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8-3 下手したら死ぬ金魚すくい

「ん~! 今日もいい朝だな」


 ま、ここはダンジョンの中で朝日が出てるかはわからんが、目覚めがいいからいい朝だ。

 いい朝にはいい朝風呂。旅に出てすっかりごぶさただったから、久しぶりに堪能することにしよう。


「いい風も吹いておる!」


 脱衣所で服を脱ぎ、風呂場に入れば岩場エリアに吹く微風が気温も相まって心地いい。

 太陽のない空から降りそそぐ光も全身に受ければ、思わず光合成もできちゃいそうだ。


 っと、そういえばこの前読んだ雑誌におもしろい風呂があったんだよな。

 外に出てる間にたまったDPで拡張しちゃいますか。


 並列思考を利用してダンジョン操作をすると今まで床だった岩畳がうねうね動いて湯船を形どり、そこに成分設定をしたあたらしいお湯を流し込めばあっという間に新風呂の完成である。


「ふーむ、これはなかなか」


 さっそく入って確かめてみる。

 湯船のふちに頭をあずけ独特の浮遊感に身を任せて体の力を抜く。


「あぁ~体がとろけるんじゃぁ~」


 朝だから体を起こさないといけないのに、これは二度寝しちゃいそう。


「はようはよう~。朝風呂もいいもんよ~」

「アマツさん。急がなくても風呂は逃げませんよ」


 ん~? アマツが朝風呂に来るのは日課だから来るのは当然として、その隣にいるのはリス娘か。

 あいつ歓迎会が終わってからすぐに研究に没頭しだしたんだよな。


 寝なくても平気だからってあまり睡眠を取っていないみたいだが、だからこそ気分転換も兼ねてアマツがリス娘を誘ってきたようだ。


「主さん~! おはよう~!」

「おはようございます」

「うぃ~」


 こっちに向けて元気に手を振るアマツに対し、リス娘は抵抗があるのか湯あみ着を来て体をタオルで少し隠している。


「どうだ? 少しは慣れてきたか?」

「ええ、みんな本当に好き勝手生きてるのがよくわかりましたよ」

「?」


 リス娘がちらりとアマツの方を見るがアマツはその視線を理解できずに首をかしげるだけ。

 かわいい。


「ん~? あっ!」


 お、新しい風呂が増えたことに気が付いたか?


「主さん! そこは新しい風呂かね!?」

「その通り、たった今できたてほやほやだ」

「さっそくウチも入らせてもらうとよ!」


 興奮が抑えられないからってこっちに走ってくるな! 危ない!


「とぉぅ!」


 飛んだ! 空中で一回転すると人間形態から人魚形態に戻り、有名怪盗も顔負けの綺麗なダイブ体制をとった。

 って、悠長にしてる場合じゃなかった!


「アマツストップ! この風呂は飛び込んじゃダメだ!!」

 

 アマツはこれをよくやるから気にも止めなかったが、この風呂の成分はあかん!

 しかしすでに空中に飛んでいたアマツにはすでに手遅れ……というか聞いてない!


 いつものように豪快な水音を立ててアマツが風呂に飛び込んだ!

 しかし、いつもと違うのは――


「みぎゃぁぁぁぁー--!」


 水面から飛び出したアマツが悲鳴を上げ暴れ出す!

 いや! それどころじゃない!


 アマツはパニックを起こすとやばいクセを持ってる!

 しかもこの状況だとヤバイ!


「緊急脱出!」


 たるんでた脳と体を一気に覚醒!

 障壁で身体を押し出し風呂から飛び出す!


 瞬間。全身の筋肉が震えた。

 遅れて体中から痛みの信号が脳に送られてくる。


 あでででで!! 全身に電流が走ったかのような痛みがっ!

