8-20 商才に年齢は関係ない
商人宿 話咲亭
日本語ででかでかと書かれてるなぁ。
いや、なんつーか町はヴェネチアみたいに水路が張り巡らされてて、明らかに日本とは異なる建物がたくさんある所で堂々と日本語を見せつけられるとミスマッチ感がハンパねぇ。
そんなこと言ったら中央広場にあるのぼりからして日本語だったし今更か。
あの時は他の3人が何にも気にしてない感じだったから俺も気にしないようにしてたけど
「この名前はね、偶然泊った商人さん達が商談に花を咲かせてほしいっていう願いが込められてるの」
「なるほど、一期一会を大事にしたいって事か」
じっと看板を見ていたからか、名前の由来を説明してくれた。
「それより受付をするから入って入って!」
1階は共有スペースになっているのかテーブルとイスが並べられ、奥には厨房も見える。
区切られた感じがしない辺り、宿泊者本人が自前のものを調理して食べるという形式も取れそうだな。
「お部屋は大部屋と個室があるけど、おにーさん達はお金持ってるし個室がいいよね?」
宿帳を持ってきた娘さんがこちらに問いかける。
コアさんとオルフェは全部俺に任せると行った視線を向け、すでに椅子に座りテーブルに肘をついてるからその問いかけは俺に向けられたものだろーな。
「他に客が入らないなら大部屋でも大して変わらないんじゃないか?」
「お部屋の装飾やお布団とかちょっといいもの使ってますよ」
提示された金額は大して違いがないから別にいいけど、やたらと俺たちを金持ち扱いしてくるなぁこの子。
「呼び込みながら見てたけど、おにーさん達値切ろうともせずに言われるままに屋台の商品買いまくってたじゃない。お金がないとそんな事できないよー」
あー、お金の価値はある程度教えてもらったとはいえ細かい相場に関してはまだまだだからな。
それに働いてもらった金じゃないから、ちょいちょい金遣いが甘いってのもある。
「じゃあ2人2部屋で頼む」
「おにーさん、ここだけの話もう少しお金をはずんでくれたらもっといっぱいサービスするよ」
その言い方は君が言うと、いかがわしい方向に聞こえるぞー?
「具体的には?」
「そうですね。金額にもよるけどお食事のおかずが追加されたりおにーさん達のウマの世話とかもやりますよ!」
おっと、そのサービスには的確に刺さる二人がいるな。
振り返るまでもなく、追加料金を出せという二つの視線が俺に突き刺さる。
娘さんもそんな二人の顔が見えるのか、勝ったと言わんばかりの笑みだ。
ふーん。そんな余裕な笑みを浮かべらえると、ぜひとも崩してやりたくなるなぁ。
「オーケー。じゃあこいつをチップ代わりにくれてやるから、相応のサービスに期待させてもらおう」
「えー。たった1枚? 言ったわりにおにーさんケ――」
俺が革袋から取り出してテーブルにおかれたものを見た娘さんが笑みを浮かべたまま固まった。
娘さんからは小銭を取り出したように見えたんだろうが、俺が取り出したのは大型金貨。
ぶっちゃけこれ一個でさっき払った宿泊代のウン十倍はある。
「え? え?」
「相応のサービスってのは嘘だから、安心して受け取ってくれ」
「え? うん。 ありがとうおにーさん」
笑顔からいいの? これ受け取ったらどんなサービスすればいいの? っていう狼狽顔が見れたから満足だ!
俺達はダンジョンで自給自足の生活ができてるから、貯金は必要ない。
元々これらは接収したものでもあるし、必要な人には大盤振る舞いしちゃってもいいだろうさ。
まぁ、ポンと大金をだしてしまったが家業の手伝いをしてたり受け答えを聞いた限りじゃ地球の同年齢の子よりはるかに考え方が大人だし後でおかみさんにフォローを入れておけば大丈夫だろ。
「馬の世話は君がやってくれるのぉ?」
「えっと。うん。おかーさんに市場で食べ物買ってもらうように頼んだ後になっちゃうけど」
まだ動揺が抜けてないのか少し震える声でオルフェの問いに答える娘さん。
「一人で? 他に誰かいないのか?」
馬の世話って簡単に言うけどかなり大変だぞ?
「そこは大丈夫。おにーさんが奮発してくれたおかげでお金を払って手伝ってもらいますから」
「わざわざ人を雇うのか?」
「おとーさんとおにーちゃんは今は商会で働いてるの、人手が足りない時は近所のおじーちゃんとかに声をかければ手伝ってくれるの」
なるほど。金銭がからんでるけどこれも助け合いの一種なのかもね。
適当に談笑を入れつつ、チェックインは無事に終わったようだ。
「さて、宿も決まったしこれからどうするかね?」
今は食事も住んで昼も少し回ったと言ったところか。
このまま宿に引きこもって休むには早すぎるな。
「私としてはこの子について行って市場に行きたいところだけどね」
「それも悪くはないんだがなぁ」
商業都市だしそこの市場は繁盛してそうなんだけど、宿場町の中央広場で散々食ったし宿の夕食は予約もしたから飯、飯、飯と続くのはちょっとね……
「ふむ、であるなら観光船に乗ってみるのはいかがかな?」
「巡回船じゃなくて観光船?」
「左様」
コアさん達と同じように近くの椅子でくつろいでいたデーンからの提案がきた。
「貴殿らはここが初めてであるからな。この国に何があってどんなところなのか知るにはちょうどよかろうよ」
確かに市場に行くって言っても俺達はどこにあるかは知らんしな。
「この賢のデーン、ちょっとした所要がある。故に貴殿らが観光に興じている間に済ませておきたい」
そういえばなんか買い物があるって言ってたもんな。
「観光船なら中央広場の先にある橋の下の船着き場から出てますよ!」
場所的にも本当に観光客向けでちょうどいいな。
「というわけで俺としては晩飯まで観光船でゆったり都市を回りたいとこなんだが二人はどうだ?」
「僕はなんでもいいよぉ~」
「宿に関しては私のわがままを通してもらったからね、ここはマスターにあわせるよ」
よし、俺たちのこの後の方針は決まったな。
「はい! それでは丁度戻ってくる夕暮れくらいにお夕食ができてるようにしますね!」
「よろしく頼むよ」
娘さんに見送られる形で俺たちは宿を後にした。
ようやく波が収まってきた
次回ファンバキア設定語り祭り!(多分)