8-2 成果を出すには適切な予算と時間が必要よね
「はふほほ、はふひはくふんなくふほひひね」
「とりあえず答える時は頬にためたものを全部飲み込んでからしゃべってくれ。何言ってるかわかんねぇ」
自己紹介をすませて、お茶うけに出された砂糖をまぶしたおかきを頬に詰め込んだリス娘がうなづく。
リスだな
リスだね
コアさんとアイコンタクトで通じ合う。
「なるほど、あたしはいろんな薬を作ればいいのね」
食べる手を止めず念話で答えやがった。
召喚直後は腹が減ってるんだろうかね?
「できそうか?」
「なーんか自分のじゃない経験が頭の中に入ってる感じだからなんとかなると思うけどー」
あー、確かにスキルや知識を入れた時はそんな感じだよな。
「でもそういうやつの成果って時間とか予算とかに影響されるじゃない? 安請け合いする前にどれくらい投資してくれるか聞いときたいんだけど?」
ほほぉ、”あたしにお任せ!”みたいな事を言わずにそうきたか。なかなかの現実主義者なようだな。
「とりあえず専用の研究室を用意する。必要な設備や素材は言ってくれたら用意する。限度はあるけどな」
「実績もないのにそれは相当期待してくれてますなぁ」
リス娘はそう念話で伝えると、頬袋に詰め込んだおかきを咀嚼して飲み込んだ。
そしてお茶を一杯ぐぐっと飲み干して
「とはいえ、一口に解毒薬と言っても毒の成分や効能によって変えないといけませんから、サンプルやデータがなきゃすぐに作れって言われても無理ってもんですよ」
言われてみりゃそうだ。ゲームみたいに解毒薬ってアイテムがあればどんな毒でも瞬間解毒というわけにはいかないよな。
言い切るだけ言い切るとリス娘は再びおかきを手にとり、表面についた砂糖をペロッとなめる。
「なのでまずはこの砂糖とやらの品質をあげる研究からやってみようと思いますよ。こうしてサンプルもありますし、このおかきもさらに美味しくなるならやる気がでるってもんです」
「それはぜひ頼むよ。私にできることがあればなんでも手伝うから」
ん? コアさん今なんでもって言ったな?
「では、砂糖を使ったデザートを作ってください。たくさん種類があればあるほどデータが取れます」
「まかせたまえ、なんならデザートの満漢全席だって作ってみせるよ」
胸をどんと叩き、立ち上がるコアさん。
「ちょい待ち、そんなにデザートを作ってもらって一体何のデータを取るんだ?」
「もちろん人体実験のデータですよ」
「えらく仰々しいな、設備もまだないのに何するんだ?」
リス娘はコホンと軽く咳払いすると
「まずは実際に沢山味わってみて、砂糖を使った甘味による美味しさの定義をはっきりさせようかと」
「おい、お前それは単にいろんなデザートを食べたいだけなんじゃないか?」
俺のツッコミにリス娘は自分の頭をコツンと右手で叩き、
「てへぺろっ」
このやろう図星だったか。
言動がまじめだったからアマツ辺りは信じてたぽいけど俺は騙されんぞ。
「そういう実験でしたら自分も喜んで参加したいですな!」
「ウチも沢山食べたいとよ~!」
ほらみろ! ウチの甘党組が反応しちゃったじゃないか!
こうなると……
「リス娘さん! お酒はどうですかー!? お酒もたくさんありますよー!」
「野菜も!」
要求の連鎖反応が始まるのがウチの連中だ。
圧が! みんなの圧がすごい!
「ぴえっ!?」
そんな圧を一身に受けたリス娘は萎縮してしまった!
「ウチの連中はみんなこんな感じで欲望に忠実だから。安心しろ。お前もそのうちこうなる」
堅物だと思ってたアディーラだって今はあんなありさまだからな!
「大丈夫ですよ。みんな自分の欲望を出す代わりに、他人の願いもかなえてくれますから」
唯一アイリは一歩引いてはいるが、それでも初対面の頃よりは大分自分を出してきていると思う。
持ちつ持たれつWinWin。これでウチはうまく回ってるんだからねぇ。
「はは、これは期待されてると受け取っておきます」
まだちょっと怖いのか、近くにいたアイリの袖をつかんで身を隠すリス娘。
そのしぐさはまさに小動物と言った感じでかわいらしい。
「ところでデザートの満漢全席だがやっても構わないぞ。どうせ今日は歓迎会だしパーッと行こう」
「やったー!」
おお、甘党二人組がはしゃぎおるはしゃぎおる。
まだ許可が出てない酒と野菜に関しても、当然とやるよねと言わんばかりの目で見つめて来る二人の視線がまぶしい。
「これは俺の経験則によるものなんだが、甘いものだけっていうのは意外と食べれないんだ。だからちゃんと酒と野菜料理も用意しないとな」
このコメントにハイタッチで喜びを分かち合う二人。
まぁ、この二人ならダメって言ってもしれっと混ぜる事ぐらいはしてくるだろう。
「よし、それじゃあ早速いろいろ作ろう。今日はみんな手伝ってくれるよね?」
「オフコース!」
「返事がよくて大変結構!」
コアさんも尻尾を振って非常に機嫌がよさそうだ。
「あ、俺はリス娘と一緒に研究室作るから。何がでてくるか楽しみにしてるぞ」
「任されたよ」
ラボを作り上げた後、俺達を待ち受けていたのはまさに満漢全席と言った感じの様々な料理だった。
「はむ! はむはむはむはむはむ……」
小柄な体にどんだけ詰め込むんだって感じで本能のまま飯をむさぼるリス娘。
その姿はさっき味わうだの定義するだのと言った知的な姿からは程遠かった。
「このケーキ、ワインをふんだんに使っててとってもおいしいですぅー!!」
「確かに! こうなんというか、とにかく甘くておいしいでありますな!」
いやまぁ、知能が下がってるのはみんなそうなんだけどね。