8-22 ファンバキア水路探訪2
支流に入り歓楽区域に入ったのはいいんだが、宿場区画が基本的に支流も一本道だったのに対してこちらの方は支流も分岐がやたらと多い。
「歓楽区域はいろんなお店があるので、できるだけ水路を使って搬入できるように細かくわけられてるんですよ」
なーるほど、スルンツェ川が大動脈とすればこっちは毛細血管みたいなものか。
「でもこれは目的地までの道順覚えるのも大変だよね? 流れてるから分岐を間違えたら戻れないし」
「はい。ですのでガイドを目指すなら歓楽区域の水路を全部覚える事が最初の課題ですね」
いやー。もうすでに何回か分岐してるしこれは一朝一夕には覚えられそうにないな。
「それと先ほどのお客様の質問にお答えしますと、ところどころに水の流れを作っていない相互通行可能な水路もありますので、多少の時間はかかりますが大回りしなくても戻れるようになってます」
「流れがないのは舟を泊めるためってのもありそうだね」
言われてみれば先ほどまでいた水路と比べて舟の速度が遅くなってる気がする。
「正解です。今まで通ってきた水路は渋滞を防ぐために舟の停泊を禁止されてますが、この先は第2商店街となりますので、搬入で停泊するために水流は緩やかになっています」
つまりこの先は路駐OKって事ね。
「第2商店街って事は他にもいくつか商店街があるって事かな?」
「まとめて警備がしやすいという理由で観光者向けに主に高級品を取り扱う第1商店街とそれ以外の第2商店街があるってだけですけどね」
確かこの観光者用普通身分証じゃ、第1商店街を含むVIP用の区画には入れないと書いてあったかな?
「そうですね。あの辺りは一定額以上の寄付をして資金力を示さないと入場を認められません」
「なるほどねー。まぁ、入れないところの情報を教えてもらっても何にもならないし、それよりはこっちの話を聞きたいかな」
「かしこまりました」
話を聞く限りだと第2商店街は一般市民の市場も兼ねているようで、食品から雑貨まで幅広く取り揃えているようだった。
建物や通路のすき間から見える通りには人が歩いているようだし、それなりに繁盛しているようだな。
「あれ? マーキュリーちゃんじゃない? 今はこっちのお仕事?」
「こんにちわ。久しぶりにこちらの仕事が入りましたよ」
小型の舟にのせた荷物を岸に下ろしていたおっちゃんがこちらに気が付いて声をかけてきた。
まぁ、ここに住んでいるなら知り合いの一人二人はいるよな。
「夜もまた歌うんだろ? 大変じゃないかい?」
「慣れてるので平気ですよー」
「そっか、がんばれよー」
泊まった舟を追い越す間、軽く会話をするマーキュリーさん。
振り返ればおっちゃんが手を振って見送っているようだ。
「失礼いたしました」
「いえいえ。それよりこの仕事以外にも何かされてるんですね」
あまり他人のプライベートにかかわる気はないが、話されてしまった以上気にはなる。
「ええ、第1商店街にあるお店でシンガーをさせてもらってます」
おや? そこにあるお店という事は俺たちは入る事ができないな。
「お客様も商売で成功されたら上級身分証を手に入れて是非おいでください」
「まぁ、その内機会があればということで」
すがすがしいまでの営業スマイルに対してこちらも作り笑顔で応対する。
「それでは正面にご注目ください。まもなく中央へと到着いたします」
おおう、正面に視線を戻してみれば遠目から目立ってた闘技場と、その横にもう一つ比較的大きな建物がある。
その建物を囲むようにぐるりと大きめの水路が掘られているが水流はなく、何艘もの船が岸にそって停泊しているようだ。
「ここでは国民来訪者問わずお楽しみいただける娯楽施設が集約されてるんです。順番にご紹介いたしますね」
マーキュリーさんはそういうと舟と舟のすき間にこの舟をねじ込み、岸に並ぶように併設されていた杭に縄を巻き付けた。
あー。つまりこれを言うなら駐車場ならぬ駐舟場って事ね。
その後ろを人をたくさん乗せた舟が横切り、橋の近くの岸に作られていた行列の前に停泊する。
沢山の人を乗り降りさせた後、舟は去って行ってしまった。
「すまない、その前に聞きたいんだがあれが巡回船?」
「そうですね。ところどころに目印となる停留所がありますのでそこで乗り降りなさってください」
ほんとに馬車がなくても不便がないように作られてるなぁ。
「お客様、説明を始めさせてもよろしいでしょうか?」
「ああ、出鼻をくじいてすまない。はじめてください」
さてさて、闘技場以外にもどんな施設があるのかなー?
なんていうか一人称で都市の説明書くのって難しいね!