7-45 堕天の暗殺者2
弓に矢をつがえ、発射するタイミングを計る。
やつはこちらを見もしないが、少しでも成功率は上げておいて損はない。
上空を飛ぶアディーラを狙い、男は集中して手を振りかぶった。
今っ!
遮断障壁を解除して矢を放つ!
先ほどと同じように地面を舐めるように飛ぶ矢は相手のふくらはぎめがけて一直線、ここは矢を曲げて一撃必殺の急所狙いより、草に紛れたまま飛ばして足を射抜く作戦だ。
しかし俺が矢を撃った瞬間にあいつはこちらを向き、射抜くはずの足を上げると飛んでくる矢を踏んで止めた。
こっちを見てるそぶりはなかったが、しっかり警戒されてたか? やっぱりただものじゃねぇな!
が! こっちは主攻でもあり囮でもある!
俺の攻撃に対処したことでアディーラがフリーとなり、体勢を直し終わったからな。
万全の状態なら、たとえ数倍の密度の手裏剣が飛んできても彼女なら造作なくよけるだろう。
ジャマダハルを構えてアディーラが男に向かって急降下し、一気にせまる!
アディーラの速度ならこいつを無視して逃げる黒豹族の背を追うこともできるはずだが、この男一人の方が脅威度が高いと判断したか?
男の方も腰から双剣を取り出し、アディーラの突撃に備える。
甘い! 手練れとはいえ彼女の急降下突撃を受けきれるものか!
と、俺は予想してたのだが……
男は胸狙いだったアディーラのジャマダハルを双剣で見事に受ける。
アディーラは動体視力がいいから盾でも守られていない部分をぬって攻撃することができるはずなんだがな。
今回は比較的読まれやすい場所だったからかな?
だが、さすがに衝撃を止めることはできず、さらにアディーラが力任せに男を後ろへとはじいた!
さらにアディーラは一息羽ばたくと、男の方に向けて加速する。
飛ばされた状態ながらもなんとか双剣を構え、後ずさりながらも地面に着地した男だが、
そこに加速をつけたアディーラのさらなる一撃が襲い、男が再び剣で受ける。
これは急降下攻撃と並ぶアディーラの常とう戦術の一つだな。
一見すると同じ事の繰り返しのようだが、加速をつけたアディーラのジャマダハルの一撃は重い。
ほぼ正拳突きみたいなもんだから何度も受けれるもんじゃない。
受ける側は剣から手に威力が伝わり、それが負担となって握力がどんどんなくなっていくのよね。
ソースは俺。
男は攻撃を受けながらも着地した際にえぐれた土をつま先に乗せ、突撃するアディーラに合わせてカウンターの要領で蹴り上げて目つぶしをかけようとしたが、アディーラはしっかり対応して土が舞い上がる軌道から身をそらす。
そう、一歩間違えりゃカウンターや自爆の危険もある戦法なんだよなこれ。
だからこいつは目がいいアディーラにしかできないと思う。
同じことを数回繰り返し、ひるんだスキをついてアディーラがついに左手の剣を弾き飛ばした!
よし! これで決まったな! 流石に右の剣一本で2本のジャマダハルは止められまい!
苦し紛れなのか男は飛ばされた左腕の袖からなにかビー玉くらいの大きさのものをいくつかアディーラに向かって飛ばす。
とはいえそんなものは、跳ねた土をよけたアディーラに通じるはずもない。
今度は予想通り、男はなんとか右の剣でアディーラの初撃を受け止めたが、本命の右手での突き刺しに対応できず脇腹にジャマダハルが突き刺した!
ここで防がれる可能性がある急所の首か心臓を狙わずに確実に入るであろう脇腹を狙ったか。
次は確実に胸に攻撃を入れるため、アディーラは再び左手のジャマダハルを構え
トドメが入るかに見えた時、突然二人の姿が歪んでよく見えなくなった。
!? 一体何が起こった!?
あ! さっき男が出したビー玉が落ちたところから煙というか霧というか暗いからよくわからないが、とにかくなんかもやもやしたものが出ている!
ああくそっ! 索敵障壁がもやもやに反応して巻き込まれた二人の様子がよくわからな――
いや! 上空に反応がある! どうやらアディーラは異常に気付いて上空に飛んで逃げたか。
となると、男だけがこのもやもやに巻き込まれたことになる。
順当に考えれば、これはアディーラから逃げるための煙幕ということになるか?
「ちっ! こんなもので身を隠せると思うなよぉ!」
アディーラがそう叫び、風を巻き起こしてもやもやを吹っ飛ばそうとするが、強風を受けてももやもやは何事もなかったかのように地面を這うように広がっていく。
風の影響を受けないって事は煙でも霧でもないのか? なんだろなあれは?
「逃がすかよぉ!」
「待てアディーラ! 追わなくていい!」
いつの間にか音が聞こえるようになっていたがそれはもうどうでもいい。
大方、ギフトをもって逃げた奴が安全圏まで移動して解除したんだろ。
それよりもやもやに突っ込もうとしたアディーラを念話で止める。
アディーラでもこのもやもやの中では何も見えないだろうし、99%逃げたと思うが万一男が潜伏していた場合思わぬ反撃を食らう危険がある。
「まずは二人の解毒が先だ! 空間魔法使うからつながるまでの間守ってくれ!」
たとえアディーラが男を追い詰めて始末できたとしても、二人が死んじまったらこっちの負けだ。
解毒作業は時間との勝負だから最優先!
右手を突き出し、集中する。
この間は俺は無防備だから何事もなければいいんだが、懸念がある。
このいざこざにまざる気がなさそうだったから今まで放っておいたが、ここからちょっと離れた場所にこちらの様子を伏せてうかがってるやつらが数人いる。
その辺はアディーラも気が付いているみたいでけん制してくれているが……
まだまだトラブルの種は尽きそうにない。
だが今はスケイラとコウを助けるのが最優先だ。