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8-27 宿料理は量があるように見えて、割と完食できる気がする

 うん。美味い。

 こいつをおでんとして見た場合、具もさることながら何よりもだし汁が美味い。


 野菜をかじれば食感と一緒に流れ出る汁がうまいし、白身魚に絡めて食っても良し。

 もちろんそのまま飲んでも、煮込まれ溶け込んだ野菜やら肉やらのエキスとからんで濃厚な味わいを楽しめる。


「おにーさん。スープを飲むならこちらのパンにつけて食べてみてください」

「ほいほい」

 

 給仕をしているロレッタちゃんから小型のフランスパンのようなパンを受け取り、小さく引きちぎってから言われた通りしみ込ませて食べてみる。


「お! こいつもなかなか」


 受け取ったときは弾力があってモチッとしていたが、ふやけてほどよい硬さになった上に染み出るスープが美味い!

 このだし汁なら茶漬けでもご飯3杯は軽くいけそうだが、こうしてパンにつけてもいいな。

 おでんぽい鍋にパンとか俺にとっては和洋折衷という感じがしなくもないが、これがファンバキア流の食べ方なんだろう。


「このパンもここで作ったものかい?」

「いえ、市場のパン屋で買ったものを焼き直したものです」

「なるほど。このパン屋にも行ってみたいところだね」


 ロレッタちゃんにしっぽを振りながら食事を楽しむコアさんが問いかける。

 完全に機嫌がなおったようでよかった。


「こちらシモフリのステーキになります」


 おおう! 霜降りのステーキとは奮発しましたな!

 テーブルに置かれた鉄板の上にある肉厚のそれはまごうことなき……あれ? これ霜降りステーキ?

 色が白いんだけど、これ牛肉じゃあないんじゃないの?


「はい、こちらファンバキア近海でよく水揚げされるシモフリの身を焼いたものですよ」

「狐のおねーさんが高価なものより家庭料理を出してほしいって言ってたから……」

「あ、いや。別にクレームをつけてるわけじゃないんだ」


 ただちょっと、俺の知ってる霜降りステーキとはちがかったからね。

 でも理由を聞いて納得だわ、この世界にはシモフリっていう魚がいてもなんらおかしくはない。

 そいつの切り身を豪快に焼いたらまごうことなきシモフリのステーキだからね。


「家庭料理という事は、この魚はよく食べられてるって事かな?」

「そうですね、輸入品が主なファンバキアでは自国でまかなえる数少ない食材の一つですよ」


 なるほど、地元食材って事ね。

 それでは早速頂いてみよう。


 肉厚の白身をナイフで切り取り、添えてあったいくつかの野菜を刻んで作ったソースをつけて口の中に入れる。


 うむ!


 魚とは思えぬほど濃い味わいに酸味が効いたこのソースとの味わいがたまんねぇな!

 この酸味ならから揚げにレモンはかけない派の人もぜひ試してほしくなる味だ。

 

「魚も美味しいけど、ソースも美味しいねぇ。コアさん、このソース再現できない?」

「んー。味はサルサソースに近いけど、材料に私の知らないものが含まれてそうだね」


 コアさんはオルフェの問いかけに対してソースだけを口に含んで吟味してレシピを探り当てようとしてるけど、ソースに使われてる材料を全部当てるのは難しくない?

 

「こういうのは味を記憶して近い味に仕上げた後、アレンジを加えてオリジナルにするもんだよ」


 なんていうかそのセリフは料理下手な人が勝手なアレンジを加えるような時に言いそうなセリフだが、コアさんに限っては信頼度が違う。

 原形の良さを残しつつ、別次元の味に仕上げるコアさんの技量は才能としかいいようがない。


「パンのおかわりいかがですか?」

「いただこうかな。このソースは野菜を大目に入れてパンと合わせてもよさそうだし」


 味に関してはほんとに妥協しないのな。

 おでんにフィッシュステーキとなかなかボリュームのあるラインナップだからか大分腹も膨れてきた。

 だが、ロレッタちゃんはこれでもかと言わんばかりにまだ料理を運んでくる。


「お鍋の方に〆のパスタをいれますねー」


 俺たちの返答を待たず、あらかじめ茹でられて柔らかくなったパスタを投入するロレッタちゃん。

 このだし汁にパスタとか絶対美味いやつやん!


 スープパスタと化した〆をカップに盛られて眼前に差し出される。

 出されるとある程度満腹になってても、食いたくなってくるのは不思議だな。


 フォークに麺を絡めてスープもあわせて一口。

 あぁ~。スープと一緒に麺がツルリと口から胃まで流れ込んでいくんじゃあ~。

 

 あっさりして食べやすかったからか、なんだかんだあっというまに完食してしまった。

 そして腹の具合も丁度いい感じになったな。


「いやぁ、おいしかった。ごちそうさんでした」

「すごい。余るほど作ったのにおにーさんたち完食しちゃった」


 まぁ俺たちは文字通り体の作りが違うからな。

 俺も仙人になってからは相当量食っても腹が重くならなくなったぜ。

 

 食うだけ食ったら部屋に戻ってもいいんだが、ここは地球の旅館じゃない。

 当然テレビなんざないし、聞いたところ風呂もないらしい。


 それなら部屋に戻ってもしょうがないし、しばし雑談としゃれこむか。

 

「おかみさん、片付けてもらっているところ悪いんだけど、私と取引をしないかい?」

「取引ですか?」

 

 と、思ったがコアさんが食器を洗い場に運んでいるおかみさんに声をかけた。

 割と唐突だが、取引っていったい何をするんだろう?

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