7-49 スパルタデトックス
「くぁぁ~」
あくびをひとつかまし、白犬族のテントにまじって立てた俺専用のテントから顔を出す。
空は闇夜に青がまざり始めた頃合いで、後数十分すれば太陽がコンニチワしてくるといった時間か。
カニエスさんに黒豹族を返り討ちにした事を話し、その際スケイラとコウが毒を食らってウチのダンジョンに治療のために運んだことをエンとデーンに話したりと忙しかった。
おかげであんまり寝れてない。
まぁ、寝なくても平気だから問題ないけど。
そのままテントから出て軽く伸びを一つ。
白犬族は日の出から動くので、二度寝する程の時間はないな。
なら黒豹族とやりあった場所がどうなったのか気になるので、散歩がてら向かうことにしよう。
徐々に周囲が明るくなってる中、一人野原を歩くのもなかなか乙なもんだ。
っと、距離的に大体この辺だったとはずなんだが……
あたりを見回しても、装備どころか死体一つ見当たらない!
さすがに地面に生えた草には時間が経って赤黒くなった血がところどころこびりついてたりするが、少なくとも誰が戦ったかという証拠になりそうなものは一切落ちてない。
一夜でここまで証拠を消し去るとは……あいつら掃除人としては超優秀じゃん。
これならアマツに周辺を洗い流してもらえば、もう誰にも気づかれることはないだろう。
「ふぁ~、ウチに任せるとよぉ~」
念話で連絡をとると、まだ眠たそうな声でアマツが返事をしてくれた。
寝なくても大丈夫とはいえ、寝起きはこうなる。
特にアマツは起きたら風呂に入らないとしゃっきりしない。
俺もそろそろウチの風呂が恋しくなってきた。
呼んだアマツと入れ違う形でキャンプ地に戻ってみれば、日はすっかり登り切って白犬族の皆さんも起き出し広場に集まっている。
「仙人様おはようございます。どこに行ってらしたのですか?」
「ああ、早起きしたんでちょいと散歩にな」
こちらの姿を見るなり駆け寄ってあいさつしてきたアイリに手を上げつつ答える。
主目的と副目的を入れ替えたが、嘘はついてないので問題ない。
「いやー。酒をしこたま飲んだおかげか久方ぶりに快眠できたよ」
そう言ったのはすごく機嫌がよさそうに軽く伸びをするエアデールさん。
あんたは俺が戻ってきたときにはすっかり酔いつぶれて高いびき掻いてたもんな。
その後そのまま俺たちがもってきたテントに運ばれて爆睡してたし、そりゃあ気分もいいだろうよ。
「あんな酒臭い母様の隣で寝たの初めてですよ」
テントが足りないからアイリには一人用テントに無理やり母娘で詰めて寝てもらったのだが……
こっそり俺にだけ愚痴るほどひどかったんか、昨日のうちに追加のテントもウチのダンジョンから持ってくればよかったな。
「久しぶりにアイリちゃんと一緒に寝れると思ったのに」
カニエスさんがボソッとつぶやいたのを俺の耳は聞き逃さなかった。
とはいえ親子の間柄に俺がいう事は何もない。本人がどう思うかだ。
まぁそれ以前にテントが足りず、カニエスさんは外で寝てたけど……
っと、そろそろコアさんと約束した朝食の時間か。
「それじゃ、今日の朝ごはんを持ってきてもらいますかね」
一言そういって場所を開けてもらい、空間魔法でウチのダンジョンと繋ぐ。
さほど間もおかず、コンテナを積んだ手押し車と共にこちらに来たのは、
「なんだ、聞いてた話と違ってピンピンしてるじゃねぇか」
「いやいや、これでも昨日は生死の境を彷徨ったんだよ」
エンの軽口に答えたのは、昨日毒の治療のためにウチのダンジョンに運ばれたはずのスケイラだった。
「おぬしが毒でくたばるほどヤワじゃないこと、この賢のデーン見抜いておったぞ?」
「まだ少しめまいがするんだがな」
コウも続いてやってくる。
とりあえず二人とも無事でよかった。
「今日は紹介がてら全員で朝食を食べよう」
昨日は留守番役を買ってくれたコアさんとククノチをまだ紹介してないからな。
代わりに数時間ほどウチのダンジョンが完全にもぬけの殻になってしまうが、めったに人が来ない上に防衛エリアは誰もいなくても突破するのに数日はかかるような仕組みになってるから大丈夫だろ。
「あんたがククノチさんかい、昨日飲んだ酒は実に美味かったよ」
「それはそれはー。何よりですー」
エアデールさんは飲んだ酒がよほど気に入ったようで、昨日の宴会じゃ散々俺に絡んで出所を聞いてきたんよな。
酒豪同士気が合うのか、ククノチの方もまんざらではないようで早くも一緒に飲み明かす約束をしてらぁ。
まだ朝なのに、それは少々気が早いんじゃないかね君たち。
「あの人がアイリの母親かな? アディーラから聞いてた通り快活な人だね」
「おうコアさん。昨日はありがとな」
無茶ブリな期待に応えて二人の解毒をしてくれたコアさんとククノチにマジで感謝!
「何、二人の生命力が強かったからだよ」
クールに振舞ってはいるが、ほめられて機嫌がいいのは尻尾を見ればわかる。
カニエスさんとアイリが朝食の配膳の仕切りをしてくれるから、こっちはのんびり雑談してよう。
「それにしてもどうやって一晩で治したんだ? 解毒薬とかはさすがに無理だろ?」
コアさんもククノチもそれぞれ食と医術の心得があるが、薬物は専門外のはずだ。
「なに、おいしい薬膳と適度な入浴。それだけで十分さ」
まじかよ。毒ってそんなんで簡単に抜けるんか?
ふぅむ、薬膳で毒を排出しやすい状態にしたあとに、お風呂で汗と共に毒素を流したのか。
いわゆるデトックスを強くした感じかね?
……と、思ったんだがどうやら言葉通りではないようだな。
コアさんの後ろ、話を聞いていた患者二人の顔が否定している。
「ねぇねぇねぇ今の聞いたかいコウ? おいしい薬膳と適度な入浴とか言いやがりましたよあの女狐は」
コウの肩に腕を回しつつ、あえてこちらに聞こえるような声でスケイラがコウに絡む。
「この世の全ての不味さを凝縮したかのような、あの木の実が美味しい薬膳だってさ」
「食わされた瞬間。あの世が見えた」
木の実……まさかスケイラの言っていた生死の境を彷徨ったってのは毒じゃなくてイズマソクの実を無理やり食わされたからか!?
動けないからってあれを食わされるとは、確かにあれなら逝っても納得できるくらいの不味さはある。
「その後の入浴にしたって、数時間ずっと薬湯温泉に漬けられたしねぇ。体がブヨブヨになるかと思ったよ」
「後半はもう意識がなかった。ただただ熱かったとしか覚えてない」
コウのめまいがするってのも、毒じゃなくてまだのぼせてるだけなんじゃ……
コアさん。なかなかの荒療治をしたもんだ。
二人の視線を受けとめコアさんも二人を見つめ返すが、その瞳にはありありと優越感が見える。
「それでも最終的にはこうしてしっかり治してくれたわけだからねぇ、何にも言えないよ」
「感謝はしている。だがもし次があるならもう少し手心を頼む」
これはやはり早めに薬剤師を召喚するべきなのだろうか?
動画編集のあいまに投稿じゃーい