8-21 ファンバキア水路探訪
ヴェネチアのように水路が張り廻られた都市で観光と言ったらこれだよなぁ!
今年はこれで最後だけど、1年間ほとんど話が進んでない!
観光船と一言で言ってもいろいろあるようで、受付に行ってみたらいろんなプランを紹介された。
いつも通りコアさんとオルフェに全部丸投げされてしまったが、逆に言えば俺が自由に選べるわけで悪い気はしないな。
ふーむ、橋の下を渡るからか地球で言う一般的な大きめの観光船はないのか。
代わりに食事つきの屋台船っぽいのがあるみたいだけど、これは宿のメシが待ってるから却下だな。
お?
少し値ははるが、丁度いいのを見つけたぞ!
橋の下で受付を済ませて待つことしばし、数人乗りの小さな船にこぎ手が一人ついたゴンドラタイプの船がやってきた。
「ご指名いただきありがとうございます。本日は私、マーキュリーが皆様をご案内させていただきますね」
「よろしくねぇ~」
ヴェネチアと似た感じのこの都市なら雰囲気的にもまさにピッタリだなぁ。
コアさん、オルフェと乗り込み最後に俺が乗船すると、マーキュリーさんに操られた舟は岸から離れ川の流れにゆだねられた。
うわ。舟に乗ってみると流れがあるからか思ったより速いな。
歩くよりは速そうだ。
「お客様? どこか目的地はございますか?」
「俺たちはここに来たのは初めてだから、一通りの説明と有名な個所を回って紹介してほしいんだ」
「かしこまりました」
専属の漕ぎ手件ガイドが一人ついて客の要望に応えるタイプを選んだから、俺たちのペースで自由に回れるぞ。
そのぶんしっかり取られたが、外の事情に疎い俺達にはちょうどいいだろう。
「只今私たちが今いるこの川はスルンツェ川と言って、内側を流れるセイアッド川と合わせてファンバキアの大動脈と呼ばれてます」
確かに橋を渡ったときもそうだけど、俺たちの周りには今も大小さまざまな船が水の流れにそって各々の目的地へと向かっている。
これはまさに血管だな。
「ほぼ円形になってるしこの川は最初から作られたものですかね?」
「記録はありませんがそうだという説が有力ですね」
え? こんな大規模な川なのに何も記録がないの?
「申し訳ありません。昔の資料等はほぼ全部紛失しておりまして、この川を含むファンバキアについてはっきりわかるのは数十年程度だけなんです」
資料がなけりゃ世代が2回も流れれば起源がわからなくなってしまうのも無理はないか。
「私達ガイドも過去に何があったかより、まずいろんなお店の宣伝のようなものを教え込まれるんですよ」
「ははは、なんていうかこの国らしいね。例えばどういう感じなのかな?」
「そうですね。このへんでしたら――」
マーキュリーさんによるこの辺の成り立ちと、ここから見える宿の割引情報やらなんやらを聞いているうちに、主流からはずれ高速道路のように曲がりやすく作られた支流が見えてきた。
「では先に見えます支流より皆様をファンバキアの中央部へとご案内いたします」
ガイドさんはそういうと、舟をかたむけて支流の方向へと進路を変える。
速度があっても曲がりやすく作られてるあたり本当に考えられてるなぁ。
「でもこれ今はちゃんと流れてるけど、時期によっては逆流したり水がなくなったりするんじゃないかな?」
コアさんの言う通り確かにそうだな。
近くにダムのような水位を制御するような施設もなさそうだし、全てを自然に任せるとしたらかなりリスキーだろこれ。
「私はファンバキアで生まれてずっとここに住んでますけど、川の水が逆流したり氾濫したことは1度もありませんよ」
「そうなんだ」
「詳しくは私も知らないんですけど、ファンバキアの地下には水量や水の流れを制御する施設があるんですよ」
ゴミまで流せる水場といいファンバキアの地下は一体どうなってるんだろ?
水を使ってゴミを集めてそのまま地下で処理してるんだろか。
「まもなく宿場区画と歓楽区画の境目の川に入ります」
おっと、地下がどうなってるか想像するより今は地上にあるものを楽しむのが先か。
今いる水路は道路で言うと片道一車線くらいの細い水路だが、スルンツェ川には及ばないとはいえなかなかの広さがある川へと合流した。
広さがあるって事は川を利用する舟の数も多いって事だが、マーキュリーさんは器用に漕ぎ棒を操るとゴンドラの速度を調整してうまく舟と舟の間に滑り込んだ。
「水の流れがあるのにうまく入れてすごいねぇ。ぶつかったりしないのぉ~?」
「慣れもありますけど、基本的に舟の速度はみな一緒ですから少し速度を調整するだけで簡単に入れますよ」
話を聞いてるとなんていうか本当に高速道路のルールや作り方をお手本にしたかのようだ。
あくまで川だから立体交差とかはないけどね。
「右に見えますのが歓楽区域となりますが、中央に入るための支流は少し先にあります」
確かに反対側の歓楽区域の方も流れがこの川に合流するようになってるな。
さすがに信号もないし水の流れは止められないから直進はできないって事ね。
右が歓楽区画で左が宿場区画らしいが、ここからだと左が普通の建物しか見えないのに対して右には周りに対して遥かにでかい建物が見える。
「はい、見えておりますのは歓楽区画の中央にあります闘技場になりますね」
「へぇ~闘技場なんてのもあるんだぁ~」
しんそこ嬉しそうな声でオルフェがつぶやく。
「僕も参加できないかなぁ~?」
「お、お客様がですか!? いえ、失礼致しました」
見た目は普通のケモミミ娘だからか、オルフェのその発言に反射的にマーキュリーさんが驚き聞き返す。
「ああ、いちおうこの子格闘家でもあるからな」
「さようですか」
見た目はウマ耳が生えたかっぱつな娘だが、蹴りの威力は鉄の盾をへし曲げるぞ!
「ええと、はい。さまざまな種目がありまして誰でも参加可能ではあるのですが……」
マーキュリーさんは少し俯くと、
「毎回何人か再起不能の大ケガを負ったり死者もでておりますので、私個人としてはお勧めしたくはありませんね」
「そうなんだぁ」
マーキュリーさんは諭すように言っているが、すでに何回か命のやりとりをしているオルフェにとってはまさに馬耳東風と言ったところか。
出る出ないはともかく外のレベルをざっくり計るために見に行ってみるのはいいかもしれんな。
「そういえば、国境のおっちゃんがここはオークションが有名って言ってたけど」
「はい、オークション会場も歓楽区域にございます。ちょうど区域に入る支流も見えましたので順次ご案内しますね」
「よろしくー」
さてさて、商業都市の歓楽区域には何があるんだろうね?