8-44 バーベル何キロ持てる?
流石に重りを使う筋トレで重力を上げると、思わぬ事故を起こしそうで怖いから1倍にしておくか。
もっとも重くしたきゃそれだけ重りを増やせばいいだけだし。
「オルフェ殿、今日はどれくらいいきますか?」
「んー? 今日は少し頑張ってみるかぁ」
そういう二人が用意している重さの合計が尋常じゃない。
二人はかるーく言ってるけどあれ1個100kgだぞ、それをオルフェは6個、アディーラは4個用意している。
これだけで地球の重量挙げの世界記録とほぼ同等だが、1回あげればいい記録と違って今からやるのは何回も繰り返す筋トレだぞ。
おまえら肩にちっちゃいフォークリフトのっけてんのかい!
それはさておき、この二人を含めトレーニング用のウェアに着替えたケモミミ娘達は実に眼福である!
水着もよかったがこれはこれで趣がある。
無駄な脂肪が一切ないきれいなボディライン!
水をはじくつるつるの肌!
しっかり手入れされたさらっさらの髪&しっぽ!
「マスターはこうなると毎回見とれるんだから、こっちはとっくに準備できてるんだよ?」
「ははは、男なら見とれるなっていう方が無理ってもんだ」
むしろ理性を保っていられるところをほめてほしいところだな。
「それじゃあまずはウォームミングアップから始めよう。バーベルを持ってくれ」
見渡して全員がバーベルを順手で持ち、準備ができたのを確認してっと、
「OK、それじゃあミュージックスタート! 今日も楽しんでいきまっしょい!」
掛け声と共にどこからともなく軽快なメロディーが聞こえてくる。
こいつはみんなが好きな曲をソフィアが編曲とマッシュアップした特性のトレーニングミュージックだ。
「まずは背中から! ツーツーのデットリフト!」
音楽に合わせて膝までバーベルを滑らし、胸を張り背中に力を入れながら2カウントで元の姿勢に戻る。
合わせて皆も俺のマネをして前かがみになりバーベルを滑らせる。
そして腕、足、肩と一通り曲に合わせて体の筋肉を動かせばウォーミングアップはおしまい。
全員バーベルを床へと下ろして思い思いに休憩を取り始める。
それが終わればまずはふともも、一番重りをつけて曲が流れる間ひたすらスクワットするだけ、簡単っちゃ簡単なトレーニングではあるんだけどさぁ、
「それじゃあここから頑張ろう! シングルカウントのスクワット!」
「あ~、足に効くぅ~!」
「そんな事いって オルフェ殿はまだまだ余裕がありそうですな!」
会話を聴くだけなら筋トレを楽しんでる人にも聞こえなくもないけど、これ600kgと400kgをかついだ奴が言ってるんだよなぁ。
デカイ重りをつけられたバーベルがミシミシしなってる!
まさに鉄の猫じゃらし! ライオンでもあやすんかい!
そういえばあーいうダイエット器具あったよなぁ、なんだっけ?
「ひー、はひぃ」
「無理はしなくてもいいが、笑顔は忘れずになー! イェー!」
「い いぇー!」
一方、ソフィアは早くも足にきてつらそうだ、この中じゃ一番軽いがそれでもついていくことも難しいか。
つらかったら重りを軽くするのはいいけどさぼるのはダメだからな?
約5分ほどの曲が終わればスクワットも終わる。
オルフェやアディーラがバーベルを床に置くと、地響きと共にドゴンというバーベルが出したらいけない音がトレーニングルームに響く。
「OK、ナイスファイト! 次は胸周り行ってみよう!」
「あたしこれダメですわ。しっぽが邪魔で上手くできないや」
たしかに寝転がるベンチプレスだと、一番でかいしっぽを持つソフィアにはかなり大変そうだ。
つーか、自前のもふもふしっぽに身をうずめられるのは羨ましいな。
「いや、普段だったらいいんですけど重りを持ったら尻尾も腕も痛くてできませんよ」
確かに自重+重りが尻尾にかかるのはつらいな。
「んー。じゃあ代わりに曲が終わるまで全部腕立て伏せでもやっとく?」
「おとなしくこれは見学させてくださいよ」
まぁ、しゃーねーか。
後で代替えになりそうな方法を探しておこう。
「よし、そろそろ始めよう」
曲が始まってしまえば後はバーベルを上げ下げするだけ、最初は軽くこなせても後半になってくるとバーベルの重みで腕や胸が痛くなってくる。
だが、今の俺はインストラクター!
素人とはいえ皆の見本となっている以上、ここでへたれるわけにはいかん!
