3-12 祝勝会兼収穫祭!
「うん、こんなもんかな?」
川の水面にうつった俺の顔を見て一人つぶやく。
先日の襲撃で大量のDPが確保できたので、ようやくカミソリを召喚してこれまでのサバイバル生活で伸びきった髭を剃れた。
髪はまだ切っていないが、とりあえずは纏めておけばいいだろう。
「爪も整えちまうか」
爪切りも召喚して手足の爪を切って整える。
これから宴用の料理も作らにゃならんし、少しでも清潔にしておかないとな。
「さてと、水浴びも済ませたしそろそろ始めますか」
川で水浴びもすっかり慣れてしまったがやっぱり風呂がほしい。
そう思いながら宴会料理を作るべく、俺はダイニングルームに向かう事にした。
♦
「ん、美味いな」
クツクツと鍋が煮える音と味噌のいい香りが漂うダイニングルームで鍋物の味見をする。
具材は前に作ったのと変わらないダンゴウサギの肉とイマウトルニの2種類だが、今回は味噌を召喚して味付けをしてあるんだ。
「ご主人様、キュウリを取ってきましたー」
「おーう、ククノチありがとな、それはテーブルの上に置いてくれ」
そう、キュウリに味噌をつけて食べたかったから召喚したのだ。
ククノチがキュウリの世話をしたのは最後の数日だけだが、それでも改善できたのか大分キュウリの色つやがいい。美味そう!
「マスター、魚を釣ってきたよ。ん、いい匂いだね」
「おーう、コアさんそれは捌いてくれないか? 後、オーブンに入れてあるローストビーフは数分ってとこだぞ」
コアさんが釣った魚を魚籠に入れてやってきたので、解体スキルを持っているコアさんに処理を頼む。
この魚籠はククノチが作ってくれたもので、商品になるくらい品質が高い。
だから、今まで使っていた草籠を全部作り直してもらって取り換えている。
今後は背負い籠など今まで代替で済ましていたものを作ってもらおう。
「ご主人様、私は何か手伝えることがありますかー?」
「んー、それじゃテーブルの上に料理乗せて適当に食べやすいように切ってくれるか?」
「はいー」
指示を受けたククノチが、ダイニングルームに併設した迷宮の胃袋(冷蔵庫代替)から事前に焼いておいたスペアリブや鶏の丸焼きを取り出して、テーブルの上に並べていく。
「マスター、この魚はぶつ切りでいいのかい?」
「ああ、一口大に切ったら鍋にぶち込んでくれ。それにしてもやっぱ割烹着似合ってるなー」
「ふふ、ありがとうマスター」
結局あの後勢いでコアさん割烹着装備(三角巾付)を作ってしまった。
コアさん自身も気に入ってくれたみたいで、料理する時はいつの間にかこの格好になってくれている。
「ご主人様ー、私には作って下さらないのですかー?」
「そうだな、ククノチにも1着なにか作ろうか。でもククノチは割烹着よりエプロンの方が似合いそうだしなー」
それよりもククノチはヒーラーだしやっぱりナース服のほうが先か?
そういえばナース服と言えば、ドスケベ衣装と呼ばれるトリック・オア・トリ……
「マスター、だらしない顔になってるよ? 何を想像してるんだい?」
「いやいや、農業マスターのククノチはディアンドルとか似合いそうだなーって」
「ディアンドルとはなんですかー?」
「地球のドイツってところの民族衣装だ、間違いなくククノチに似合う衣装だと思うが着てみたいか?」
「そうですねー、ご主人様が似合うと思っているのなら着てみたいですー」
ふーむ、今までずっと食料と防衛という生死に直結することだけにDPを使ってきたけど、女性モンスターも呼び出したし衣装とかにも気を使う生活レベルになってきたかな?
