7-47 後始末は実際ダイジ2
「お前、俺たちの後をつけてたな?」
何人かの顔には見覚えがある。こいつらキャンプ地に入ったとき俺たちを物色していた連中だ。
その後で仲間を集めたのか、今は結構な大所帯になっている。
「で、目的は死体あさりだな?」
問いに苦虫をかみつぶしたような顔で視線をそらされた。
その沈黙は肯定とみなすぞ。
白犬族の戦士達はほぼ何も持たない状態でここにきた。
言い換えれば金目になるようなものがなかったから今まで白犬族は襲われていなかったともいえる。
ところが本日荷物を積んだ俺たちが来たことで白犬族は持たざる者から持つものへと変わってしまった。
さらに言えば、略奪をやってるらしい黒豹族に因縁をつけられた。
当然この出来事は尾行していたこいつらも見てるはず。
これはもう白犬族が夜襲を受けるフラグにしかならない。
だからこそ連中は黒豹族が白犬族を襲うのを待ち、略奪が終わって残るもの――例えば死体が身に着けていた武器や防具をはぎ取って生活の足しにするつもりだったんだろう。
ま、この死体あさりの行為自体は地球だって歴史をたどればよくある事だったらしいし、そこについては今の地球の倫理観をもちだしてやめろと言う気はまったくない。
ただし、
「お前ら黒豹族とつるんでやってたな?」
難民側から見れば自分達が襲われるかもしれないってのに大騒ぎにならなかったのも、難民の一部と黒豹族が繋がってると考えれば表ざたにしたくないっていう理由以上に納得がいく。
というか騒がれて黒豹族が略奪をしなくなったらこいつらの収入源が減る事になるしな。
多分黒豹族が襲撃して敵の無力化と主だった金品をかっぱらい、その後でこいつらが後始末もかねて残り物を持っていく。
俺を奴隷商人に売るとかほざいてた黒豹族だし、多少死人がでても生き残りを拉致して死体をこいつらが片付けりゃ実質被害者がいなくなる。
そうなりゃ、わざわざ話を大きくする必要もないってとこか。
多分被害者の方も今日の俺たちみたいに悪目立ちしたとか、あるいは新参者もしくはつまはじきにされるような連中だったのかもな。
さてさて、ある程度事実の推測ができた俺に対して連中がしてきそうな事は、大体2パターンに分類されるだろう。
一つ目は俺を懐柔して仲間に引き入れる事。
そしてもう一つは――俺の口を封じる事だな。
「うわぁぁー--!」
ばらされると思って焦ったのか何か知らないが、連中の一人が叫びながら腰の剣を抜き、俺に向けて切りかかってきた。
男は俺を袈裟切りにしようと大きく振りかぶり、肩めがけて振り下ろす!
一方、俺は腕組みをしたまま動かずそのまま剣を受ける
男の剣は俺の肩を切りつけ、傷一つつけれずに勢いを止めた。
あー、こりゃただの一般人だな。 大振りで力任せ、剣もなまくらと来たもんだ。
そんなんじゃもはや障壁なしでも俺を切る事はできない。
刃物を向けられてもケガしないから動じないとか俺もかなり人間離れしたもんだねぇ。
いや、人間はやめてたわ。
「!?」
剣を振って傷一つつけられなかったことを理解した男の顔が目を見開き驚く。
そのタイミングを狙って、俺は腕組みをほどき――
分断障壁をまとわせた手刀で男が持っていた剣を根元から切り裂く。
ついでに俺の手刀は男の鼻先ギリギリを通り、少し風に吹かれて浮いていた前髪を何本か切った。
「次にやったときはお前の首がこうなる、覚えときな」
「あ……あ……」
切り裂かれ刃渡りが5センチとなった己の剣を呆然と見つめる男に警告を飛ばすと、男は腰でも抜かしたのかその場にへたりと座り込むみ、某特産品みたいにカクカクとうなづき続ける。
股間の辺りが濡れているのは見なかったことにしてやるか。
せめてもの慈悲だ。
今のやりとりを見て、他の連中も悟った事だろう。
人数に任せて一斉に襲っても、死ぬのは自分らだという事を。
連中は押し黙り、俺の一挙一動を見守っている。
まぁ、正確に分析すると足ががくがく震えてたりしてるから、恐怖で頭がまわらないと言ったところか?
「はぁぁー」
「!!」
大きくため息を一つ、それだけでもビビりまくって体をびくつかせる男たち。
いや別にこいつらを官憲……この世界だと警備兵? とにかく出るとこに突き出しても、以前に死体をあさってたっていう証拠はないわけで、シラを切られたらどうしようもない。
かといって逆に俺がこいつらの口を封じても、連中は複数部族の集まりみたいで人種は様々。
黒豹族ともどもそれが一夜で消えたらさすがに騒ぎになるだろう。
となればここは……
「まったく、俺は酒に酔ってトイレに行っただけだ。ここで起きた事なんて寝て起きたら忘れてるだろうよ」
「! あっしらもみんなで連れションに行っただけでさ! ここで何があったかなんて知りやせん! な!?」
「おう!」
うぉう、助け舟を出されたからか判断が早い。
俺だって面倒事はごめんだ。なかった事にできるならそうするのが一番。
これにて一件落着……と言いたいところだが、まだやらなきゃいけないことがある。




