8-50 異国の読めない料理は結構なギャンブル
賭場から歩くことしばし、これまた別ベクトルで派手な部屋が見えてきた。
入口になんか彫像が飾られてたりやたらと金を使われてたりでお世辞にも趣味が合うとは思えねぇな。
「こちらが当カジノのレストランとなります。よろしければお食事などいかがでしょうか?」
案内の男のこのセリフにコアさんが何かを訴える目でこちらを見てきた。
下のフードコートとは違いここは上級身分証がないと入れない場所だからコアさんが一人で行くことはできない。
思い返せばまだ昼飯もとってなかったし、頃合いでもあるか。
「店内で食事をすることもできますが、ご希望なら個室にてお食事をとる事もできます」
あーうん。他の客に見られるのもなんか嫌だしそれなら個室を取っちゃうか。
その旨を伝えるとレストランから少し歩いた先にある個室に通されたけど、
「想像していたものとは大分違うね」
コアさんが漏らした感想と同じように、派手な食卓があるとこまでは予想通りだったけど、個室と呼ぶには広いスペースにソファーやベットなどの家具一式まであるときたもんだ。
「はい、こちらはお客様方の休憩スペースも兼ねております。お食事が終わりましたらごゆるりとお寛ぎください」
「それよりもあれはなんだ?」
ソファーの前にある壁にかけられた長方形の物体をさして聞いてみる。
「はい、あれは開発者の名前をとった”テビー”と言うものでこの部屋に居ながら隣の闘技場や当カジノのギャンブルの観戦ができる装置でございます」
やっぱり名前は違うがテレビみたいなもんか、結構でかくてちょっとしたスクリーン位ある。
聞いてみると放送局はなさそうなのでこのカジノと隣の闘技場限定のシロモノのようだ。
「よろしければここで闘技場の試合を観戦なさいますか? この後の試合なら賭けることもできます」
「見るだけで」
誰が戦うのかまったくわからん状態でなんとなく賭けても負ける要素しかない。
男がなにやら操作すると黒かった画面に光がともり、闘技場の試合が映し出される。
そこには丸いリングの上で何人もの選手が殴りあい、倒れた者をリングから投げ落としていく。
最後まで残った男が片腕をあげ、観衆の歓声を一身に受けていた。
とはいえ、残った男も満身創痍。体中が傷だらけで顔もボコボコに腫れている。
男の談によると今回は死者がでない競技だったらしいが、ここを利用する者の中にはもっと残虐な試合を笑って見ながら平然と肉をかぶりつくようなド変態共もいるんだとか。
そいつらとは友達にはなりたくないな。
「映像をポーカールームに切り替えてくれないか?」
男が何やら操作するとポーカールームへと切り替わった。
闘技場に比べると地味ではあるが、飯を食うのに猟奇的なシーンよりはましだな。
「こちらがメニューとなります」
ポーカーを観戦しながらメニューを開いてみる。
ふーむ。さすが上級身分証が必要なだけあってどれもなかなかいいお値段だな。
せっかくだしコースを頼んでもいいんだけど、肝心の料理の中によくわからんのがいくつかあったりする。
「”マソップのから揚げ、旬のチロチロのヒッポロソースを添えて”ってなんじゃこれ?」
ひらがなとカタカナで書かれてるから読めはするんだけど、こんなもん地球にはないよな?
いやでも地球に該当する物がなければこうなるのも致し方なしか。
「コアさんこれ何か知ってる?」
「何かわからないものを食べてみるのも一興だよマスター」
ははは、ここはカジノだからこれでもギャンブルしろってか。
うーむ。海外で読めないからって適当に骨付き肉っぽい奴を選んだら骨スープが出てきたことがあるから、できれば食事でガチャをするのは避けたいんだけど……
まぁ、ここは高級店だしから揚げならハズレを引くこともないか。
「んじゃ、自分はこれで」
「かしこまりました」
コースなら1つや2つハズレを引いても他でカバーできるからこれでいいや。
コアさんとアディーラもそれぞれ料理を選ぶと男は下がっていった。
料理が来るまで暇なので3人でソファーに座り、テレビに映るポーカーを見て待ってよう。
リモコンのようなものを使えば好きなテーブルを観戦できるみたいだしほんとテレビみたい。
「基本的にやる事は金を賭けるか上乗せするか降りるかの3択だ」
ルールを含めた基本的な流れをアディーラに教えつつ、にわか知識の解説も2人にしてみる。
「多分アレ、何も手が入ってないブラフだな」
大金を賭けられた相手が降りると、男は嬉々として自らのカードを見せる。
予想通りそれはブタだった。
「どうしてわかったのでありますか?」
「ポーカーはある程度行動で相手の手札がしぼれるんだ。今の試合だとな――」
今のはポットに対して明らかに過剰に賭けてたしねー。
「ま、ブラフだと思ってても大金を賭けれるかっていうのはまた別問題なんだけどな」
「なるほどー。単純に見えて奥が深いでありますな」
その読みあいが魅力ではあるんだけどな。
「失礼します。お食事の用意ができましたのでどうぞお越しください」
お、準備できたか。
こちらが椅子に座ると料理がサーブされてくる。
ん、結構な金額を取るだけの事はあってなかなか美味い。
スープや前菜を軽くたいらげれば、次にくるのは
「こちらが"マソップのから揚げ、旬のチロチロのヒッポロソースを添えて"でございます」
きた! 正体不明のメイン料理!
さっそく実食といこう!
ハズレ料理を引いてもそれが旅だと自分を無理やりなっとくさせるのさー