8-33 治療法種種様様、そして治療を受けたことによるその代償
「他にも即効性のあるものがいいと思って、こんなのも用意したよー」
ソフィアが次に取り出したのは瓶一杯に詰められたカプセル型の錠剤だった。
彼女はカプセルを一つ取り出すと、別に取り出したシャーレに乗せる。
「これはですねー。あらゆる食材の栄養素を詰め込んだカプセルですよ。ここに胃液の成分を模した液体をたらしますとー」
怪しげな液体をかけられたカプセルは3分と立たないうちに破裂して、中に入っていたよくわからない物体がむくむく膨らんでいく。
最終的にはソフトボール位の大きさになったせいで、もはやシャーレの上に乗っている状態になってしまった。
「このように胃の中で膨らんで三日三晩かけて溶けていく。その間は飲まず食わずでも平気だし空腹感もなくなるよ」
「へぇ~!」
睡眠薬よりはかなりマシな反応を見せる皆さん、やはり今も空腹と戦っているせいなんだろうかね?
ソフィアもいい反応が返ってきたとみて、微笑みをうかべ
「飲んでみたいなら差し上げますよ。ただし、もらった以上はわかってるよね?」
トドメの一言を放つと、ついに話を聞いていた一人が首を縦に振った。
「よろしい、ではこのSEMPを飲む権利をあげよう」
「すーぱー、え? なんだって?」
「だからSEMPだよ。この薬……というか栄養補助剤の名前。ステキな名前でしょ?」
「ソウデスネ……」
ドヤ顔で同意を求めるソフィアに対し、どう反応していいかわからずに棒読み答えちゃってるし。
うーん。ソフィアはなぁ、いろいろとすごい薬とか作ってくれるんだけど、どうにもその……ネーミングセンスがなぁ
「あのー。この薬にも名前ってあるんすか?」
そう口を開いたのは先ほど睡眠薬を受け取った男。
うん、さっきのアレを聞いたらそりゃ気になるよね。
「実にいい質問だね! よくぞ聞いてくれました!」
あーあーあー。ソフィアのテンションがどんどんあがっていく。
「こいつの名前はソメリン レンドルミン エスタゾラム エスゾピクロン プロトタイプ。略してSleepさ!」
「なんかの呪文ですかそれは?」
「いやいや、これはいろんな睡眠にかかわる成分の名前でね! 例えばソメリンは――」
「え? えーっと……そのー?」
これはやっちまいましたなぁ。
説明についていけずただただ戸惑う男に対し、おかまいなくソフィアは説明と言う名の言葉の暴力を吐き続ける。
テンションが最高潮に達したソフィアに説明を求めると止まらなくなるんだよなぁ。
しかもすげぇ楽しそうに語るからなんか止めるのも気が引けるというおまけつきだ。
「うぉぉ! なんか力がドンドンみなぎってくるし、本当に腹も満たされちまった!」
唐突に聞こえた方を見てみれば、声を上げた主は先ほどソフィアからSEMPをもらっていた人。
「え? ほんとに!? そんなに速く効果あんの?」
「すごいぞ! 見てくれこのボディを!」
興奮して来ていた服をめくりあげて腹をみせてくれたけど……
いやー。そういわれても鋼には程遠い普通の体つきに見えるけどねぇ。
「ガリガリだったのに、ふくよかに戻ってる!?」
あ、なーるほど。マイナスがゼロに戻った感じなのね。
それなら納得だわ。
「これほんとに食べ物だけでできてるんですか?」
「あーうん。確かにそうらしいとしか俺は知らんな」
俺がアレに関して知ってることは材料の半分がお米でできてるって事しか聞いてない。
それよりもようやくソフィアが持ってきたものを信頼してくれるようになってきたってのに……
「つまり睡眠薬で脳の活動を休眠させても心臓は動いているわけだから、ここで同時に血液の循環効率を上げてやることで脳を含めて徹底的に老廃物を流して脳や体を掃除させると――」
当の本人は相手がげんなりしてるのにまだ薬の事を語って止まらない。
「ソフィア―。その辺にしとかないと肝心の採取ができなくなるぞー?」
「おっといけない、時間は有限だったね」
我に返ったソフィアはごそごそとバックから別の薬を取り出すと、
「じゃあ、さっそくこれを飲んでもらおうかな? 大丈夫。ちょっと手足がしびれるかもしれないけど死にはしないから」
「それ、ほんとーに大丈夫なの?」
不安にしかならない言葉でSEMPを飲んだ人、もとい被験者1号をうながす。
ソフィアが診察兼実験を始めた一方、ククノチの方もすでに治療を始めているようだが
「これは骨折してますねー。ちょっと失礼ー」
腫れた腕を見せた人の患部に回復魔法をかけたあと、やや太めの葉っぱで腕を固定する。
「これで安静にしてれば骨がくっつきますからー。1日経ったら葉っぱをはがしてくださいねー」
「ありがとうございます! ククノチ先生!」
「先生、次は息子のケガも見てやってくだせぇ!」
「はいはいー順番ですよー」
どうにもうさんくさいソフィアの治療に対して、まともに見えるのか早くも信頼関係を気づいているようだ。
俺達が使ってる回復薬に比べると即効性はやや劣るが、ほとんど経費がないククノチの治療はこの難民達には実に適切だろう。
こうして治療と実験が始まってしまえばもはや俺の出番はない。そーなると最初にあったあいつにちょいと聞いてみたいことがあったんだよな。
二人に軽く手を振ると、俺はなかば野戦病院と化したこの場を離れて行った。
おっこっめーおーこめこめー