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8-42 ヨソがやりたくても絶対にできない料理

 コアさんが戻ったのとほぼ同じタイミングでおかみさんが朝に作ったフィッシュフライサンドをいくつか持ってきてくれた。

 これは事前に作るようにお願いしていたっぽいな。


「改良といってもこいつをはさむだけさ。実にお手軽だね」


 コアさんはそういうと、ピクルスを輪切りにしてフィッシュサンドに挟んでいく。


「さて、こちらを御試食どうぞ」


 小さく分けられたフィッシュサンドを一つ手に取り食べてみる。


「うまーい!!!」


 いや、朝に食ったフィッシュサンドも酸味の効いた野菜ソースが絶妙だったが、ピクルスがまざるだけでカリッとした食感に違う酸味が混ざり、シモフリフライの味を2,3段階は引き上げている!


 まさか、ピクルス一つでここまで変わるとは……


「これはすごいね」

「こんなんあったら絶対買うよ! 美味すぎる!」


 白犬族も宿の人たちも絶賛してるあたり、味覚は俺達とそう変わらないのかもな。


「これならどうかな?」

「確かにこれなら明日も確実に売れると思います。でも結局真似されちゃうんじゃ?」

「ふふふ、普通ならそう思うよね」


 そう、普通なら食材さえあればある程度まではマネできちゃうんだよ。

 うん、食材さえあればな。


「でも、このピクルスはファンバキアでは絶対に手に入らない。なぜならこのキュウリはウチでしか栽培してないしどこにも流通させてないからね」


 そうなんだよなぁ。あの水玉キュウリはククノチが酒のつまみとして勝手に品種改良したやつだからね。

 つまりアレは現状俺たちのダンジョンにしか生息してないキュウリなんだよ。


「ククノチさんが酒のつまみに作ったやつだってーーー!? ちょいとそれもっとわけておくれよぉー!」


 はいはい、エアデールさん。わけてあげるから話の腰を折らないでちょうだいな。

 

「やったー! おかみさん! お酒! おかわり!」

「エアデール。ちょっと飲みすぎじゃないか?」


 もうホント酒がからむとダメな人だな。

 今だけならカニエスさんの方がまともに見える。いや、アイリがいないから今はまともか。


 カニエスさんがエアデールさんを食堂の奥へと引っ張っていくのを見送るとコアさんはコホンと咳払いして場の空気を入れ替える。


「明日からはこれを使うといい。他はある程度まではコピーできても100%は絶対にできない。仮にこれを超えるようなものを出されたらもう弟子入りするしかないね」

「うん! ありがとう。おねーさん!」


 開店休業状態だった話咲亭だが、シモフリフライの販売と白犬族の宿泊でもちなおしたかな?

 ここまで関わってしまったなら、もう一つお願いごとを聞いてもらいたいところだ。


「すみませんご主人さん。俺からも一つお願いがあるんですけどいいですか?」

「なんでしょう?」

「今、俺たちが借りてる部屋を売ってもらえませんか? その上であるものを置くことを許可して頂きたい」


 ご主人さんは少し考えるそぶりを見せ、こちらに向き直った。


「売るのは価格次第ですが、置きたいものとはなんでしょう?」

「先ほど見せた通り俺は空間魔法を使って自分と遠い場所と繋ぐことができます。ただしつなぐ場所には制限があって”目印”がおいてある場所にしか繋げられません」

「なるほど、それを置かせてほしいという事ですか」


 ご主人さんの問い返しにゆっくりうなづく。


「もちろんこのことは口止め料も上乗せするんで、他言無用という事も追加で頼んます」


 空間魔法は超便利なんだけど、前々から自分が帰るとまたこなきゃならないっていうのは不便だなぁ思ってたところなのよ。

 状況によっては家を借りてそこに拠点を作るっていうのも考えたけど、宿屋のほうが知らない人が出入りしても自然だし手間もはぶけるしね。


 とはいえ目印を置かれるという事はどんな人や物を運ばれてくるかわからないという事でもある。

 その辺は俺達を信用してもらうしかないがね。


 ご主人さんは家族を呼び寄せると、厨房の端あたりで家族会議が始めたようだ。

 まぁ、簡単に決めれる問題でもないし飯でも食いながらゆっくり待つと


「決まりました。いいですよ。ご自由に使ってください」


 早っ! つかほぼ即決レベル!?


「ほぼ休業状態でしたし、今こうして賑わいがあるのも貴方たちのおかげでもありますからね」


 確かに白犬族の人たちで貸し切ってたら他の客もこないし、断る理由もないか。

 何はともあれ、拠点ができたのはいい事だ。

 

 晩飯を堪能した後、契約も無事にまとまり礼金を支払い終えて部屋へと戻る。


「早速”目印”を置くんだね? 私も今日はダンジョンに帰ろうかな」

「ああそうだ、コアさんには今日中にやってほしい事があるんだけど」


 コアさんに要件を伝えた後、ダンジョンへと送るついでに向こうから”目印”を届けてもらおう。


「ん、わかった。明日の朝には用意しておくよ」

「頼んだ」


 そしてコアさんを送り、反対に向こうから届けられたものを見て。


「まぁ、これは許可があっても堂々と置けるもんじゃないよなぁ」


 自分で作っておいてなんだけど、どこからみても血塗られて呪われてそうな怪しい物体にしかみえんもんな。

 目印に自分の魔力を練り込んだ血や髪の毛が必要だったとはいえ造形ェ……


 とりあえず部屋の隅に置いて、目立たないようにしておこう。

 うっかりロレッタちゃん辺りが部屋を掃除しようとして入ってきたら、これみて泣いてしまうかもしれないからな。


 これでよしっと。

 後はテストを兼ねて俺もいったん戻るとしよう。


「ようやく久しぶりにウチの風呂に入れるな」


 前回ここに来たときもそうだったけど、やっぱ数日間ダンジョンから離れてるといろいろと恋しくなってくるわ。

 特に風呂! 難民キャンプはもちろんないし、ファンバキアでも公衆浴場はあるらしいが適当に水浴びで済ませちゃったもんな。

 

 話咲亭の人たちにはちゃんと話してあるし、それではいったん失礼。

 俺は空間魔法を使い、愛しの我が家へと戻っていった。

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