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8-34 なんもかんも薬が悪い

 離れるまでもなく目的の人物はすぐ近くにいた。

 というか全員何かしらの不調があるみたいで、ソフィアとククノチの診察に行列を作って待っているようだった。


 比較的前のところにいるし、これなら治療が終わるまでここで待ってるのもいいか。

 と、思っていたんだが……


「そそ、そふぃあさん。さっきから全身がしびっしびびびび――」

「んー? 分量を間違ったかな?」


 おめぇ、その言い方はうわらばされても知らんぞ?

 口では軽く言っているが、ソフィアは治療を中断して倒れた男に近寄ると状態を確認し、おもむろに注射器を取り出すとちゅうちょなく患者の腕にぶっ刺す。


「ふーん、どうやら痛みも感じてないようだね。命に別状はないし改良すれば麻酔としても使えそうだから、しびれが切れたら教えてちょうだい」


 採血が終わるとソフィアは地面に横たえるというよりは男を捨てて治療と実験へと戻ってしまった。

 さすがにそれはちょっと扱いがひどいし、このまま見てるだけなのも暇なので地面に倒れた男を背負って、テントまで運んでやるか。


「よっと」


 痩せてるし体格が小さいこともあってすごく軽い。

 とりあえず元からあったテントに男を運んでみたものの、下敷きが薄いこのテントじゃ汚れが付かない分地べたよりマシと言った程度か。


「感覚がない状態じゃわからんかもしれんが、こいつは詫び代わりということで」


 地面に人がダメになるソファの質感を再現した柔軟障壁(ソフトウォール)を魔力で生成して、その上に男を寝かすと、障壁はふんわりと男を受け止めた。


 うむ! 心なしか男も気持ちよさそうなのでヨシ!

 今の俺の魔力なら多少距離があってもこの程度ならそれなりに出していられるから、付きっ切りになる必要はない。

 となれば他にもソフィアの犠牲者が出てるかもしれないし、必要があれば力仕事担当になるのもいいだろう。


 人がいないテント場から戻って比較すると、ソフィアとククノチの野戦病院は実に賑やかである。


「ちょちょ! ちょっと待ってください! さすがにそれはちょっと……」

「大丈夫大丈夫! 先っちょだけ! ちょっと刺してちょっと入れるだけだから! 約束したでしょ! 治療したら新薬の被検体になってくれるって!」

「確かに約束しましたけどー! そんな明らかにヤバそうな色をした薬を注射されるのは心外というか……本当に大丈夫なんですかこれ!?」

「大丈夫! 打ったらちょっとラリって奇行に走るかもしれないけど、死にはしないから!」

「いやそれ、私の尊厳が死にますよね!?」


 おじけづいたというか当然の防衛本能を働かせ抗議し逃げ出そうとした男を、別の男達が取り押さえた!


「ちょっ!? なにをするきさまらー!」


 なおもがいて抵抗する男の前に初老をちょっとすぎたくらいの爺さんが立つ。


「この娘さんが実験とか言ってワシらに打つ薬はいろいろとアレじゃが治療の腕は確かでな、ワシの長年の悩みの種だったくるぶしつやつや病もあっというまに治してもうた」


 そういってくるぶしを男に見せつける爺さん。


「確かに、年相応にかさかさしているっ!」

「かさかさ言うでない!」


 ここで爺さんは咳払いを一つ。


「とにかくっ、ここでお主が逃げ出してへそを曲げられても困るでな。一族のために犠牲になってくれい!」


 言い終わるいなや爺さんは男の腕をとり、ソフィアの眼前へと差し出した!

 暴れる男の腕を完璧に抑え込んでるあたり見た目以上の力だな爺さん。


「さぁっ! 今のうちに打つのですじゃ!」

「いやだー! 死にたくないっ!」

「だから死なないって言ってるでしょ。ぷすっとな」


 ソフィアは拘束された男に手早く薬を打ちこんだ。というかそんな雑でいいんか?

 男の方はしばし呆然としていたが、突然ビクンを体を震わせ、


「あ、あ、ああああああついーーーーー!!」


 奇声をあげて立ちあがり、纏っていた服を破り捨てた。


「お、おい。だいじょう……」

「ビックリするほどユートピア! ビックリするほどユートピアァァ!!」


 男は仲間が心配する声を完全に無視し、白目をむいて尻を叩きながら意味不明の言葉を叫び続ける。


「ソフィアさん、あの……その、彼は本当に大丈夫なんですか?」

「うーん。想定ではハイになってちょっとした幻覚が見える程度のハズなんだけどなー」

「それって麻薬じゃないですか?」

「依存性はないから大丈夫だよ」


 きっと今、彼は彼にしか見えない悪霊を払うために必死なのだろう。


「まぁ、薬の効果が切れたら何が見えてたか聞いてみればいいか」

「いや、覚えてたら本当に彼の尊厳が死んでしまうのでやめてあげてください」


 ウーン、ジツニニギヤカダナァ。

 ミナカッタコトニシヨウ。


 そんなにぎやかな現場から目的の人物が治療を終えて離れていく姿を捉えた。

 こちらとしても他人に聞かれたくない話をするつもりだったしちょうどいい。


「ちょっといいか? 聞きたいことがある」

「なんでしょう?」


 男を呼び止め、人気のいないところで話ができないか聞いてみる。

 ちょいと回り道してしまったがこれでようやく話ができるな。

いろいろやりたいことが増えて困る

こっちにも時間を取りたいところではあるけど

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[気になる点] いや、注射を射つところへのアルコール消毒は!
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