8-57 中二アイテムは見ると欲しくなる。だって男の子だもん
「おおおおおお!?」
赤い霧に取り込まれた瞬間、まるで乱気流のなかに放り込まれたかのように障壁をゆすぶられる!
おまけに時々障壁を削り取るような衝撃が襲ってきてこっちは障壁を維持するだけで精いっぱいだ!
やっぱりやばい奴だったよこれ!
「ぬぅぅわぁぁぁ!!」
アディーラが叫びながらも霧に飲まれないよう部屋の隅にへばりつくように飛んでくれているおかげで、こちらは正面の障壁に集中していられる。
なんとか踏ん張ってくれよアディーラ!
「攻撃は終わったようだよ」
む、確かに言われてみればいつのまにか何もなかったかのように赤い霧がなくなっている。
障壁に集中しすぎてコアさんに言われるまで気が付かなかったわ。
実際としては10秒もなかったんだろうが、体感だと1分にも5分にも感じ……られ……たわ……
現状が把握できてくると、オークション会場と言うわりと金持ち好みの装飾をしていた会場がみるも無残な姿に変貌しているのが嫌でもわかる。
壁はそこらじゅうまるで巨大な爪でひっかかれたかのようにえぐれてるし、地面もえぐれて吹っ飛んだイスが散乱している。
2階席のボックスを守るガラスのような壁は、ヒビが入っているもののアレを耐え抜いたあたりVIPは何があっても守るという気概すら感じたわ。
そして、あんまり見たくはないけど壇上の上も認識しなくてはならない。
攻撃を放った女が平然として立っているのは当たり前だとして、
……。
うへぇ、女を囲んでいた兵士だったと思われるパーツっぽいものが散らばっている。
取り囲んでいた数は2桁はいたはずなんだが、転がってるパーツを全部足しても一人分に足りてるかどうか……。
まさに剣で切られたっていうよりは喰われたって表現がぴったりだ。
あの女が言っていた”喰らえ”という言葉には2重の意味があったんだとひしひしと思う。
あの辺の赤いシミは司会の血かな? 彼も逃げられなかったか。南無。
「すざましい攻撃でしたな」
現状把握もそこそこにアディーラはゆっくり地面に俺達を下ろしてくれた。
女の方もこちらに気づいたようだが特になんの反応もない。
ん? 壇上すぐ前の観客席の陰からだれか一人起き上がってきた?
「このバカ野郎、俺まで殺す気か」
黒いスーツに身をつつんだ男はそういうと壇上に一足飛びに飛んであがると女の肩を叩いて責める。
俺の記憶が確かなら、あいつは競売で壇上に上がるときに女の隣にいた奴だ。
あれに巻き込まれてよく生きてたなぁ。
それとも仲間だったから避ける方法を知っていたと考える方が自然か。
改めて考えてみれば異世界なのに普通にスーツってあるんだな。
遠目だから素材はよくわからんけど、それなりに立派な感じはする。
「お前は平気だろう? そんな事よりもだ」
女は男の追及を無視するように踵を返すと、赤い霧の暴風に巻き込まれて床に落ちていた黒い手袋を拾いあげる。
「上級掃除人とやらの始末はお前がやれ」
「へいへい、人使いがあらいこって」
そういって男の方に手袋を雑に投げた。
なんだかんだ男は文句を言いまくっているが素直に手袋をつけているあたり、特段中が悪いというわけでもなさそうか。
男は手袋をつけおえるとにぎって閉じてを繰り返し、何かを確かめているようだ。
「あーあ、俺も手袋の本当の力を見せてやるって言いたかったんだけどなぁ、お前が全員殺しちまったからせっかくの見せ場なのに誰も……お!?」
わざとらしく会場を探すふりだけして文句を言ってやろうと思ってたのか、男はこちらの姿を見つけると本気で驚いたように声をあげる。
「おー! お前らあの中にいてよく無事だったなぁ!」
「話かけんじゃねぇ! こっちは仲間だと思われたくないんだよ!」
そのうち上級掃除人とやらが来るんだろ?
仲間と思われて一緒にお尋ね者になるのは勘弁してほしい
「嫌われちまったか。まぁ、観客もいるってわかったしちょっとやる気出てきたわ」
いやまぁ、ここまで来たら男の方の力も見ておきたいっていうのもあるけどさぁ。
軽く体を伸ばしたのち、男は両手を近づけてもそもそとさせる。
そして両手を離したかと思えばその手に握られていたのは男の身長と相違ないほどの赤い槍。
「あの槍どっからだした?」
「自分の目に狂いがなければこう、パーにグーを近づけて離したら握られてた感じですな」
なるほど!? ということは、あの男の手品じゃなきゃあの手袋の力ってことか?
武器を精製するのかはたまた空間から取り出すのか、どっちにしろ中二っぽい能力に違いない!
いいなぁ~あれ、そう考えると欲しくなってきたなぁ。
ワンチャン上級掃除人が勝ったらドサクサでお持ち帰りできないかしら?
お? その上級掃除人とやらがようやくおでましかな?
ここからだと見えはしないが壇上の袖口あたりに索敵障壁の反応アリだ。
壁1枚挟んでるせいでちょいと精度がよくないが、何人かきたっぽいな。
そのうちの一人が袖口から壇上へと来たみたいだが、その姿はみえない。
だが、よーくみると反応がある辺りの空間が微妙に歪んでいるのがわかる。
あー。前にもあったなこれ、意外と透明になれる道具なり能力をもってるやつはこの世界には多いんかね?
ま、それを教えてやる義理もないしこのまま見てよう。
男の方は槍の感触を確かめるように左右で握りなおしたり、頭上でクルクルと回している。
その間にも空間のゆがみはゆっくりと男の背後から近づいていく。
「よっ!」
男は槍を逆手にもつと脇の下を通し、唐突に背後にむけて突きを繰り出し歪みを一突き。
すると鈍い音と共に、歪みを境に赤い血に濡れた穂先が出てきた。
「ぐふっ」
「せっかく透明になっても気配の消し方が雑すぎるなあんたは、道具に頼りすぎてるようじゃ上級掃除人失格だぜ?」
まぁ確かに透明になれるだけじゃ大して強くもないと思うようになったわ。
ウチのダンジョンの連中はソフィアとアイリを除けば、得手不得手はあるけど全員なんらかの方法で透明な相手でも察知できるしなぁ。
ある程度の強さになると相手の居場所はもちろん、洞察と言う名の直感というか予備動作を見て体を動かせるくらいじゃないと戦いにすらならなくなってきてるしな。
男が槍の柄を持ち上げるように押すと、徐々に姿が見えてきた胸を貫かれた掃除人とやらが仰向けに倒れる。
そのまま墓標のようにそびえる槍を抜こうともせずに男は袖口の方をちらりと見ると
「お前らの相手は俺がしてやるよ。怖いなら尻尾撒いて逃げてもいいんだぜ?」
煽りおるなぁ。
まぁ、掃除人としての見せ場もみたいしここは意地を見せてほしいところだね