8-31 錬金術師の怪しい治験バイト
ウチのダンジョンに物を運ぶのも人数がいれば速い速い。
いやほんと、重機いらずなバケモノ共が何人もいるおかげで俺が広げたダンジョンへ通じる穴の直径ギリギリまで荷物を軽々担いで走って往復するからねぇ。
おかげで魔力消費も大分抑えられた。
こっちとしてもついでにダンジョンに残っていたメンバーの報告を受けたり入れ替えることができて一石二鳥ってもんだ。
「つまり、今ここには様々な種族が住んでいるという事ですね」
「一時的ではあるはずだが、そういえなくもないな」
珍しい事に普段あまり外の世界に興味をしめさないソフィアがキャンプ地について聞いてくる。
俺はキャンプ地については詳しくないが、ここで数日暮らしていたスケイラとコウが代わりに質問に答えてくれた。
質問の答えを聞いてコクコク首を振ると、後ろの大きな尻尾があわせて揺れるのが実にかわいらしい。
「なるほどなるほど、じゃあボス。あいさつ回りのついでにやりたいことがあんだけど」
「なんだ?」
「あたしが作った薬を様々な種族に投与してそのデータを取ったり、皮膚や血液等のサンプルを取りたいっす」
おめぇ、それいわゆる人体実験ってやつじゃねぇかよ。
というかお前が作った薬のテストなら俺達協力してるじゃん。
「そうなんですけどね、みんなフィジカルが強すぎて効果がでてるかわかりにくいんですよ」
あー。うん。実はそうみたいだったんだよね。
地球人レベルで致死量とされる毒物を倍以上摂取しても、体調が悪くなる程度ですんじゃうのが今の俺達だ。
とはいえ猛毒をもられたスケイラやコウは死にかけたわけだし、どんな毒にでも耐えれるわけじゃないので油断は禁物だ。
そういった意味ではキャンプにいる人たちを使った人体実験自体は反対するつもりはないけど、さすがに脅したりして無理やりさせたくはないなぁ。
「いや、十分な見返りさえ用意すれば多少危険な実験でもむしろ喜んで協力すると思うよ。ここにいる人たちはそれくらい物資に飢えていると思っていい」
横で話を聞いていたスケイラが頬を書きながらそう助言してくれた。
ギブアンドテイクが成立すれば問題ないってわけね。
「なるほど。なら丁度いいのがあるからいったん研究室に取りに戻ってもいいかな?」
「わかった。こっちが配るものをまとめた頃合いにまだ呼び出す。それでいいか?」
「それでいいよ」
いつの間にそんなものを作ってたんだと言いたいが、俺が不在の間になんやかんやしてたんだろう。
ソフィアをダンジョンへといったん送り、こちらはこちらで畳んだテントや野外道具をいくつかにまとめる。
外に出て準備が整ったタイミングでソフィアを呼び戻したら、彼女は背中にピッタリフィットするタイプのカバンをしょっていた。
体格が小さい彼女自身の見た目も相まって、下手すると背伸びした小学生にしか見えん。
「それじゃ君たちにはこの辺りを担当してもらおうかな」
スケイラが地面に書いた大雑把なキャンプ地の見取り図の一角に〇をつける。
方角的にはあっちで、区画としては2つほど先か。
「よしわかった。ククノチ、荷物を持ってもらってもいいか?」
「はいー」
ククノチはシュルリとツタを何本はやし、纏めておいたテントやらにまきつくと軽々と持ち上げた。
馬や荷台は白犬族の人たちに使ってもらうからね。
一つ一つは軽いものならククノチが居てくれさえいればほぼ無限に運べると言っていい。
沢山の宙に浮いた荷物で見た目の威圧感がとんでもない事になる事を除けばな。
「うわ~。なんかあっちこっちから嫌な視線を感じるんですけどー」
「気にするだけ疲れるからほっとけ。それにお前にとっては敵意に慣れるいい機会だ」
初めてダンジョンの外に出たソフィアにとって、様々な思惑が絡んでいる視線の群れは相当に気持ちが悪いらしく目が泳ぎまくっている。
とはいえ、ククノチがツタで持ち上げているのが大半が使い古したテントという事もあり、金になるようなものじゃないと見て取って仕掛けてくる様子はない。
あるいは白犬族のキャンプ地近辺にいる連中にとっては、もう根回しが住んでるだけなのかもしれない。
特に問題が起きる気配もなく、俺たちはスケイラに頼まれた区画へとたどりついた。
白犬族と比べてテントの密度が薄く、日も昇っているというのに何人かは地べたに横になって寝ているようだ。
夜は冷えるからねぇ、この様子ならもってきたテントはしっかり使ってもらえそうだな。
「たのもー!」
寝ているところ悪いがこちらとしても、誰かに起きてもらうか来てもらわないと困る。
「たのもー!」
「はいはい、今行きますよー」
一番近いテントの中からけだるそうな声と一緒に誰かがのそのそと出てきた。
声は大人っぽいがえらい小さい、ソフィアとどっこいどっこいと言ったところか。
灰色の髪と耳に細く長いしっぽがあるあたりどことなくネズミっぽい印象を受ける。
「こんなところに一体何の――」
その人物はだるそうに俺を見るなり固まってしまった。
おや? 誰か知り合いにでも似てたのかね?