8-13 異世界事情は複雑怪奇
「といっても、そんな大げさな話じゃない。単に警告と見せしめのためさね」
うん? 警告なら以前俺が来た時にやったはずだが、効果がなかったのか?
「いや、あんたがやってくれた連中とは別口。というより新入りの仕業さね」
肩をすくめやれやれといった感じで首を振るエアデールさん。
「あいつらは夜中にコソ泥しようとしたのをスケイラが見つけて凍らせたんだよ」
「まぁ、そんなところだろうな。それよりあんな堂々と凍らせた連中晒して大丈夫なのか?」
一応ここは何もなかった事にするというのが暗黙の了解みたいなものになってたはず。
「問題がないと言えば嘘になるかねぇ。でも今のファンバキアにこの難民キャンプまで気を回す余裕もないみたいなんだよねぇ。もともと無法地帯のようなもんだけどますますひどくなってるよ」
だから堂々とあんなことしてても介入してくることもない、もしくはできないか。
「こうなった原因は大きく分けて二つ。一つ目は戦争の激化」
「え? 終わんないどころかさらに激しくなってんの?」
「ここにくる難民や商人からの噂話をまとめるとほぼ間違いないねぇ」
はぁー。これはもう泥沼状態だな。
「じゃあ、ここも危なくないか? よく巻き込まれてないな」
「ないとは言い切れないけど、比較的ここは大丈夫だと思うねぇ。だからこそ難民もここを目指してきてるわけだしねぇ」
そうなのか? その理由は?
「戦争は兵器に兵隊に食い物に何かと入用ですからな、それを自国で全部賄うのは難しい。その点ここなら金さえ出せば大抵の物は手に入ります」
「今のところここは中立だから取引に応じているようだけど、敵に回したら取引も実質できなくなるからねぇ」
サエモドさんが説明してエアデールさんが補足してくれた。
つーか、それって中立っていうか戦争を利用して金儲けしようとしてるだけなんじゃないか?
「それがファンバキアっていう国の特徴と言えば特徴だけど、戦火が及びにくい安全地帯があるっていうのは巻き込まれた人たちからすればありがたいもんだよ」
「なーるほど、それでさらに難民が増えたってわけね」
「そうなんだけど、ここに来てファンバキア側としても予想外の問題が起きつつあるみたいでねぇ」
「というと?」
視界の端でカニエスさんが復活して立ち上がろうとしているのを見つつ、先を促す。
「この国は商会の連合みたいなもんで大小さまざまな国との取引、悪い言い方だと物資を右に左に回して利益を取っている。加工力はそれなりにあるけど大本の材料の生産力自体は決して高くはない」
つまりは加工貿易、まるで日本のようだな。
「そんなところにあっちこっちで戦火が飛び火したらどうなるかねぇ?」
「んー。輸入が滞るし下手すると今まで取引できていたものが入らなくなる。供給が不足すると価格があがるな」
「正解。特に食料品の値段が上がってきているようだねぇ」
さらに言うと難民が増えれば食料の需要は増えるしな。
バランスが取れなくなってきてんのか。
「現に配給は減る一方。あたいらはあんたたちのおかげでどうにかなってるけど、よそは相当食い詰めてるところもあるみたいだねぇ」
「なるほど、それでリスクを負ってでも盗みにくる奴がいるってわけだ」
「まぁ、私達がいるうちは盗みなんかさせないけどね」
スケイラが得物の薙刀の先をコツンと鳴らしてアピールする。
うん、ただの素人がスケイラや三面堅の連中にまったく悟られずに盗むのはまず無理だな。
道中の護衛といい実にいい人選だったぜマナミさん。
「しかしどうにも今回の戦争はおかしい」
お、カニエスさんが復活した。
「今までも種族間のいざこざや領土を広げるための戦争はあった。わしも最初はそのたぐいだと思っていたのだが……」
マナミさんから聞いた話だと戦争をしかけてきた大国とは良くも悪くもない付き合いだったらしい。
だから思い返せば突然喧嘩を売られるのもありえなくはなかったと言ってたな。
「ここに来て話を聞いた限り、わしらのところだけでなくあちこちに戦争をしかけている事がわかった。急いで領土拡張したい理由があったとしてもこれはあきらかに愚策」
まるでアジア方面に喧嘩を売った陸軍と太平洋方面に喧嘩を売った海軍のよーだな。
そんで二正面になって負けてすべてが台無しになるっていう。
「それだけではない。戦い方にも不自然な点が多いのだ。まるで自ら破滅を望んでいるとしか考えられんほどにな」
んー? 仮に破滅を望んでるとしてそんなんで誰が得するってんだ?
「そもそもこれらは全てわしの推測にすぎん。はずれていることも大いにありえる」
話を聞いただけならなんとも裏がありそうではあるが、自分で見聞きしてない以上なんともいえん。
こっちにまで降りかからないことを祈るだけだ。
「そういえばここが荒れた原因って戦争の他にもう一つあるんだろ? もう一つはなんだ?」
「失踪事件さね。それも一人二人じゃない、門番や私兵団とかいろんな連中が百人単位で行方不明になっているそうだねぇ」
うーむ。戦争だけじゃなくてそんな事件も起こってるのか。
思っていた以上に恐ろしいところなのかもしれないなファンバキアは。
この辺の話ざっくり考えてるときは
まさか現実世界で起こるとは思わなんだよ!