「なぁ、2人とも新しい服とか装飾品とかって興味ある? ほしいって思ってたりする?」
戦闘服はDPで新品同様まで修復できるから、今までずっと着の身着のままで生活してもらってたもんなぁ。
「いらないと言えば嘘になるけど、マスター……というよりダンジョンの懐事情は分かってるからね。余裕が出るまではDP稼ぎや防衛に使ってほしいかな?」
「そうですねー。こうして宴まで開いて頂いてダンジョンモンスターには過ぎた待遇だと思いますー」
うう、二人の心遣いがあったけぇ……今後は臨時収入があったら服飾、装備を整える事も考えよう。
「それより今は宴だよ! マスター、そろそろ鍋も十分煮えたんじゃないかな?」
「おっとそうだった、それじゃあ2人が楽しみにしてたものを出してやるとしますか」
歓声を上げる2人を微笑ましく見守りながら、召喚ウィンドウを開く。
「今回はチョコレートケーキが食べたいんだったよな? コアさん」
「そう! チョコレート! 地球でポピュラーなお菓子なんだろ!?」
「お……おう、じゃあ出すぞ」
若干気圧されながらも、空いている棚の部分にチョコレートケーキを1ホール召喚する。
「こ、これがチョコレートケーキ!!」
「コアさんステイ。包丁も置いておくから食べる分だけカットして持っていくんだぞ? 後しっぽを振るんじゃないぞ、埃がとぶから今はガマンしろよ?」
ピタッと動きを止めるコアさん、うずうずしてしっぽを振りたそうだが必死にガマンしてるのがかわいい。
「よし、次は酒だな。床に瓶で出すから好きな奴を持って行ってくれ」
床の上に先日ラインナップした酒をボトル・一升瓶で出していく。
「ほ、ほああー! な、何から? 私は何から飲めばいいんでしょー!?」
そんなん知らんがな。酒は逃げないから順番に飲めばええやん。
「後は肴だな、枝豆にカルパッチョ、チーズの燻製でいいか?」
「は、はい! 十分ですー!」
「出したぞ。それじゃ待ちきれない奴もいるしさっさと始めよう」
ククノチが未だに酒を決めきれないので、個人的に飲みたかった梅酒を開けて自分とククノチのグラスに注ぐ。
コアさんは大吟醸をチョイスしていた。
「よし、まずは2人とも――」
「「かんぱーい!」」
お前らフライングしすぎぃー! そんなに待ちきれなかったのかよ!
まぁいいや、乾杯の音頭取るの苦手だしこのまま始めてしまおう。
♦
まずは梅酒を一口。
アルコールと共に懐かしい甘味と酸味が口の中に広がっていく。
そのままゆっくり喉に流すように飲み込み、酒特有の後味を味わう。
「うん、美味いな」
「はい、とてもおいしいですー」
相槌を打ったククノチをチラ見してみる。
彼女はもう左手に梅酒のビンを持ち、右手のグラスに注いではぐっと飲み干す。
そんなことをずーっと繰り返してる。
「おいおい、もうすこし味わって飲んだらどうだ?」
「うふふふ、そうですねーまだまだお酒はありますし次はどれにしましょー?」
だめだこりゃ、早くも出来上がりつつあるククノチは放置しよう。
それより俺も食べたかったキュウリを味わいたい。
早速キュウリを手に取るとまずはそのまま一口――
――美味い!
地球で食べたキュウリより硬い歯ごたえを感じたが、一口かじるごとにみずみずしいキュウリの甘味を感じる。
硬いといっても決して不快なわけではなく、むしろこの硬さの後に感じるキュウリ本来の味が絶妙な後味を演出する。
これに……これに味噌をつけたら一体どんな味になるんだ、はやる好奇心を抑えられずに今度は味噌をつけてひとかじり――
――うぉぉ、これはヤバイ!
きゅうりのみずみずしさに味噌の塩味が加わり最強だな!
これだけでも十分美味いがこのキュウリはまだ発展途上、次の栽培でククノチが完璧に仕上げるキュウリは一体どんな味になるのか、コアさんじゃなくてもこれは楽しみだ!
「次のキュウリ、期待させてもらうからなククノチ!」
「はいー、次は白ワインを頂きますー」
――お前は何を言ってるんだ?
それに、よく見たらもう赤ワインが空になってるしペース早くない?
いやまぁ、ククノチが楽しんでくれてるならいいか……
2018/12/19
あいま様にコアさん描いてもらいました!
ありがとうございます!