8-54 オークションの熱気は値段を吊り上げる
「それではこれより本日のオークションを開催いたします!」
ちょっとした劇場くらいの大きさはある会場の壇上にて司会の男が高らかに宣言する。
とりあえず入れてよかった。今回は物珍しいものが多く出品されているらしいだけに入場料を取られてでも見たいという人は多く結構ギリギリだったわ。
まぁ、そういう事になったらさらに値を上げられるんだろうけど。
「本日は大量に出品されている事もありまして初めて参加されるお客様も多数いらっしゃいます! なので最初の競売に入ります前に改めてルールのご説明をさせていただきます!」
一応ラウンジでルールは聞いているが、実演を交えての説明をしてくれるのはありがたい。
「まずは出品者の最低落札希望金額にてスタートいたします! 参加される方は起立をお願いいたします!」
これでざっと参加者が何人いるかの目安になるわけね。
「希望者多数の場合まずはこちらの方である程度金額を少しづつ上げさせていただきます! 降りるお客様は着席を願います!」
これは時間短縮も兼ねてるんだろう。
「参加人数が10人ほどになりましたら1階席の方は壇上へとおいでいただきます!」
俺たちの席が比較的後ろだから見えていたがこの会場には左右にせり出した二階席が設けてあり、そこには上級身分証を持つ人たちの席になっているようで、ここには代理人が参加しているらしい。
最後に壇上で値を上げて、自分以外の人間が根を上げるまで競売は続くというわけだ。
「はい、ご清聴ありがとうございます! とはいえ1回やってしまえばすぐにご理解いただけると思います、というわけで早速一品目のご紹介をさせて頂きましょう!」
司会が宣言すると横の入口から別の男が競売物を運んでくる。
遠目だと細かい部分はよくわからないが、釣り竿っぽいという事だけはわかる。
「こちらの釣り竿。一見ではなんでもないように見えますが、こちらの釣り竿ももちろんグリー氏のコレクションの一つです!」
つまり何らかの付加要素があるって事か?
あれこれ考えていると、数匹の魚の入った大きめの水槽が運ばれてきた。
「この釣り竿、なんと針が魚の方に向かって動くので簡単に得物を釣る事が可能となっております! 百聞は一見にしかず! まずはご覧ください!」
男は釣り竿を構えると水槽の中へと針を入れた。
そして3秒もしないうちに魚を釣り上げて釣り上げる。
「確かに針が魚に向かっていったように見えましたな」
俺には即釣り上げたようにしか見えなかったが、アディーラは針の動きが見えていたらしい。
さすがの視力だな。
「この釣り竿ならば坊主になる事はございません! そしてこのファンバキアには良質な釣り場がいくつもございます! 極端な話これ一本あれば生活できます! 是非いかがでしょう!」
確かに釣り人にとっちゃほしいっちゃほしいが、俺らには自分から釣り上げられようとする魚がウヨウヨいる釣り場あるからいらないな。
「それでは金貨10枚からスタートです!」
仮に金貨10枚で落とせたとして、元を取るにはどんだけ釣り上げないといけないんだと思ったけど
「おおっと! 結構参加されてる方がいますね! では金貨20! 30! ちょっと飛ばして70はどうだ!」
こうなってくると単純に釣りが好きな人が多いんだろうな。
もしくは競売に参加できる程度の財産があれば金額は特に問題じゃないんだろう。
それでも値段があがるほどに一人また一人と脱落していく。
「それではここからは壇上でやりましょう! 残っている皆さまはこちらへどうぞ!」
ぞろぞろと壇上で上がっていく人たちは、まぁなんというか釣りが好きそうな恰幅のいいおっちゃんばかりである。
これは多分に偏見も入ってるけど。
「それでは続きとまいりましょう! 会場の皆様も値があがりますごとに拍手をお願いいたします!」
司会の男が盛り上げ、値はさらにつりあがる。
あがるごとに歓声につつまれ、負けじとさらに手を上げるものがでる。
やかましいともいえる歓声だが不思議と心地よく感じる。
この感じは覚えがある、確か……
「どうやらこの会場には人を高揚させる魔法がかけられてるみたいだね」
「あー、やっぱりそうか」
コアさんに幻術を食らった時のように、自分のではない感情をまぜられてたのは部屋自体に魔法がかけてあったからか。
まぁ、ぶっちゃけて言ってちょっと気分をアゲる程度だし、魔法をかじってる人間なら簡単に打ち破れる程度なんだけどね。
「落札! 金貨500枚で落札です! おめでとうございます!」
お、ようやく決着がついたか。
司会の男が盛り上げるのもうまくて最後の2人がどんどん値を釣り上げていたが金貨500とは相当だな。
いやー。これよく考えたら催眠商法も混じってるし恐ろしいわ。
落札した男も落札して状況に気が付いたのか、想像より高値でとっちゃったのか落札した喜びよりも顔が青くなっている。
テンション上がっちゃったのもあってやらかしたみたいだね。
まぁ、俺たちは今日は参加する気はないんだけど、もし俺に刺さるものが出品されてたら自制が効かなくなっちゃいそうでやっぱオークション恐いわー。
あけましておめでとうございます
今年もゆったりやっていきますぞい