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8-38 人助けはするが我々は善人ではない

「ありゃー。まいったなぁ」


 お使いが終わって白犬族のキャンプ地に戻ってみればそこはすっかりもぬけの殻。

 どうやら今日仕事で巡回に行ってた連中も含めてもう全員宿の方に行ってしまったらしい。


 ついでに日も落ちて、あたりは完全に真っ暗。

 索敵障壁で周りを見ても、俺達以外誰もいねぇ。もっと範囲を広げればその限りではないけど。


「完全に置いて行かれましたねー」

「まぁ、別に一緒に行こうとも約束してないからいいんだけどな」


 それに宿にはコアさんがいるから、念話を使えば向こうの状況もわかるし。


「――――」

「了解、そっちはみんな着いてて部屋割りも決まったんだな。こっちはヤボ用ができると思うから遅れる。うん、飯はすでに作ってある? OK、着いたら食うから取りおいてくれ」


 これでよしっと。


「今、聞き捨てならない単語が聞こえたんですけど?」

「コアさんの腕なら冷めてても美味い飯が出てくるから心配するなよ?」

「いや、そこじゃなくてですね」


 ソフィアは一つ咳払いすると、


「いまヤボ用ができるかもって言いましたよね? 今日この上にまだ何かやるんです?」

「ソフィア~。もしかせんでも気が付いてなかっとね?」


 俺の代わりにアマツがソフィアの肩を叩いてネタ晴らしをしようとする。


「何がです?」

「最初の集落出た時からうちらずっとつけられとるんよ」

「え!?」


 聞かされて初めてソフィアは反射的に周りを見渡すが、日も落ちて明かりがとぼしいこの中じゃアディーラくらいしか見えはしないだろう。


「ま、つまりそういう事だ。まず間違いなくファンバキアに行くまでに襲われるだろうな」

「ですねー」


 うんざりするようなため息と共にククノチも同意する。

 俺たちは日中にククノチが目立つ持ち方をして、おすそ分けを配り歩いてたから金があると思われてるんだろうなぁ。

 キャンプを出てからファンバキアまでの道のりは人気も明かりも少ないから夜襲には絶好のポイントだし。


「気が付いてなかったのはあたしだけって事ですか。やっぱ外出るのに向いてないですよあたし」

「そこは経験の差だろうから気にすんな」


 ダンジョンがあるこの世界じゃ気が付くつかないは生死をわけると言っても過言じゃない。

 だからこそ俺は索敵障壁を編み出し、ククノチは植物を通して周りを知り、そしてアマツは自身の雷魔法を応用したエコーと魔力感知で少しでも情報を得ようとしているのだ。

 多分ソフィアもその内独自の探査方法を見つけ出すんじゃないかな?


「来るのがわかってれば対処はしやすいし、ここでつったってても何にもならんから行こうか」

「あー、じゃあみなさんできればでいいんですけど、頼みたいことがありましてー」

「なんだ?」


 ソフィアの頼みごとを聞きながら、俺たちはあえて乏しい明かりだけでファンバキアに向かって歩き出す。

 同時に俺たちを尾行している連中もゾロゾロついて来てるけど……


「素人だな」

「ですねー」


 いつかの黒豹族みたいに俺たちを囲むわけでもないし、一応回り込むそぶりを見せてはいるが、囮の可能性も考えて探知範囲を広げても伏兵らしい集団はなし。

 ククノチもアマツも何も言わないし、つまりはそういう事なんだろう。


 大方、これがスケイラが言っていた新入りの貧窮してる命知らず達かな?

 数はざっくり数えて10人ちょいくらいか。


「おっと、こっちに向かってきたな。連中が飛び道具を使ってくるかもしれんからソフィアは俺の近くを離れるなよ」

「言われなくてもそうさせてもらいますよ」


 言うと同時にちょいっと俺の後ろにピッタリくっつくソフィア。

 こうされると見た目も相成って見た目相応のか弱さが見えて来る。

 俺が守護(まも)らねば……


「主さん。来るよ? どうすっとね?」

「おっといけねぇ。とりあえずこっちからは手は出さないように、ククノチは”罠”の準備だけはしといてくれ」

「はーい」


 守護欲からくる高揚感をちょっと味わったら脳みそを戦闘用に切り替える。

 まぁ、あの程度なら連中に先手を譲っても問題はあるまい。穏便に収まるならそれに越したことはないし。


 俺達からはモロバレだが連中は明かりを消して伏せて近づき、走れる距離になったら一気に襲う算段のようだ。

 連中の狙いは俺たちが持ってる金だろうし、あいつらの境遇を考えると多少なら恵んでもいいか。


 腰にある革袋に手を入れる間にも、俺達と連中の距離は縮まっていく。

 とはいえ戦闘経験のないソフィアはともかくククノチとアマツは警戒しつつも、なんてこともない表情で俺たちの横を歩いている。

 

 そろそろ伏せてても俺たちの明かりに照らされて姿が見える距離、仕掛けるなら頃合いかな?


「有り金置いてけぇぇぇーーー!!」


 そらきた。

 これが掛け声となっていたんだろう、身を起こして一斉に取り囲むように向かってくる連中。


「いいよー。ほれっ!」


 連中の眼前に向かって手に握っていた金貨を放り投げる。

 ぱっと見10枚以上はあるかな?

 とりあえず人数分は投げれたな。


 ついでに目くらましと連中の得物を特定するのを兼ねて照明障壁(フラッシュウォール)の光度を上げると、宙を飛ぶ金貨は鈍く光り輝く。

 うーん。索敵障壁じゃなんか長細いシロモノくらいにしかわからんかったけど、連中の装備はこん棒というにも抵抗があるただの棒。


 そんなもんで俺らを叩いても棒が折れるだけだな。


「うわっ! たった……」


 向かった瞬間に物を投げられることなど想定すらしてなかったであろう連中は当たらないようにたたらを踏んで立ち止まる。

 そして反射的に地面に落ちた”投げつけられたもの”に目を落とし――


「え?」


 その正体が金貨であることに気づいた連中は立ち止まった。

 脳の処理が追い付いてないのか俺と金貨を順々に見比べたりする者、罠だと思って警戒するもの、様々ではあるが


「ほれほれ、欲しいのはそいつだろ? さっさと拾って帰りな」


 俺は追い払う動作を見せて、まだ動揺している連中を促した。

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