8-18 お上りさんの異国観察
ほほぉーこいつはすげぇな!
検問を超えて最初に見えたのは城壁と少し距離を置いて沿うように作られた運河。
目測で大体4車線分くらいあるかな?
人工物としては結構な幅の河川を荷や人を乗せた大小さまざまな船が水の流れに任せるように動いている。
逆走している船が見当たらない辺りそれはまさに船の高速道路と言っていいだろう。
「宿場区画はこの橋を越えた先だ。その先にある逆回りの河川までは馬を連れて行ってよいことになっておる。今周りにある建物は全部兵舎ぞ」
言われてみりゃ、鎧をまとい武装した連中や何らかの訓練をしてる人がそこかしこに見える。
橋にも似たような恰好の兵士がちらほらいるあたり彼らは警察もかねているのかね?
それに敵が来て仮に城壁を超えられてもこの橋がなければ堀に早変わりするし、防衛の点から見てもこの川の役目は大きい。
この辺の都市計画を立案・設計した奴は天才だな。
いやはや、どうせ地球より文明遅れてるんだろうとかあなどってすみませんでした。
この都市まるでヴェネツィアみたいに水路をうまく活用してるわ。
「んー。魚はいないかな?」
「そうだねぇ。水は澄んでるから底まで見えるけどいないねぇ」
橋のはしに馬をよせたオルフェとコアさんが水面をのぞき込む。
俺達がよそ見していても馬がまっすぐ歩いてくれるからできる芸当だな。
まぁ、オルフェがそういうように指示を出してるだけではあるけど……
「ここまで綺麗だと魚の餌になるようなものがいないんだろ」
この辺はあくまで通行のために作られたものなんだろうな。
とか言ってたらもう橋を渡り終えた。
同時に宿場区画に入ったようで、宿の引き込みや露店で食い物を売るにぎやかな声がそこかしこから俺たちに向かってくる。
とりあえず喧騒を眺めながら馬を道なりに歩かせてみれば、やがて中央らしき広場が見えた。
ここまでくれば所狭しと露店も並び、立っているのぼりを見る限り肉・海鮮・野菜と様々なものがそろっているようだ。
周りが宿だらけ露店だらけのこの賑わいは、観光地の温泉街を彷彿とさせる。
「うん、この海鮮串は素材もタレもなかなかだね」
「僕としてはこの野菜串かなぁ?」
早っ!
ちょっと前まで二人が話す声が聞こえていたのに、いつの間にか下馬して屋台のメニューを注文して食ってやがる!
「だってぇ~。ずぅ~~っと並んで待ってておなかがすいてたもん」
「こんなに露店があるし、これは耐えられないよね」
別に怒ってるわけじゃないし、二人に渡した金を二人がどう使おうが勝手ではあるんだけどねぇ。
とはいえ腹がすいているのはこちらも同じ、ご当地グルメを食べたいという気持ちも同じである。
「んじゃ、宿探しを兼ねて昼食がてら食べ歩きと行こうか。オルフェ。両手に串を持つのはいいがちゃんと馬の面倒も見てくれよ」
お前が持ってる串、よくみたら鉄製じゃないか。
それは後でちゃんと返しておくんだぞ。
「んー。この子たちもおなかすいてるみたいだし、ご飯をたっぷり用意してあそこの馬繋に置いとけばおとなしく休んでくれるよぉ」
そういいつつオルフェは串から野菜をはずすと、自分を乗せていた馬の口に野菜を放り込む。
確かにしっぽを振ってうまそうに食ってるし、俺を乗せた馬が羨ましそうにそっちをじっと眺められると俺が我慢させてるようじゃないか。
それに言われて周りを見渡せば、動物用の飼葉を売ってる店も確かにある。
ここに来た人が欲しいと思うものが一通りそろってるあたりさすがだな。
「んじゃその辺は任せた。馬の飯代はこれで足りるか?」
「十分だよぉ」
オルフェが馬の世話をしてる間にこちらは改めて周りにある店を物色してみる。
近くの宿は一階が食堂や酒場を兼ねているらしく、中からは食事を楽しむにぎやかな声が聞こえる。
一方露店の方も宿の営業を兼ねているのか、のぼりには料理名だけじゃなくて店の名前らしき名称もまざっている。
コアさんの言った通り、宿で出す料理の一部を屋台で出してアピールしてるんだろうな。
あーいかんいかん!
物色してたらどんどん腹が減ってきたぞぉ!
「みんなお待たせぇ~」
「お、来たね。それじゃ改めて屋台食べ歩きツアーの始まりだね」
馬を繋いで戻ってきたオルフェを迎え、コアさんに引っ張られる形で俺たちの屋台巡りが始まった。
♦
ふぃ~。食った食った。
肉・野菜・甘味とまんべんなく、レパートリーもサンドイッチみたいに食べれるものに具材を乗せたものや別売りで買った皿に乗せて食すものなど、地球のお祭りに出てる屋台と遜色ないくらい豊富だった。
アイリも言ってたけどケバブとかハンバーガーとか地球にある料理もいろいろと普通に売ってんだなここ。
屋台には料理を焼くヒーターみたいなものも見えたけど、電気やガスを使ってるようには見えなかった。
あれもアカデミーとやらでギフトを応用して作られたものなんだろうかね?
使われてる肉や野菜は地球じゃ聞いたこともないやつが何種類かあったけど、味は基本的にどれもこれも地球に似た肉や野菜がある感じか。
それに言っちゃあなんだがコアさんの作る料理と比較すると、それを超えて美味いと思えるものはなかった。
まぁ屋台料理だからそこまで手は入ってないだろうし、舌が肥えまくってるであろう俺達でも問題なく食えるくらいにはおいしかったな。
「コアさん。いろいろ食ってたみたいだけどなんか感想はある?」
「うん、一言でいうと玉石混交だね。量産重視で雑な味付けから一つ一つ丁寧に味付けされたものまで本当に様々だったよ」
コアさんはほぼすべての屋台で一品何か頼んで食ってたもんなぁ。
「ふむふむ、それで玉の中から一番を選ぶなら?」
「あそこの屋台の煮卵だね」
コアさんが指をさした先にあるのは、大きな屋台に挟まれあまり目立っていなかった小さな屋台。
あそこは確か母娘に見える二人で屋台を回してたところだったっけか?
「そんなに美味しかったのぉ~?」
野菜系ばっか食って煮卵をスルーしていたオルフェがコアさんに問う。
最も俺やデーンもスルーしてたから、超一流料理人のコアさんの寸評は気になるところではある。
「うん、煮崩れしないギリギリの柔らかさと、しみ込ませた汁の相性はばつぐんだったよ。あのレベルの煮物を出せる人はそうそういないね」
ほほぉ。コアさんにそこまで言わせるとは、その煮卵食ってみたくなったぞ。
「んじゃみんなで食べてみて、ついでに宿も経営してないか聞いてみるか」
「さんせー!」
とにかく早く食べてみたいのか、オルフェに引っ張られる形で俺達全員、煮卵の屋台へと歩み始めた。
まだいろいろと文明レベルや習慣は模索中也