8-43 戦闘民族が愛した修行法
今回は時系列を無視した小話
ジンガステップを取る俺に向かい駆けて来る敵が一人。
相手の掌底や蹴りをステップでかわし、あるいはクロスさせた腕で受け止める。
重い!
相手の掌底をとめた腕がしびれる。全身の力を集約させたいい攻撃だ。
「ふんっ!」
両手を押し出し、防御の構えを解くのに合わせて相手を吹き飛ばし距離を取る。
だが相手もくるりと一回転して綺麗に着地。
そのまま地を蹴り再び俺に向かってきた!
だが、今度は俺も攻撃させてもらおう!
こちらに向かってくる相手の顔面に回し蹴りを叩きこもうと右足に遠心力をつけて蹴り出す。
しかし相手もそれを読んでいたのか、腰を落として足の下をかいくぐってかわす。
相手は攻撃を外して背中をさらした俺に掌底を叩きこむべく右手を突き出す!
かかったな!
回し蹴りの反動で引っ込んだ右足とは反対に前に出た左手で相手が繰り出してきた掌底の腕を取り、回し蹴りの勢いのまま前横へと引っ張り相手の体制を崩す。
自身はそのまま一回転半、相手に背中を見せる。
まだ相手がつんのめって腕を伸ばした状態であるうちに左手を一度離し、右手で相手の肩を巻き込み腰で相手をかつぎあげて
「おりゃぁ!」
気合とともに一本背負い!
相手の身体が空に反転しそのまま地面へ叩きつける!
しかし、叩きつけた衝撃がない。
「ふぃー。まだ主さんにはかなわんね~」
組み手の相手、アマツは地面との間に水を生み出して衝撃を緩和したようだ。
「いやいや。ここまで追い詰められるとは思わなかったぞー、次は負けるかもしれんな」
今回は格闘戦しばりってのもあったからな。
アマツを起こして周りを見渡せば、他はまだ模擬戦の真っただ中。
「あはははは! これもよけるなんてアディーラやるじゃん。さっすがぁ!」
「オルフェ殿もますます蹴りがするどくなっておりますなぁ!」
あの二人はもうどこまで行くのかわからないくらい動きが変態じみてきている。
関節がどうなってるかわからないくらいフェイントを織り交ぜた蹴りを繰り出すオルフェもオルフェだが、それを後ろに下がることなく紙一重でかわすアディーラも化物レベルに仕上がったな。
「うーん、式紙を全部叩き落されちゃったか。ククノチの鞭の腕前もかなり上達したね」
「こちらもギリギリでしたよー。一歩も動かずに落とすのは無理でしたし―」
一方あっちはコアさんが飛ばすいろんな式紙をククノチが迎撃する中距離戦の訓練をしていたようだな。
以前は単調な動きしかしなかったコアさんの式紙がフェイントを仕掛けてくるようになっただけでも相当すごいが、それを鞭だけでさばききるククノチも大したもんだ。
「なんていうか別世界の人たちだよねぇ」
「ソフィア様もいずれは向こう側になられると思いますよ」
「あたしが? まっさかぁ~」
そして俺たちの戦闘訓練を遠巻きに見るソフィアとアイリ。
アイリの言う通りできればソフィアにも参加してほしいところなんだが、今のところどうにも一歩及ばないところがあるんだよなぁ。
生粋のダンジョンモンスターである以上、なんらかの工夫があればいけないこともないと思うけどね。
「よし、模擬戦はここまでにしよう」
俺の掛け声に4人の動きがピタリと止まり組み手を解く。
「終わったなら早く元にしてくださいよ。体がしんどいんで」
「はいはい」
催促するソフィアに応じてコアさんが返事をすると、同時にふっと体が軽くなる。
「んー。やっぱ重力が2倍になっただけできつかったねぇー」
「受け止めるお水もいっぱいださなあかんからしんどいよー」
「いや、みんなあれだけ動けるだけですごいですよ。あたしなんか居るだけでそりゃもうつらかったっす」
たかが2倍、されど2倍と言ったところか。
自分の体重が2倍になっただけで普通に立つのも力を入れてないと無理だしな。
有名な戦闘民族が愛した修行法だから重力操作できるトレーニングルームを作ってみたけど、今はまだ2倍だけでも十分効果があるわ。
というかこれが3倍4倍となったらほんと耐えるだけで精いっぱいになっちゃうな。
「よっしゃ、模擬戦の後は筋トレだ!」
DPで強化できるとはいえ、その上昇幅は結局肉体の強さに依存するからな。
小手先の技術を覚えるのもいいが、最後にものをいうのはやはりフィジカルだ!
オルフェを見てたら特にそう思うし。
実際魔法を無効化してフィジカルで押し切ろうとするオルフェが一番手ごわい。
「これ私もやらなきゃダメなやつですか?」
「これくらいはやっておけよ。動かないと体がなまるぞ」
あまり乗り気ではないソフィアを説得する。
ダンジョンモンスターは体型は変わらないとはいえ、筋トレすればちゃんと鍛えらえるのは確認済みだからな。
そうでなくても体は資本なんだしやっておいて損はなかろうよ!