 いや、かのようなじゃない。本当に俺に電流が流れたんだ。


「ぐへっ!?」

「ボス!?」

 

 電流で身体がしびれたせいで、着地に失敗して地面にキスをしちまったが生きててよかった。

 心配してきてくれたリス娘が持っていたタオルを借りて体に巻き付ける。


 振り返ってみれば浴槽で暴れてバチャバチャお湯をまき散らすアマツの姿。

 いや、それならまだいいんだが正確にはパニック状態で見境なく電撃をまき散らしている。


 何かあったらとにかく身を守ろうとして電撃を放つのは、助けようとする身としては迷惑極まりない。

 不幸中の幸いなのはアマツは人魚だから溺れる心配がないという事ではあるが……


「あの風呂はいったい何なんですか!?」

「その話はあとだ。まずはアマツをすくうぞ」


 いろんな意味でな。

 とはいえ馬鹿正直に近づいたらアマツが垂れ流す電撃に感電して死ぬ。

 だが俺には、触れずともアマツをすくいあげる方法はある!


「障壁展開!」


 両手からアマツをすくいあげるポイの形をした障壁を作り出し、慎重にアマツをすくう。

 そしてゆっくり確実に持ち上げる、もしこっちにアマツを転がしちゃったら感電して死ぬ。


「ほいっと」


 そして障壁のポイの上で暴れるアマツを水風呂に放り込む。

  

「アマツ、今水風呂に入れたから落ち着いて水で身体を洗うんだ」

 

 念話で繰り返し伝えてやると、電撃と水が跳ね飛んでいた水面が徐々におさまってきた。


「ふぃ~、ひどい目にあったとよ~」

 

 そして水で顔が濡れてるから正確にはわからないが、多分涙目のアマツがひょこっと水面から顔を出す。


「すまなかった。先に説明を入れるべきだったな」

「ううん。ウチも悪かったとよ」


 お互いにペコリを頭を下げる。


「それでボス。結局このお湯はなんなんですか?」

「うん。こいつは地球の死海っていう湖を模した温泉。魚が住めないくらい塩分濃度が高いんだ」


 だからこんな湯に潜ったら塩辛いを通り越して苦さや痛さが襲ってくる。いかにアマツといえどこれには耐えれないだろう。


「なんでこげな風呂作ったとね~?」


 恨みがましい声とジト目でアマツが訪ねて来る。滅多に見たい顔ではあるがかわいい。


「それはだなぁ」


 論より証拠。再び風呂に入りなおし体の力を抜けば自然に浮かび上がる。

 はたから見れば湖に浮かぶ大木のごとし。


「濃度が高いとこんな感じで身体が浮かびやすいんだ。ま、お前さんがいつもやってる事なんだけどな」


 温帯エリアであおむけで波に揺られながら日向ぼっこをするアマツはよく見る。

 

「なるほど、塩も研究するといろいろおもしろい事ができるかもですね」


 そうね、塩も研究してくれたらコアさんきっと喜ぶよ。でもね


「それよりまずはお前も浮かんでみろよ、気持ちいいぞ」

「そーですね。まずは何よりも体験ですかね」


 手だけを風呂に入れて何か考え事をしていたリス娘を誘ってみると俺の隣で同じように水に身を預けた。


「ほう、布団もなかなかでしたがこれも悪くないですね。ここで寝るのも悪くない」

「いや、ダメだろ」


 いくら気持ちよくても塩水だ。短時間ならともかく長時間はよくないに決まってる。

 

「では、体に無害で浮力が強い液体を生成してみましょう」


 ふーむ。錬金術師としてはそういう考えになるのか。

 改善案を考えるのは結構なことではあるが、ワーカーホリックの気があるのがよーくわかった。


 その後も3人一緒に浮かんだりしたら、十二分にリラックスもできたし今日も頑張りますか!

静岡に行ったときによく泊まってた松の湯が閉店してしまったので

初投稿です

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[気になる点] 作中、『死海っていう海』と、あるが死海は名前に“海”がつくが海ではなく湖な件
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