8-58 表立たないヤツの方が大抵強いのはなんでだろう?
「新入りを殺したくらいでいい気になるなよ」
そういって姿を見せたのは2人の男。
一方はスーツ姿に無地の仮面をつけた長身の姿で、それだけならまぁ闇社会のスタッフとして通用しなくもなさそうだが、両手にどこぞの戦争男のようなでかい爪型の武器を装備している。
んで、もう一方はスーツ姿にどこぞの西部劇に出て来るんだって突っ込みたくなるようなテンガロンハットをかぶってる。
腰にはホルスターらしきものをつけてるし、そこからちらっと見えるのは銃なんだろなぁ。
剣と魔法の世界だと思ってたのにやっぱりあったか。
まぁ、ギフトで地球のもんがあれこれまざってるしないと考える方がおかしいか。
「あー、こいつ新入りなのか。掃除人も今や戦争で使える奴はのきなみ傭兵として出張してるって聞いてるし人手不足も深刻なようだな」
実力の程はわからんが、そりゃ強いなら傭兵として雇われるよな特にここは金が物を言うファンバキアだし。
「悪いなぁ、期待の新人をつぶしちまって」
「かまわん。この体たらくじゃどのみち長くはない」
うーん。こういうドライなところは実に裏稼業っぽいね。
「ま、あんたもすぐに後を追う事になるだろうし問題はないよな」
「その言葉、そっくり返そう」
空気が変わったな。
今のところやりあおうとしてるのは会話をしていた黒いスーツの男と爪をもつ男のみ、女の方は剣を肩にかけたまま微動だにしないし、ハットの男も腕組したまま動く様子はない。
「上級掃除人”爪”参る!」
セリフを言い終わると同時に地を蹴り一気に間合いを詰める爪男。
その勢いも利用し、男の胸めがけて爪を突き立てる!
「おう! 短い付き合いになると思うけどよろしくな!」
一方、黒いスーツの男はどこからかとりだした短剣を両手にもち、爪を受け止め軽口で答えた。
うーむ。接近した爪男の速度といいそれに反応して受け止めた奴といいどっちも結構やる。
俺達は鍛錬のほかにDPというわかりやすい強化があるけど、こいつらはどうやって強くなってるんだろうかね?
この世界のシステムが気になってしょうがないが、今は素直にこいつらの戦闘を見物させてもらおう。
つーか、VIPルームで見た闘技場の戦いより2段階はレベルが高いぞ。
これこそ金をとって観戦させてもいいんじゃなかろうかね?
二人の実力はやりとりを見る感じおおむね互角。
一方の攻撃を受けるか避け、同時に反撃を繰り出しそれを防ぐ。
お互いの武器がぶつかり合うときに発する音が振動となって俺たちに届く。
その強さがぶつかり合う力も尋常じゃないことを教えてくれる。
狭い壇上を目いっぱい使って相手のスキを作ろうと時には転がっていたイスを相手に向けて蹴り飛ばし、
跳ね飛ばしたスキを狙うも距離をとって躱される。
お互いに決定打がないまま攻防が続く。
この状況を変えるには外野が干渉するのが手っ取り早いはずなんだが女は動かない。
時間が経つほど掃除人側に援軍が来る可能性が高いはずだが
何度目かの打ち合いの後、ついに状況が動いた。
「あんたの癖見切ったぜ!」
「!!」
男の顔面を狙った爪を体をひねって躱し、その勢いのまま横蹴りを叩き込み爪男を壁へと叩きつけた!
追撃をしようと男が横を向く。
その瞬間、狙いすましたかのようにテンガロンハットの男が動いた!
ホルスターから取り出したのはやはり銃!
動作から見るとあれはリボルバー式か?
爪男が吹き飛ばされ味方に当たる心配がなくなり、かつ注意が横にそれた絶妙なタイミング!
発砲音数回と同時に聞こえたのは、金属同士がぶつかる音。
そして撃たれたのに平然と立つ黒いスーツの男。
「これはすごい。あの男全部片手のナイフのみで弾を受けきりましたぞ」
ああ、見てた。
銃を向けられた瞬間向けなおして受けきりおったよアイツ。
「アディーラはあれできる?」
「おそらく今は無理であります。練習と慣れが必要でしょうな」
「刀使いとしてはロマンの一つなんだろうけどね」
だろうね。
ウチの連中も弾を防ぐだけならいくらでもやりようもあるが、あの男がやったように正確に弾道を読んで細いナイフで受けきる事ができる奴はいない。
やはり異世界は広いな。
「ちっ!」
ハットの男も全弾防がれるとは思っていなかったようで悪態をつき、左手で弾丸を取り出し銃に込めだす。
そこに黒い男は持っていたナイフを1本ハットの男の身体中心心臓部分に向かって正確に投げつけた。
ハットの男は弾を込めながらも横に飛んでナイフを避ける。
ただ、そのせいでリロードは中断されてしまったようだ。
とはいえそのわずかな間も、吹き飛ばされた爪男が体制を立て直すには十分。
自らをめり込ませた壁を蹴って加速し、黒い男へと向かう!
実質的な2対1では黒い男にとって相当な不利だと思うんだが女はまったく動く様子がない。
今までの戦いぶりをみても相当信頼しているのか、それともできない理由があるのかはわからないが
利き手に持っていたナイフを投げてしまったためか、黒い男は爪男の突進を後ろに飛んで躱す。
爪男は即座に反応し、黒い男が飛んだ方をみて
空いた手にはいつの間にやら銃を持っていた。
こちらは旧式のライフル銃ようなもので、狙いは爪男の脳天!
間髪入れず部屋に発砲音が響いた。
パワーバランスの設定はいつも気をつかう