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8-37 WinWinだと思う詫び料

「あっしはやはり木ですかねぇ。やりなれてますし」


 こちらとしても木材は森林エリアで間引いたりして腐るほど在庫があるから使ってくれるならありがたい。

 必要そうな家財はあらかたククノチが作っちゃったし、たまる一方だったのよね。


「私はこの竹というものを使ってみたいです」


 娘さんの方は竹を選んだか。知ってる素材なのかね?


「いえ、竹というものは存じませんが似たようなもので編み物はしておりました。実物を見ていないのでそのままできるのかはわかりませんけど」


 実物かぁ。それならもうお取り寄せしちゃってもいいかもしれないなぁ。


「今からする事は他言無用でよろしく」


 外でやると誰に見られてるかわからないし、テントの中だと少々狭いが空間魔法を使い留守番組に頼んで素材を持ってきてもらう。

 やはり相当レアなのか、空間魔法を目の辺りにした二人が目を白黒させている。


「主さん、頼まれたもの持ってきたとよー」

「どもー。あ、ちょうどいいやアマツ。お前今暇?」

「んー。今日のお世話も終わったし特にしないといけないこともないとね」


 相変わらず指をアゴに当てて考えるしぐさがかわいいのぉ。


「じゃあ外に出てククノチ達と合流したら、飲み水を作ってみんなにくばってやってくれ」

「ほーい」


 俺に素材を手渡したアマツは軽い返事をするとテントから出て、駆けて行った。


「んで、これがウチで育ててる木材がいくつかと竹ひごと竹そのものなんだけど――」

「旦那。急に話を戻されてもついていけませんって! 今のは何だったんですかい!? それに出てきた子はどちら様で!?」

「簡単に言うと俺は自宅に直通の道を繋げられるんだ、そんで今出てきた子はウチの住人」


 視線を逸らしながら一応質問には答えてやる。


「いやそれは簡単すぎ――」

「父ちゃん、それ以上はやめよ? アタイ達が知っても意味ないし、重要なのはこの方が私達に仕事をくれるって事でしょ」


 混乱してなおも質問しようとする父をとめる娘さん。

 うん、その判断は正しい。世の中には知らなくてもいいこともあるものなのだ。


「よし、改めて話を戻すけどこれが竹っていう植物で、これがそれを加工して作った竹ひごっていう編み素材だ」


 説明とともに竹ひごを手渡すと、娘さんは指で挟んだりひっぱったりして素材を吟味する。


「いいですね。これならいろいろと作れそうです」

「それは何よりだけど、竹は大量にあるんだが竹ひごはあんまり量がなくてなー。ククノチが作り方知ってるから後で教わって自分たちで作ってくれない?」

「あっしらなら作り方さえわかれば大丈夫ですぜ旦那。むしろ仕事をくれるならみんな大歓迎でさぁ」


 そういってもらえるとありがたい。

 竹ひごはククノチが自分の趣味用に作る分しかなかったからな。


「それにこの木材たちも品質が実にいい! いろいろ制作意欲がわきたてられるってもんでさぁ!」


 素材に対して子供の用にキラキラした眼差しを送る辺り職人だねぇ。

 そこまでやる気があるなら後でもう少し素材を手渡してもいいかな?


「それじゃあ、何を作るのかはそっちに任せるわ。俺達はこの国にいる間は宿場にある話咲亭ってとこを拠点にしてるから、適度に数ができたら納品してくれ」

「了解です旦那」

「ああでも、いつもいるとは限らないから不在の時は適当に売って生活の足しにしてくれてかまわないぞ」

「大雑把ですね旦那」


 実際のところあんまり金はいらないからね。


「あのー。旦那さん? 一つ質問よろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「どうしてそこまであたしたちのためにしてくれるんですか?」

「うん、実にいい質問だ。それはだな――」


 と、そこに俺の質問を代弁するかのように外から悲鳴が薄いテントの布地を抜けて聞こえてきた。


「ウチのソフィアが思ってた以上にやらかしそうでなぁ。その詫びと言うか礼をこめてって意味で一つよろしく」

「「あー」」


 頬を掻いて答えた俺の回答に納得したのか2人は見事にハモった声を出す。


「そろそろいい時間だし。やることもやったし戻るか」


 そして俺たちはぞろぞろとテントを出て、皆がいる臨時診療所まで歩いていく……ところまではよかったんだけどなぁ。

 悲鳴が聞こえてきたからちょっと覚悟はしてたけど、現場は凄惨たるありさまだった。


「俺の左目が疼くっ! 見えるっ! 俺にも敵が見えるっ!!」


 なにが見えるのかは知らんが、右目を瞑り左手の指の間から何もないはずの空を見て叫ぶ男がいたり、


「ソフィアさん、あなたが言った通り確かに死滅した毛根が蘇りましたよ。髪だけじゃなくて全身くまなくですがね」


 ソフィアに向かって抗議と言うか皮肉を物申す毛玉にしか見えない何かがいたり。

 というか髪が蘇ったならいいじゃん、安い代償だと思うけどなぁ。


「さてさて、君は何を見て全裸で尻を叩きながら叫んでいたのかな? 薬の効果はとっくに切れているんでしょ? どういう思考でそれに思い当たったのか聞かせてくれないか?」

「やめてーー! 思い出させないでくれぇー!!」


 当の本人は抗議をガン無視して、先だって注射した男を質問攻めにしてるし。

 他にも黒歴史を作らされたのか知らんが、顔を抑えて転げまわってる人もいるしさぁ。


 そりゃあこっちは謝礼を払ってるわけだし、リスクもきっと説明した上でやったことだと思うんだけど……


「なぁソフィアさんや」

「なんですか? 今忙しいので手短にお願いします」

「普段試せない薬を使える機会なのはわかるけど、もう少しこうなんというか、手心と言うか……」

「ボス達は幻覚剤とかほとんど効かないし、効果が薄ければわかりませぬ。だから試せるうちに試さないと」

「そうは言ってもケガや病気は治せても、心という器は一度ヒビが入れば二度とは――」

「いえ、いいんですじゃよ」


 俺たちの問答に誰かがわってはいった。

 えーっとこの人は確か……


「わしらはこうなる事も承知の上で十分に謝礼ももらっておりますのじゃ。どうぞお気になさらず」

 

 そりゃアンタはくるぶしのツヤツヤを治してもらっただけだからいいだろうけど、あんたの後ろにいる連中の数人は感謝したいのか怒りたいのか恨みたいのかよくわからない表情でこっちを見てるんだぞ。

 

 とはいえ、総意としては感謝の方向ではあるんだろう。一応しっかり治療もしてるしククノチとアマツのサポートもプラスされての事かな?


「OKOK、わかったわかった。でも他のとこにも行かないといけないから手短にやるんだぞ」

「了解、ボス」


 その後ククノチが竹ひごの作り方教えたりする時間を超えてなおソフィアが食い下がりやがったせいで、結局俺たちのお使いが終わったのは日暮れに近い時間になっちまったじゃねーか!

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