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8-5 このごろダンジョンに流行るもの2

 うひー!

 自分で提案しておいてなんだが、思った以上にきつい!


「おわっと!?」


 加速した瞬間に突如目の前に現れた枝をエビぞりになって避ける!

 くそっ! これだけでもまた3秒もロスっちまった!


「うひっ!?」


 かといって上部の枝に注意を向けたら足元がお留守ですよと言わんばかりにいい感じにせりあがった根が俺の足を狩りにくる。 

 さっきからこんな調子が続いてぜんぜん速度がでない。

 

「主殿、そんな調子ではすぐ追い抜かされてしまいますぞー」

「んなっ!?」


 念話につられて見上げれば、枝葉の間から悠々と空を飛んでククノチの樹に向かうアディーラが見えた。

 くそっ! もうアディーラが飛んでこっちに来るまでの時間が経っちまったか!


 さすがに振り向いてもオルフェはまだ見えないが、気配はビンビン伝わってくる!

 ライオンに追われるウサギになったかのようだ。


 なんとかペースを上げないと、このままじゃアディーラの予言通りあっさり抜かれて終わるだろう。

 ハンデをもらってこのありさまじゃ、プライドも何もあったもんじゃない。


 とはいえ、気持ちだけで速度があがるなら苦労はしない。

 結局はできるだけ無駄なくミスなく少しでも早く進むのみ。


「みーつーけーたーぁー!」


 うひっ!? もう追いつかれたか!?

 いる! 振り向く余裕もないが確実に迫ってきている!


 木々のあいまから見えるククノチの樹はまだ遠い。

 

「!?」


 足に引っかかりを覚えた後、前のめりになり体が浮いた!?

 しまった。下から突き出した根に気が付かず足を取られちまった!


 くそっ! こけて立ち上がるこのロスはどう考えても致命傷、もはやここまで。

 それよりかなりの速度でこけちまったから、せめてちゃんと障壁で身を守らないと……


 いや! そうか、俺には特殊障壁という手があった!

 二人が普通にガチ走りで勝負してたからあわせてたけど、別にこの勝負魔法禁止のルールなんざいっさいない。


 そうと決まれば自身を滑りやすくやわらかい障壁で包み込む。

 浮いていた体が地面に墜落するが、障壁がやさしく受け止めてくれたおかげでノーダメージ。


 さらに言えば滑りやすくしたおかげで転んだ時の勢いもほとんど死んでいない。

 すぐに立ち上がれば最小限のロスで済むだろう、が!


 滑る先にはちょうど人ひとりくぐれそうなほど根が浮き出た空間がある。

 両手を突き出し穴に滑り込む。


 穴のサイズは本当にギリギリだったが、障壁が穴に合わせて形が変わり、俺の身体をうまく穴に滑り入れる。

 これなら俺の身体が入るすき間さえあればどんな穴だろうと簡単に入れそうだな。


 胸くらいまで根の穴に入った瞬間を見計らい、障壁を膨張させる。

 スポンッ! という音が聞えそうなほど爽快に穴から射出された俺は走るのとは段違いの速度で木々の間を縫って飛んでいく!


 もちろん飛ぶコース上には大木も生えていたりするが、手を使って真芯にさえ当たらないように調整すれば障壁が滑って体が真横に抜けていく。


 何より走ってるときより表面積が圧倒的に小さい! なんなら枝のすき間を通ってどんどん加速しちゃうぞ!


「何それ! ずるい! 動きが気持ち悪い!」

「わははは! これが新たな”走法”よぉー! 後気持ち悪いっていうな!」


 これに名前をつけるならそうだな、うん”にんげんぎょらい”がいい!

 ひらがななのがポイントだ、間違っても漢字ではない。


 走り方というか、進み方を根本的に変えたおかげで良くても3:7だった速度差が互角かこっちがやや上回る程度まで変わった。

 これなら最初につけたハンデの差で押し切れる。


 ……と、思ってた時が俺にもありました。


「あ、森を抜け散った」


 木々が乱雑に育った地帯を抜けて整地された道路に出て、そのまま道路を滑る。

 この走法唯一の欠点は狭い箇所がないと速度を上げる手段がないという事だ。


「まだまだこれからぁ!」


 逆に森を抜けて障害物がなくなったオルフェが一気に加速し追い上げる!


「とぅっ!」


 地面に手を付き、身を起こして足元に障壁をまとわせたまま滑る。

 今の速度は俺が走るよりも早い。ならば少しでも摩擦力を減らすために立ち上がる。


 結局のところここから先は純粋な速力勝負。不確定要素がないなら残距離と二人の速度の比較で結末は大体予想できてしまう。


「ゴール!」


 ククノチの樹にタッチしたのはほぼほぼ同時。

 さて、審判のアディーラの目にはどう映った?