「ラストスパート! 気合入れていくぞー!」
「おぉー!」
ある意味自分に言い聞かせるようにいったが、ちゃんと声を返してくれるケモミミ娘達。
特にアイリが元気よく声を返す。
性格から華奢なイメージだったけど、DPで強化したこともあってそんちょそこらの盗賊より体力も根性もある。
忘れかける事もあるけどさすがは遊牧民族長の娘と言ったところか。
「フィニーーッシュ! よーしみんな、バーベルを下ろしていいぞー!」
といいつつ自分がいの一番に起き上がりバーベルを床へと下ろす。
みんなで頑張れば苦しい時間はあっというまさ!
オルフェやアディーラにはおよばないが、俺もなかなかいい重量を上げていたこともあっていいトレーニングになった。
このトレーニングは筋持久力に効くから敵と数時間単位で戦闘する可能性のある俺達にはぴったりだ!
この調子でどんどん鍛えていくぞ!
「次は背中いってみよう!」
「これは自分にとって一番重要ですからな。しっかり鍛えていくでありますよ」
やっぱ飛ぶのに背中の筋肉って重要なの?
「それもありますが、何かを抱えて飛ぶには腕だけではなく背中も使わないと腕がつらいですからな」
抱えられるものの大半は俺だったりするので、しっかり鍛えてください。
「次! 腕いくぞー!」
「これ代わりにツルを使ってもいいですかー?」
確かにククノチは腕よりツルの方が物を持つ機会が多いけど、そもそもツルって筋肉あるの?
鍛えられるもんなの?
「んー。筋肉はないですけど強さは太さに比例する感じですかねー」
「今回は人型用って事でとりあえず腕でやってくれない?」
「はーい」
まぁ、ツルが鍛えらえれるんならやってもらったほうが何かといいけど、そんな方法はククノチにしかわからないだろう。
「ネクスト! ふくらはぎ!」
「ウチ、これ苦手なんよねー」
アマツは人魚から変身してるだけだからそこは苦手なのか。
「まぁ、尾びれの筋肉によう効いて速く泳げるようになるけん、頑張るっさね」
アマツの変身能力ってその辺はちゃんと連動するんだ。
「後は肩と腹筋をやったら終わりだぞ」
「よ……ようやく、終わりが……見えた」
「なんだかんだちゃんとついて来て偉いぞソフィア。後ちょっとだ頑張れ」
「あたしも……参加させられるって知ってたら……作らなかったのに」
みんながちょっと筋トレに飽きてきた時、昔一回だけジムに体験で行ってやってみた中にこういうのがあったのを思い出したのよね。
あんときの俺はひょろかったから1回やったきり筋肉痛になって二度とやるもんかと思ったけど……
とはいえ、割とみんな音楽が好きなのもあって筋トレへのモチベーションが上がったのはいいことだ。
後はもう少しソフィアが体を動かすのが好きになってくれたらいいんだけどねぇ。
「フィニーシュ! よく頑張った!」
「お……おわった」
プルプル震えながらもなんとかプランクをやりきったソフィアが床へと突っ伏した。
普段ならなんてことなくても筋トレやった後だと自分の身体支えるのも結構しんどいんよな。
いやほんと、よく頑張ったよソフィアは。
「ふぅ~。今日もいい汗かいたぁ~」
「そしたらお風呂タイムよー」
「自分もお供するでありますよ」
オルフェとアマツとアディーラは重りを片付けるとさっさと風呂場に直行してしまった。
「運動した後のご飯は格別だよね」
「ですねー。プロテインがまたいいんですよー」
んでもってコアさんとククノチは運動後の栄養補給をするようだ。
「ソフィア様、大丈夫ですか?」
「……大丈夫じゃない」
そして突っ伏したまま動かないソフィアを気遣うアイリ。
最初は体力配分間違えて必要以上に体力を消耗するからしゃーない。
何回かやればいい意味で力の抜き加減もわかってくるだろうさ。
「よろしければストレッチとマッサージでもしましょうか?」
「おねがいします」
「それならまず風呂に入ってきな。汗冷えしちまうぞ」
ソフィアが流してる汗は冷や汗に近いものもあるからなぁ。
アイリはソフィアを背負うと、俺に一礼して出て行った。
「さてと――」
そして誰もいなくなったトレーニングルームで1人つぶやき、右手に魔力を込める。
コアさんにはモロバレだがこれで秘密の特訓ができる。
なんていうかケモミミ娘達が成長したりスケイラや三面堅の登場で、俺の攻撃力不足が目立つようになってきた気がするんよな。
雑魚処理能力はアマツやククノチ、それにかく乱が得意なコアさんに及ばず、かといって強敵との戦闘もオルフェやアディーラには及ばない。
役割を持たせたと言えばそれまでだが、やはりマスターとしてはこのまま後れを取るわけにはいかねぇ。
幸い新技の構想はできてるし、後は繰り返して技として昇華させるのみ。
「ふっ!」
コアさんが晩飯に呼ぶまで俺は一人居残り特訓を行った。
B〇DY PUMPはいいぞ!