその辺のノック練習することも多いらしいし。
晴風は今選手に左利きいないからあんま気にしたことなかったけどね。だから地田に対する違和感にも、気づくのが遅れちゃったのかも。センターのスペースを減らすためにお互いの距離を近くしてるのかと思ってたけど、そこに打ってみてもお見合いなんかすることなく綺麗に返してくる。それもバック側で取れる時はほぼ地田が、フォア側で取らないといけない時は落合が。それに、地田はサイドバイサイドの時だけではなく、常に自分のフォア側のスペースを狭くしてる。これってさ、そこに打たれたくないからなんじゃない?シングルスってこともあってダブルス程速い球の応酬ってわけではなかったから構える位置に多少違和感を覚えた程度だったな。なんか悔しい。
でも今後悔してたってどうしようもない。弱点かもしれないポイントを見つけたのなら、突いてみる価値はある、だからこそ、これまでセンターライン寄りのコース中心だったショートサーブを、ここで思い切ってフォア側に打つのだ。地田は今、かなりセンターライン近くに構えてる。サーブレシーブに関しては大分センターラインへの警戒が解けてきた証拠のはずだから。
ポッ!
俺の手から離れたシャトルに、目を見開く地田。ほら、やっぱり。さっきの今井さんほどのスピードがないなら、少し出遅れた時点でシャトルはもうネットより低い位置にある。アンダーハンドストロークで下から拾いに行くしかないよな?
フォア側での返球はここまでほぼロブ。それがわかってるならこっちも思いきっちゃおう。地田のラケットがシャトルを捉えた瞬間、前衛の俺は思いっきり飛んだ。
散々練習してきたジャンプスマッシュの応用版。後衛で打つ時より空間も時間もないから試合で使ったことなんて一度もない。でも高さは十分。よし、行ける。
そのまま上昇途中のシャトルを、スマッシュ!
スパン!
ネットがこんな下に見えたの人生初めてかもしれない。
ストン!
着地もバッチリ決まった。
「トゥ、12―9」
バドミントンでのオーバーハンドストロークって、最高到達点を経て落ちてくるシャトルを打つことが多い。から今やったことは決して実践向きじゃないし、今後そんなに使える技だとは思えない。でもね、
「い、今の……見たか?」
「み、見た。前衛の奴が……相手のロブにジャンプで追いついて……スマッシュ?した?」
うおー!と場内からはざわめきの声。
ま、あんまネット近くで構えてるとスイングした時ネットに触れちゃうから、前衛とはいってもちょっと後ろ気味に構えてはいたんだけどね。それに、ロブが来ると確信してた上実際来た球が本人自覚なさそうだけど結構甘かったし。それでも今の角度で撃ち落とすなんてそうそうお目にかかれないでしょ?
「すげー?!晴風?ってあれだろ、一回戦でも面白かったやつら!」
「ホントに松下だけじゃないんだな」
会場のボルテージは急上昇!これで雷山の応援にだって負けないし、もうアウェイじゃない!
「チッ……」
ネットの向こうの地田は唇をかんでいる。落合に背中を叩かれてようやくハッとした顔で次のサーブレシーブに向けて準備を始めたものの、その表情からは先ほどまでの余裕を感じない。
やっぱりフォア側のレシーブ、苦手なんだ。そう確信した俺はすぐさまひなたに情報共有。そっからは相手の苦手を突きつつもできるだけスマッシュを打たせない作戦は続行して、そのまま連続三ポイント!二ゲーム目を無事取り返すことに成功した。
ここまでの苦戦が何だったんだ?ってくらい俺のジャンプスマッシュの後は点が取れちゃうからちょっとびっくりしちゃった。相手の弱点も突きつつ自分の得意も押し付けて、あわよくば周囲も味方にできたらなって思ってはいた。だけどここまで効果が出るとは思わなかったから。
「ナイスゲーム。特に後半、良く取りきりました」
少し安心したように頷くコーチ。うん、我ながら最後の四点は本当にいい流れだったと思う。
「一ゲーム目、二人は相手が積極的に攻めてきたものの大きなリードを奪われることなく堪えてくれました。一見すると、攻撃している側の方が優位に立っているように見えます。ですが、スマッシュを打ち続けるのも、相手を崩すためあらゆるパターンを使って自分の手札を切り続けるのも、相当に体力が削られます。おかげで二ゲーム目、相手は一ゲーム目ほどの勢いを失っていた。加えて天野君がここぞというタイミングで流れを変える一点を取ってくれました。三ゲーム目もこのまま行きましょう。君たちは今日既に二試合目。疲れて足を止めてしまいたくなる瞬間もそろそろ出てくるかもしれません。ですが、足を止めた方がきつくなる場合もあるということだけは頭に入れておいてください。直近の目標はインターバルをリードして迎えること。何か修正点があればそこで伝えます」
アドバイスを受けて、コートへ向かいつつ自分の脳内で三ゲーム目のパターンを考える。
まず一番理想的なのは、コーチも言ってた通り二ゲーム目の後半と同じ展開でバンバン点を取っていくこと。つまり「地田のフォア狙い」と「スマッシュを打たせないために高い球を上げない」をこのまま続行する。
それから理想的な展開が望めない場合、例えば相手がこの二つに対して対策をしてくるようならどちらか一つだけでも徹底的にやる。二ゲーム目序盤に絶対スマッシュ打たせないようにしてたみたいにね!スマッシュ打てないのも苦手なフォアに速い球飛んでくるのも、相手は嫌なはず。でもそれを一気に打開する術なんてそうそうない。ならせめて片方だけでも防いで突破口を開こうとしてくるはず。それならこちらは防がれなかった片方の作戦だけでも徹底すれば押し切られることはないんじゃないかなっていうのが俺の予想。
いや、むしろ地田にスマッシュを打たれたとしてもきっと一ゲーム目までよりは怖くないはずだから、三ゲーム目は状況にもよるけど、あえてスマッシュ打たせてみたっていいかも。
「俺サーブでもいーい?」
「……了解」
いつもはちっちゃなことでビビってるのに、なぜかこういう大舞台になるとやたら平常心というか肝が据わってるんだよな、ひなた。今日だってほぼミスしないんだもん。
「マッチワンバイ晴風高校。15-8、15-11」
おっと?あっち終わったのか!途中から長いラリー増えてきてるみたいだったからどうなったか気になってたけど、流石幹人とはねそー。
「……まず一勝だね」
「ねー、良い感じ。俺たちも続こ!」
いよっし。このままガンガン行っちゃうぞ!
※フォルト→平たく言うとルール違反、反則。相手に一点が入る場合が多いが、違反の内容によっては警告、悪質な違反の場合では失格となる場合も。
連日の見応えある熱戦に、つい投稿が滞っています。




