8-49 金持ちも貧乏人も本質は変わらない、と思う
「おおー。なんというかここだけ別世界のようですな」
カジノに入ったアディーラが思わず感嘆の声を漏らすほど、室内は熱気に包まれていた。
広い室内に何台ものテーブルが所狭しと並び、幾人もの客がついている。
「さって、異世界のギャンブルはどんなルールかなっと」
見ただけでわかるとは思わないが、困ったらディーラさんに聞けばいい。
とりあえず一番近いテーブルに行って眺めてみよう。
テーブルの上にあるのは……トランプか?
マークが微妙に違うが全部で4種類あるというところは同じか。
客が手前側と奥側のどちらかにチップを賭けると、中央のテーブルに2枚づつ配られた。
ディーラーが客にカードを渡すと、客はゆっくりカードをめくりながら一喜一憂している。
「こいつは……バカラだな」
「主殿はご存じでしたか、どういうルールなのでありますか?」
「簡単に言うとトランプ2枚か3枚めくって足して1の位が9に近い方が勝ちだ」
だからトランプの見方によって0か9かと言うときがめっちゃ盛り上がるんよな。
それよりここでも地球のカジノのゲームがあるとは思わなんだ。
「ちょっと遊ぶ前にぐるっと回って見てもいいかな?」
そして二人を引き連れテーブルエリアをゆっくり歩いて適当にゲーム中のテーブルを横目で見る。
お、これはブラックジャック。あそこで盛り上がってるのは……クラップスか。
ほほぉ~。チャイニーズポーカーにカリビアンポーカーまであるとはね。
ルールもほぼ地球と同じ、これもダンジョンからの知識とみていいだろう。
ギャンブルをするテーブルエリアの先に見えたのはいくつかの店。
そのどれもが食べ物を売ってるし、どうみてもフードコートだな。
「コアさん。せっかくカジノに来たんだしせめて一周するまでは我慢しないか?」
「私はギャンブルよりあっちに入り浸りたいところだけどねぇ」
すかさずフードコートに向かおうとしたコアさんを羽交い絞めにして止める。
ギャンブル依存症になりそうにないのはいいけど、食道楽も食費がかさむという意味では変わらんな。
まぁ、あそこは酒も売ってるようだしククノチもいたら止められなかったな。
フードコートで何売ってるかちょくちょく見ようと立ち止まるコアさんを引っ張りながらさらに奥へと進めば2階へと続く階段があった。
さして長くもない階段を上がると、その先の部屋にはまた複数のテーブルにわかれて何やらカードゲームにいそしむ人たちが見える。
「こちらはポーカールームとなります。ご参加されますか?」
なるほどね、ここは客同士でポーカーを楽しむスペースということか。
「いえ、今はカジノを見て回ってますのでまた後程お願いします」
「この先は上位身分証のないお客様の立ち入りはご遠慮いただいております」
確かに今日即来ていれば入れなかっただろう。
だが! 今は違う!
「これでどうだ?」
「これは、はい。大丈夫です」
もっててよかった上位商会身分証!
セバスチャンさんありがとう!
というわけでさらに上の階へと行ってみよう。
警備に身分証を見せて通してもらいさらに階段をあがる。
踊り場を上がって振り返った瞬間に世界が変わった。
そう思わせるほど一気に周りの景色が豪華になったな。
「ようこそおいでくださいました」
階段を登り切ると制服を着こんだ数人の男女が俺たちを出迎える。
「ここでは私共がおもてなしをさせていただきます。どうぞなんなりとお申し付けくださいませ」
完全に同じタイミングでお辞儀をするスタッフたち。
ここに来るとVIP扱いになるようだ、ということは相応に金を落とさないといけないという事でもある。
「自分たちはここに来るのが初めてでね、まずは案内をしてもらえると助かります」
「かしこまりました」
一番右に立っていた若い男性が返事とともに一歩前へ進む。
「私がご案内させていただきますのでどうぞこちらへ」
「いってらっしゃいませ」
他のスタッフの礼の間を通り、奥へと進みだす。
なんというかこういうのはどうも慣れないな。
最初に案内されたのはカジノフロアだった。
下の階と同じようにいくつかのテーブルがあるが、雑多な熱気があった下とは違いここでは数人の着飾った男女が静かにギャンブルに興じている。
ま、とはいえ品性は下とどっこいどっこいと言ったところか。
えげつない金額を賭けて勝てば景気よくおだてた腰ぎんちゃく共に金をばらまき、負ければ悪態と共に殴り飛ばす。
それでも何も問題ないのは巾着共にしてみれば、殴られるのさえ我慢すれば実入りのいい仕事なんだろう。
「よろしければ専属のディーラーをつけて個室で賭博をお楽しみいただくこともできますので」
ここでまざってギャンブルをしたくないという俺たちの空気を感じ取ったのか補足してくれた。
察しのいい人だこと。
「続きましてレストランをご紹介させていただきます」
コアさんがぴくりと尻尾を反応させたのを横目に見つつ、俺たちは後へと続いた。