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8-24 魔力のインフラはエコロジーかつ安上がり

 にぎわっていると言ってもそれはあくまで橋付近の中央広場だけの話。

 雑踏を抜けてちょいと離れれば、広場の賑わいが嘘のように人影が少なくなった。


 まだ日はあるが反対側の空はもうかなり薄暗い。

 周囲の家の窓からは明かりがこぼれているところも見受けられる。


 とはいえ道はちゃんと整備されているので歩きにくいという事はない。

 なにより


「街灯がちゃんと整備されてんだな」


 この街灯は国境の検問所で使っていた明かりと似たようなものが街灯代わりに設置され周囲を照らしている。

 あれが魔力で光ってるんだとすれば電気もガスもいらないし実にエコロジーなことで。

 

 だからこうしてみると夜歩く分には日本と遜色はほとんどない。

 あるとすれば電飾の看板とかはいっさい見当たらない程度かな?


「宿が見えたね」


 今俺たちの周りにある宿はやはりどこも営業はしていないのか入口の扉は閉められているが、向かっている話咲亭だけは俺たちを待っているかのように入口が開けられている。


「およ?」

「どうしたオルフェ?」


 立ち止まるとウマ耳をピンと立てて収音する姿勢を取るオルフェ。

 かわいい。


「宿の方が騒がしい? なんか揉めてる?」


 まだ距離があるのにそんな事わかるんか、さすがの聴力だな。

 それより揉め事って何だ?


 ひょっとして俺達が強引におかみさんに泊まる事を頼んだせいでおやじさんとひと悶着起こしちゃったのかな?

 うーん。話の内容によっては俺達が姿を現すと余計にこじれちまうかもしれん。


 仕方ない。もう少し近づいてこっそり話を聞いてみるか。

 プライベートにかかわるような内容だったらさっさと離れて、ほとぼりが冷めるまで中央広場で時間でもつぶしてよう。


 オルフェとコアさんに念話で伝えると、二人はその場に立ち止まった。

 盗み聞きするなら俺一人でって事か。


 宿の壁裏によりかかり、気配を薄くする。

 周りから見れば怪しさこの上ないが、幸いというべきか人通りはまったくない。

 それに静かだから中の話も良く聞こえる。


「だから、立ち退けって言われても困ります!」


 おおん? これはおかみさんの声だがなんか思ってた予想とまったく違うな?

 索敵障壁で探ってみたところ、2人と3人が立って向かい合ってるようだ。


 大きさ的には2人のほうがおかみさんと娘さんかな?

 対して3人組の方は比較的大柄な一人と他二人って感じか。


「とはいってもねぇ。今日中に借金を払えなきゃこの宿を代わりに出すってこの借用書に書いてありますよ。ほら、サインまである」

「戦争に対する一時給付金と書いてあったじゃないですか!」

「一定期日をすぎると自動的に貸付になるってほらここに」

「そんな模様みたいな文字なんて無効です!」


 ほーん。おかみさんが俺達を泊めたくなかった本当の理由はこれか?

 確かにトラブルを抱えてる状態で客なんか泊めたくないわな。


 言い分を聞いてる限りだとあきらかに相手側に騙された感じだが、だからと言って俺達が干渉する気はない。

 極論俺たちは今日のメシさえ食えれば宿の事情はどうだっていいのだ。


「こちらとしては返すものを返してもらえばいいんですよ」

「こんな大金、ウチになんか……」


 こっちがどうするか考えている間にも、話は勝手に進んでいく。


「ええ、でしょうね。ですからこの宿を代わりに 」

「お金ならあります!」


 追い込みの言葉をかけた男の言葉を遮って娘さんが叫び、何かを取り出すしぐさをした後、近くにあったテーブルに何かを叩きつけた。


「ロレッタ あなた、それは……」

「金貨? しかも……大型!?」


 へぇ、娘さんの名前はロレッタっていうのか。

 いや、いまはそこに感心してる場合じゃないな。


「これなら十分でしょ! これをもってさっさと出て行ってよぉ!」


 半分やけくそ気味に叫ぶロレッタちゃん。

 確かに聞いた限りの相場では大型金貨は相当な値打ちがあるし、これなら足りないどころか釣りがくるレベルだと思う。

 半分冗談のつもりで渡したアレが役に立つとはねぇ。


「へっへへ、お嬢ちゃんいけねえなぁ。こんなもんどっから盗んできたんだい?」

「盗んでません!」

 

 大型金貨を目にした動揺から我に返った男が言いがかりをつけた。

 まぁ、事情を知らなきゃ普通宿の娘さんがこんな大金を持ってるなんて誰も思わないだろうし気持ちはわからんでもないが……


 ただ、素直に受け取らずにいちゃもんつけたところを見ると、実際のところ借金自体はどうでもよくて宿を分捕る事が目的なんかね?


「盗んでないならこんな大金どうやって手に入れたんだい?」

「今日泊ってくれるお客さんがチップとしてくれたのよ!」

「はぁ!?」


 宿中に響いたかと思うほどハモった驚愕の声。

 とゆーか、いまのハモりにはおかみさんの声もまじってたぞ!?


 ロレッタちゃん、おかみさんには言ってなかったんかい。


「いやいやいやいや。嘘はいけねぇよお嬢ちゃん。大型金貨をポンとくれる奴がこんなボロ宿に泊まるわけ――」

「いるさ。ここにな」


 そんなセリフを吐かれちゃあ出ていかないわけにはいかないな!

 成り行きを見守る方針だったが予定変更せざるをえない。


「誰だてめぇ!?」

「話を聞いてなかったのか? 嬢ちゃんにそいつを渡した客だよ」


 だから、ロレッタちゃんが大型金貨を盗んだといういいがかりは破綻した。

 でも、お前はそれどうやって手に入れたんだとは絶対に聞くなよ。返答に困るから

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