7-50 オンオフは大事
談笑をまじえつつ朝食が終われば白犬族の戦士達は動き出す。
「では父上、巡回に行ってまいります」
「何があっても無事に帰ってくることを優先するんだぞ」
ケルン君を含む特にケガをしていない若い男達は今日も巡回の仕事があるらしい。
とはいえ日本みたいに基本何事も起こらない生易しいものではなく、盗賊や食い詰めた難民に襲われることもよくあるんだとか。
「エン殿。同行していただきありがとうございます」
「いいって事よ。ここにいても暇だからな」
ケルン君がエンに向かって頭を下げる。
エンは剣士という事もあって、昨日俺が居ない間に余興として戦士達とあわせ剣舞をやったらしい。
適度に手は抜いていたようだが、それでも戦士たちはエンが自分らよりは腕がたつという事を理解するには十分だったとのこと。
ここまで来た経験上、一般的な盗賊程度ならダース単位で襲われようがエン一人で問題はない。
ただあの黒豹族の手練れみたいなのがきたら苦しいといったところか。
とはいえ襲われるときは襲われるし、こればっかりは運もからんでくるからな。
「心配すんなって、やばいと感じたらこいつらをつれてさっさと逃げるからさ」
俺の視線をそう解釈したのかエンがヒラヒラと手を振ってこたえる。
性格上エンはちゃんと彼我の実力を見て、勝てない勝負はしないタイプだし大丈夫そうだな。
「では、エアデール様。私達も今日の仕事に行ってきます」
「あと少しの辛抱だけどよろしく頼むねぇ」
エアデールさんに声をかけたのは女性陣のみなさん。
「彼女たちはどちらに?」
「ああ、ファンバキアの中には女性の身一つでもできる商売があるってこったよ」
なるほど、察しはついた。
「あんたなら来てくれたらいっぱいサービスするよ~、いっぱいお金も持ってそうだしね~」
おおっと、女性陣からお誘いを受けてしまったぞぉ!
彼女たちも戦士なだけあって、ほどよく引き締まった体躯をしており実に魅力的である。
何よりケモミミというところが素晴らしい!
「はっはっは、皆さんどこにお勤めで……はうぁっ!?」
後ろからコアさんやククノチのものとは違う緑色の殺意がっ!?
背中が凍えるような感覚に襲われながらもこっそり視線を後ろに向けてみれば、そこにはニコニコ笑顔を浮かべたアイリがこちらをまっすぐ見据えていた。
あれは……行くのに反対はしないんだろうが、行ったら帰ってきた後がやばい。
いろんな意味で襲われる。
断腸の思いで断りを入れると、彼女たちはそれを予想していたかのように気にした風もなく笑いながら街へと向かっていった。
ありゃりゃ、これはからかわれたかな?
「うっし、それじゃ俺達もお使いを済ませますかね」
本来ここに来た目的は飯を振舞う事じゃなくて、マナミさんから預かった品物を引き渡すことだしな。
とはいえせっかくウチのメンバーが勢ぞろいしたんだし、荷運びは全員でやる必要はない。
「コアさんは保存食のレシピを教えてやってくれ」
「まかされたよ」
「ククノチはケガ人の手当てを頼む、状況に応じて回復薬も併用していい」
「かしこまりましたー」
昨日は出会ってすぐ宴会に入っていろんな人から絡まれまくったからついつい後回しにしてたが、昨日巡回をしてた連中から聞いた通りケガで動けない人もテントの中にいるみたいだ。
治せれば治療費が消え、逆に稼ぎ頭になる。優先的にやるべき事柄だろう。
「後のメンバーは搬入をやってもらう」
「私も手伝うよ。戦闘は無理だけどこれくらいはできるからね」
「俺もだ。それくらいはしよう」
お、スケイラとコウも手伝ってくれるのはありがたい。
「よし、それじゃあ向こうの取りまとめはアイリがやってくれ」
「かしこまりました」
今アイリには資材管理も変わってやってもらってるし、俺とコアさんの次に人を効率よく動かせるから適任だろう。
俺はアイリに近づき、一枚の紙を手渡す。
「これがマナミさんから預かった物資の一覧なんだけど、ここに来て足りないものがあるのがわかったからいろいろ追加してある。悪いがこれも倉庫用の胃袋からかき集めてくれ」
「はい」
ちょうどウチには以前攻めてきたゴブリン達から接収した野外装備一式とかが埃をかぶってたからな。
ちょいとボロイが数だけはあるし十分使えるだろう。
「そいじゃウチのダンジョンに送るから向こうで準備を頼む。そうだな……今から4時間後の昼飯時になったらまたつなぐからコアさんが作りおいてる飯と一緒にもってきてくれ」
「わかりました」
他に打ち合わせることもないので、さっそく空間魔法で皆をダンジョンへと送る。
「あんたはこっちでやる事があんだろ!?」
「いだだだだ!?」
ひっそり混じってついていこうとしたカニエスさんの耳をつかんで止めるエアデールさん。
手慣れてんなぁ。これ初犯ってわけじゃなさそうだな。
「あああ、アイリちゃんが行っちゃう」
カニエスさんはうなだれて魂が一緒に出てきそうなほどの悲壮な声を上げているんだけど……
なんつーか、昨日からこの人のダメなとこしか見てないけど、よくこんなんで族長なんかやってられるなー。
世襲制なんかね?
送るべき人を全員送ったので空間魔法を閉じて一息。
さって、こっちはこっちでやるべきことをやらんとなぁ。
「ほれ、あんたもさっさと立ちなって。今はお互い無事に会えただけでもよかったじゃないか」
「うむ、そうだな」
エアデールさんに促されて立ち上がるカニエスさん。
アイリと別れて意気消沈してるかと思いきや、立ち上がって見せた顔は族長にふさわしい威厳のある顔。
「仙人殿。もってくる物資は高価なものもまざっているようですな。他の物に見られては面倒な事になるので穴を掘って隠しましょう」
「お? おう」
「そこで仙人殿から物資を受け取り、地上に偽装用のテントを建てればばれることはまずないと思いますがいかがかな?」
「うん、俺もそう思います」
「では、さっそく非番の若い衆に掘らせるとしましょう」
カニエスさんは一言そういうとこの場から離れ、有言実行とばかりに人を集めて穴を掘り始めた。
全体を見て効率よく人を動かす。
すごいこの人、いきなり有能になった。
実はアイリがいないほうが優秀なの?
「昔はずっとあんな感じで頼れる男だったんだけど、娘ができてからああなっちゃってねぇ。ま、やるときはちゃんとやってくれる男からいいんだけどね」
「俺もあんま人の事は言えないかな……」
人のふり見てなんとやら、俺もきっとケモミミ娘の前じゃあんな感じなんだろうな。
「デーン。あんたも暇なら手伝ってやってくれ。穴掘りならお手のもんだろ?」
「ふふ、この賢のデーンにお任せあれ。ついでに掘って出た土でカマドでも作ろうぞ」
さっすがぁ。頼りになるぅ!
大体動画も出来上がったので投稿よ