8-29 師事するというよりもはや共同開発者
――翌朝――
「んー。よく寝たわ」
やはりテントで寝るよりベットの上で布団にくるまって寝てた方が疲れもよく取れる。
寝ぼけ眼でもう片方のベットを見てみればそこはすでにもぬけの殻。
どうやらデーンはもうすでに白犬族のキャンプに向かってるみたいだな。
上手くいけば今日中にでも拠点を宿に移せそうだし、早め早めの行動は大切だろう。
窓から外を見てみれば、日も昇り切っていてもはやまぶしい。
ありゃりゃ、これはデーンが早いんじゃなくて俺が遅いだけなのかも。
まぁいいや。とりあえず食堂に向かってみるか。
個室のドアを開けると何かが焼けるいい香りが充満していた。
「おはようございます」
「おはよう、マスター」
階段を下りて厨房を見てみれば、早くもコアさんがおかみさんに料理を教わっているようだ。
コアさんが料理を教わる光景というのもかなり珍しい。
「ここに昨日のソースちょっとアレンジしたものを作ったんだけど、これをパンにつけてみるとどうかな?」
昨日言ってたアレをもう試してるのか。
焼いた食パンっぽいシロモノにソースをつけてかじってみる二人。
「うん! これは朝食としてなかなかいけるね」
「確かに……これなら商品と売り出してもいいレベルですね」
「んー。商品として出すならホットサンドにして、もう少し食べ応えがあるものを挟むといいかな?」
お互いに咀嚼しながら感想を言い合う二人。
俺をはぶらないで仲間に入れてくれよ!
「食べ応えがあるものなら。昨日のシモフリの身を挟んだらどうだ? もともとそれにかかってたものだし、フライにするのもいいんじゃないか?」
「いいね! 早速やってみよう!」
「モニターをやってやるから、そいつを作ってくれよ」
なんというか教わるというかもはや共同開発みたいになってるけど、コアさんが楽しそうだからヨシ!
美味いもんが食えればさらにヨシ!
さすがにトースターはないみたいなのでおかみさんがかまどに火を起こしてパンをあぶり、その間にコアさんが手際よくシモフリのフライをこしらえていく。
なじんでるなぁ。
後はほどよく焼けたパンにフライとソースを挟み込めば、
「よしできた。さっそく試食といこうか」
厨房からでたコアさんが机の上に皿ごとフィッシュフライサンドをどんと置いた。
もうね、眼前に置かれてにおいでわかる。こいつは絶対に美味い。
できたてアツアツで揚げたてのフライが挟まれていることがわかっているので少し息を吹きかけて冷まし、一気にガブリとまるかじり!
「うんまーい!」
サックサクのパンに肉厚なシモフリのフライ!
そこに酸味の効いた野菜ソースがまた合うんだわ!
コアさんも満足な出来なのか目をつむりじっくり味わいながら食べている。
いやはや、あっという間に一つ食べてしまったがまだ全然いける。
二つ目を手に取るべく皿に手を伸ばし――
「ただいまー!」
「なんか、すごいいい匂いがするねぇ~」
おや? ロレッタちゃんとオルフェが外のドアから一緒に来たな。
「二人でどこいってたんだ?」
「馬の世話だよぉ~」
聞くんじゃなかった。
俺が惰眠をむさぼっていた間にみんな働いていたとは……
「それよりこれ何!? とっても美味しそう!」
「シモフリのフィッシュフライサンドだよ。よかったら――」
「「いただきまーす!」」
コアさんの説明が終わる前に手に取って淑女らしからぬ大口でかぶりつく二人。
こんな香ばしい匂いを漂わせてる食べ物を前に我慢なんかできるわけないよなぁ!
「おいしーい!」
「すごい! こんなにおいしいシモフリ食べたことない!」
「だよねだよねぇ! 昨日のステーキもよかったけどぉ!」
一口かじってキャイキャイ感想を言い合う二人。
馬の世話を通じて仲良くなったようで何よりだ。
元々試作品でそこまで数が多くなかったせいか、5人もいればあっという間になくなってしまったな。
少し物足りないが、朝飯としてはこんなものだろう。
「んで、今日はどうするかね?」
さしあたって今日絶対にしないといけない用事は特にはない。
ならばコアさんやオルフェがしたいことを聞いたうえで予定を立ててもいいだろう。
「私はもちろん今日はつきっきりで料理を教えてもらうつもりさ」
うん、コアさんに関しては聞くまでもないな。
昨日の事もあるし、護衛としてここにいてもらうのも悪くない。
もし昨日みたいにまた絡んでくる連中がいても、コアさんなら(他のケモミミ娘と比べれば)穏便におっぱらってくれるだろう。
「んー、僕は一度みんなの世話をしに帰りたいところかなぁ」
オルフェはダンジョンにいる家畜の世話をしたいのか。
帰すだけならここで空間をつなげて戻ってもらっても構わないけど、それなら今ここに預けている馬も一緒に連れ帰ってもらった方がいいだろう。
街中で乗るつもりだったけどそれができないと知った今、ただただここに預けておくだけになってしまったしな。
ああいや、白犬族がここに拠点を移すなら馬車を引っ張る馬が必要だった。
なら俺もいったんキャンプに向かってそこで馬を交換しつつオルフェを送るのがいいな。
そうそう、そういえばキャンプに行くならついでにやっときたい事があったんだった。
よっしゃ、今日の予定は決まったな!
「ねぇ。おかーさん、おねーちゃん、これもっと沢山作れない?」
「それは構わないけど、どうするんだい?」
「中央広場で売ってくる! 絶対人気でるもんこれ!」
うーむ、商魂たくましいこって。