「ふむ。本当に微差ですが主殿のほうが手のひら一つ分早かったでありますな」

「よっしゃぁー--!」


 ほぼほぼ同時ってのは予想できてたけど、勝ったのは素直に嬉しい!


「あー--! くっそぉぉー!!」


 反対に地団太を踏むオルフェ。

 どんな勝負でも必死にやるからこその悔しがりだな。そういうとこがオルフェのいいところではある。


「主殿が途中でやったあのキモイ飛び方は、自分にも何か応用できそうな気がしましたな」

「あー、なんか応用できそうならぜひしてくれや。あとお前もキモイって言わないで」


 せめて実用的とかもう少しいい言葉を頂戴!

 その後も3人で感想戦をしていたところ、


 突然拍手が聞こえてきた。

 3人がそろって音源の方に目を向けてみれば、そこに立っていたのは、


「うふふー。 なかなか白熱した勝負をやっていたようですねー」


 ニコニコ笑顔を向けて拍手を送るククノチだった。

 んんー?


「うん! 負けちゃったけど勝負事態は楽しかったよぉ~」

「それはなによりですー」


 なんていうか今のククノチの笑顔は作り物というか、影がある感じがするぞ?

 オルフェはまったく気が付かず同じく笑顔でククノチに近づいているけど……


 何やら猛烈に嫌な予感がするのぉ。


「ところでオルフェさん」

「なーにぃ?」


 オルフェが会話に注意を向けたすきにククノチの樹の枝がオルフェにまきついた。


「え? うわぁぁぁー--!」


 そしてそのまま一本釣りされるオルフェ。

 ちょっ! 一体どうしたんだってばよ!?


「随分熱中されていたようですね? 沢山の子の根を強く踏みつけて痛めましたね?」


 まじか!?


「言われてみれば、道路にオルフェ殿の足跡がくっきり残っておりますな」


 確かに俺にもわかるくらいはっきり残ってる。

 あれくらいくっきりつく力で地面を蹴ったら、そりゃ埋まってる根っこも傷つきますわ。


「こりゃ言い訳もできんな。オルフェ、しっかり謝っておくんだぞ」

「えー!? ご主人は違うのぉ~!?」

「俺はほら、滑ったからさ。だから地面の中までは傷つけてないんだよ」


 きもいきもい言われたが、足跡も残らない綺麗な走法だっただろ? 


「何言ってるんですか? ご主人様も同罪に決まってるでしょう?」

「おわぁぁぁぁ!?」

 

 いうが早いが俺にもククノチの樹のツルがまきつき吊り上げられる!

 世界が逆転した!


「なんでや!? 根っこは傷つけてないやろ!」

「ここでやろうと言ったのは誰ですか?」


 ちくちょう! コアさんちくりやがったな!


「ちょっと待ってほしいであります! 自分もでありますか!?」

「同罪です」


 いつの間にか枝に止まっていたアディーラもグルグル巻きにされてーら。


「これから三人には罰として大樹の治療を受けてもらいます」


 大樹の治療? マッサージか? それが罰になるのか?

 疑問は浮かぶが、その答えを聞くより早く俺たち三人はククノチの樹に取り込まれてしまった!


「今回の治療は……痛いですよ?」


 その声と同時に全身が圧迫され……てるだけじゃねぇ!


「いででででで! ちょっとまってちょっとまってククノチ! そこをグリグリ攻めちゃらめぇ!」

「大分お疲れのようですねぇー。今回はたっぷりほぐしてあげますよ」


 毎日矢を撃つ練習をしてる都合上、肩甲骨に疲れがたまってる自覚はあったけど、

 痛い痛い! わざと痛みがますようなほぐし方をしてやがるな!


「やめて許してククノチ! 靴を脱がさないで! 足裏はダメだってばぁ!」

「だーめーでーすー。許しませーん」

「いだだだだ! ククノチ殿力が強すぎるであります! 頭が割れてしまいそうです!」

「アディーラさんは眼精疲労ですねー。後頭部をしっかりほぐしてさしあげますねー」


 あででで! 三人ともしっかり揉みほぐされているようでククノチの樹の中で悲鳴が響く。

 たっぷり1時間ほどたっぷりもみほぐされた俺たちは、ふらふらになりながらも森林エリアを後にした。


 多分これ揉み返しもひどいんだろうなぁ。

 もう森林エリアでパルクールするのはやめよう。

 

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